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第二章 バヤールの町
14.侵入
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ほとんど寝ることもせず、じっと部屋の隅でシーツを被ったまま身じろぎもしないリュカ。今後のために、体内にわずかに残る魔力を膨張させるようと集中していた。
そんな深刻そうな様子を見て、アルシェは今のリュカの状況を話してくれた。
エティエンヌの屋敷で病気療養中ということになっている、と。
そして先日「ヴェルマンド家の者がなぜエティエンヌで治療をしているのか」とヴァレルが、王城の廊下でエロアに食って掛かったらしい。
ヴェルマンドとは言え、不躾な新米騎士の物言いにエロアは激怒して、養子縁組解消の話題を持ち出して「リュカは私のものだ。 諦めてさっさと提出しろ」と言い放った。
ここ数年仲の悪かった両家の間に、たまたま通りかかった温厚で知られるフレデリック王が珍しく口を挟み、「まだ提出されていない以上、ヴェルマンドで治療し、健康になってからエティエンヌに行くのが道理ではないか? 兄を思う家族の気持ちが暴走したのだろう。 そもそも病弱な人間を名門エティエンヌの後継者として養子縁組する必要があるのか?」と疑問を呈したため更に話が大きくなった。
しかもエティエンヌといえば、エロアだけでなく過去にも多くの魔塔のトップを排出してきた名門。魔塔の中でも意見が分かれ始めているという。
とはいえ、先に喧嘩を売ったヴァレルの方が分が悪く、1週間の謹慎を食らっている。
そして、そこからはアルシェも言葉を濁したが、もともとのリュカとエロアの噂もあって、みんなリュカを取り合う二人の名門同士の様子に興味津々とのことだった。
「とりあえず、ヴァレルに連絡した方が良くねぇ? 俺、アイツに恨まれたくねぇし」
リュカはその提案に拒否を伝える。後孔からの出血は収まっていたが、汚れた自分を見透かされてしまいそうで怖い。
それに、王都を去れば、噂も収まるだろう。
「そんな簡単に行くかねぇ? てか、エロア師団長にどんなことをされたのか訴えたほうが良くねぇ? 俺も証言するし、相手がエティエンヌつっても、お前にもヴェルマンドがついてるし、もみ消されるとかはないだろ?」
一般的にはそう考えるのが普通だろう。だが、被害者が被害を訴えられないから厄介なのだ。リュカは再び背中が熱くなるのを感じ、シーツをぎゅっと身体にきつく巻き付けた。指は魔法陣を描くように動いている。
(大丈夫。 居場所はバレてない。 逃げ切れる)
そう繰り返し何度も自分に言い聞かせて。
「ありがとうございます。 でもいいんです。 それよりも侵入者は結局どうなったんですか? アルシェさんも大変だったんじゃないですか?」
これ以上話を突っ込まれるとまずい。強く奴隷魔法が反応すれば、エロアに気づかれるような気がして意識を他のことへと変える。
「え? あぁ、城への侵入者は第一騎士団の管轄だし、箝口令敷かれてて俺達はよくわかんねぇんだけどさ。 まぁ、城への出入りとか、街の警備が厳しくなったくらい?」
「まだ捕まってないんですか?」
「あぁ、そうなんだよな。 被害の詳細も俺たちには知らされてないし、ただ厳戒態勢なの。 お前も荷物取りに行く時、気をつけろよ? 警備はもちろんだけど、エロア師団長の子分にでも見つかったら大変そうだからな」
「ありがとうございます…」
不安になるが、あのマジックバッグの中にリュカの全財産が入っているから、どこへ行くにしても持っていきたい。なによりあの絵本だけは持っていきたかった。根拠もないけどあの本にはまだ見つけていない秘密がある、そんな気がしていた。それがわかれば、きっと逃げ切れる、そんな気がする。
「てか、お前王都でてどうすんの? 行くとこあんの?」
「……そうですね。 まぁ色々と…」
嘘だ。行くところなんてどこにもない。エロアから逃れられるならどこだっていいのだ。
「あ、そうだ。 機会があればルコス村に行きたいですね。 アルシェさんが作ってくれた料理、美味しかったんで」
「お前、意外と口上手いな!! おう、今は魔獣で大変だけど、それが落ち着いたらぜひ行ってみろや。 いい村だぜ!? 森と畑だけでなんもねぇけどなっ!!」
2人で笑い合った。
アルシェは本当に面倒見がよい人だ。リュカなんて『厄介事』でしかないのに、色々心配してくれた。
声かけてくれたのがアルシェでよかった。でなければすぐに連れ戻されていたに違いない。
「アルシェさん、ありがとうございました」
「おぅ、気をつけてな」
人目につかない所で馬から降ろしてもらう。
朝の光を浴びたのは久しぶりだ。
人々が活動を始めた時間。寮の人気がなくなる時間。そっと認識阻害魔法を自らにかける。
シーツは目立つから、追跡阻害魔法は腕に描き込んだ。きっと大丈夫。
しんとした室内。2年間住んだ自分の城。
マジックバッグに入らなくなり溢れている大量の生薬と本は諦めた。
最低限必要なものは常にマジックバッグに入れていた。そこにわずかな普段着をムリヤリ詰め込んだ。
心臓がどくどくとうるさいくらいに鼓動を打っていた。長居は禁物だ。
部屋を出ようとした次の瞬間、部屋のドアがあいた。
「リュカ? いるの?」
「え、ギー? …なんで? 君、仕事は?」
すでに勤務時間だと言うのに現れたのはギーだった。リュカが部屋に入ってまだ数分しか立っていない。
違和感の正体に気づく前にギーがリュカに近づいてくる。
「リュカ、ごめんね」
言葉とは異なり、なんとも思っていないような表情で、ギーはリュカに拘束魔法を繰り出した。ギーに対しては心を許していたリュカは、とっさの攻撃に避けることが出来なかった。
「ギー、なんで…?」
ロープで縛られたかのように身動きが取れなくなり、そのまま床に倒れ込む。
顔を上げて見ると、ギーは横を向いてうなずいた。どやどやと室内に入ってくる数人の男達。
「君の部屋に少し細工をさせてもらってたんだ。 大丈夫。 悪いようにはしないからさ。 ただちょっと目立つと困るから、眠っててね」
そう言って呪文を唱えるギー。途端に視界がぼやけた。
近寄ってきた男がリュカを抱きかかえた。
廊下に大きな木箱があるのが見える。その中に押し込まれた時、リュカの意識は闇に包まれた。
そんな深刻そうな様子を見て、アルシェは今のリュカの状況を話してくれた。
エティエンヌの屋敷で病気療養中ということになっている、と。
そして先日「ヴェルマンド家の者がなぜエティエンヌで治療をしているのか」とヴァレルが、王城の廊下でエロアに食って掛かったらしい。
ヴェルマンドとは言え、不躾な新米騎士の物言いにエロアは激怒して、養子縁組解消の話題を持ち出して「リュカは私のものだ。 諦めてさっさと提出しろ」と言い放った。
ここ数年仲の悪かった両家の間に、たまたま通りかかった温厚で知られるフレデリック王が珍しく口を挟み、「まだ提出されていない以上、ヴェルマンドで治療し、健康になってからエティエンヌに行くのが道理ではないか? 兄を思う家族の気持ちが暴走したのだろう。 そもそも病弱な人間を名門エティエンヌの後継者として養子縁組する必要があるのか?」と疑問を呈したため更に話が大きくなった。
しかもエティエンヌといえば、エロアだけでなく過去にも多くの魔塔のトップを排出してきた名門。魔塔の中でも意見が分かれ始めているという。
とはいえ、先に喧嘩を売ったヴァレルの方が分が悪く、1週間の謹慎を食らっている。
そして、そこからはアルシェも言葉を濁したが、もともとのリュカとエロアの噂もあって、みんなリュカを取り合う二人の名門同士の様子に興味津々とのことだった。
「とりあえず、ヴァレルに連絡した方が良くねぇ? 俺、アイツに恨まれたくねぇし」
リュカはその提案に拒否を伝える。後孔からの出血は収まっていたが、汚れた自分を見透かされてしまいそうで怖い。
それに、王都を去れば、噂も収まるだろう。
「そんな簡単に行くかねぇ? てか、エロア師団長にどんなことをされたのか訴えたほうが良くねぇ? 俺も証言するし、相手がエティエンヌつっても、お前にもヴェルマンドがついてるし、もみ消されるとかはないだろ?」
一般的にはそう考えるのが普通だろう。だが、被害者が被害を訴えられないから厄介なのだ。リュカは再び背中が熱くなるのを感じ、シーツをぎゅっと身体にきつく巻き付けた。指は魔法陣を描くように動いている。
(大丈夫。 居場所はバレてない。 逃げ切れる)
そう繰り返し何度も自分に言い聞かせて。
「ありがとうございます。 でもいいんです。 それよりも侵入者は結局どうなったんですか? アルシェさんも大変だったんじゃないですか?」
これ以上話を突っ込まれるとまずい。強く奴隷魔法が反応すれば、エロアに気づかれるような気がして意識を他のことへと変える。
「え? あぁ、城への侵入者は第一騎士団の管轄だし、箝口令敷かれてて俺達はよくわかんねぇんだけどさ。 まぁ、城への出入りとか、街の警備が厳しくなったくらい?」
「まだ捕まってないんですか?」
「あぁ、そうなんだよな。 被害の詳細も俺たちには知らされてないし、ただ厳戒態勢なの。 お前も荷物取りに行く時、気をつけろよ? 警備はもちろんだけど、エロア師団長の子分にでも見つかったら大変そうだからな」
「ありがとうございます…」
不安になるが、あのマジックバッグの中にリュカの全財産が入っているから、どこへ行くにしても持っていきたい。なによりあの絵本だけは持っていきたかった。根拠もないけどあの本にはまだ見つけていない秘密がある、そんな気がしていた。それがわかれば、きっと逃げ切れる、そんな気がする。
「てか、お前王都でてどうすんの? 行くとこあんの?」
「……そうですね。 まぁ色々と…」
嘘だ。行くところなんてどこにもない。エロアから逃れられるならどこだっていいのだ。
「あ、そうだ。 機会があればルコス村に行きたいですね。 アルシェさんが作ってくれた料理、美味しかったんで」
「お前、意外と口上手いな!! おう、今は魔獣で大変だけど、それが落ち着いたらぜひ行ってみろや。 いい村だぜ!? 森と畑だけでなんもねぇけどなっ!!」
2人で笑い合った。
アルシェは本当に面倒見がよい人だ。リュカなんて『厄介事』でしかないのに、色々心配してくれた。
声かけてくれたのがアルシェでよかった。でなければすぐに連れ戻されていたに違いない。
「アルシェさん、ありがとうございました」
「おぅ、気をつけてな」
人目につかない所で馬から降ろしてもらう。
朝の光を浴びたのは久しぶりだ。
人々が活動を始めた時間。寮の人気がなくなる時間。そっと認識阻害魔法を自らにかける。
シーツは目立つから、追跡阻害魔法は腕に描き込んだ。きっと大丈夫。
しんとした室内。2年間住んだ自分の城。
マジックバッグに入らなくなり溢れている大量の生薬と本は諦めた。
最低限必要なものは常にマジックバッグに入れていた。そこにわずかな普段着をムリヤリ詰め込んだ。
心臓がどくどくとうるさいくらいに鼓動を打っていた。長居は禁物だ。
部屋を出ようとした次の瞬間、部屋のドアがあいた。
「リュカ? いるの?」
「え、ギー? …なんで? 君、仕事は?」
すでに勤務時間だと言うのに現れたのはギーだった。リュカが部屋に入ってまだ数分しか立っていない。
違和感の正体に気づく前にギーがリュカに近づいてくる。
「リュカ、ごめんね」
言葉とは異なり、なんとも思っていないような表情で、ギーはリュカに拘束魔法を繰り出した。ギーに対しては心を許していたリュカは、とっさの攻撃に避けることが出来なかった。
「ギー、なんで…?」
ロープで縛られたかのように身動きが取れなくなり、そのまま床に倒れ込む。
顔を上げて見ると、ギーは横を向いてうなずいた。どやどやと室内に入ってくる数人の男達。
「君の部屋に少し細工をさせてもらってたんだ。 大丈夫。 悪いようにはしないからさ。 ただちょっと目立つと困るから、眠っててね」
そう言って呪文を唱えるギー。途端に視界がぼやけた。
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