手紙

猫丸

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4.老人の告白③

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 そうこうしている間に月日が経ち私は二十になり、同級生たちと共に徴兵検査を受けました。
 検査に行く日、兄の表情がこわばっているのがわかりましたが何も言われませんでした。
 私は健康体でしたから、間違いなく検査は通過するでしょう。
 その日から私は身の回りの物を整理し始めました。
 といっても、私の手を煩わせるものなど何もありませんでした。
 兄も戦地に行く前、私と同じように考えたのでしょう。何があっても大丈夫なようにすべての書類や手続きは整っていました。
 戦争神経症になってしまったからと言って、生きて帰ってきてしまったからと言って、覚悟が足りなかったなどと責める周りの者達を殴りたい気持ちになりました。
 兄もまた、命を賭して戦地へと向かったのです。
 ですが、それを誰に言うこともできず、戦場とはどんなところなのか、そこで何があったのかを兄に問いただすこともできず、私は沈黙して日々を過ごしました。

 そんなある日、ふと引き出しの奥から、見たことのない封筒の束を見つけました。
 数えてみるとそれは十通ほどあって、すべて兄宛でした。
 日付を見ると、どうやら戦争から戻ってきてから届いたもののようです。
 差出人の名はSとしか書かれていません。
 どうやら兄の戦友らしいと私はピンときました。
 私はいけないと知りつつ、兄があのようになってしまったヒントが隠されているのではないかとその手紙を読みました。
 手紙は古い順に並べられていて、どうやら訓練の時の辛かった回想録や、兄の笛の音に合わせて皆で歌った事――兄は笛が上手で音楽の成績は常に『秀』でした――戦争という地獄の中で見つけたわずかな安らぎ等、他愛もない思い出話が綴られていました。
 私は少しほっとしました。
 その頃の私は、兄を心配する気持ちと、自分自身の出兵への不安。様々なものに押しつぶされそうになっていたのです。
 ですが、その後に続く一文を読んで私は驚きました。
 ――気の狂いそうな毎日の中で、それでもいつも貴方が隣にいた。それだけが私の救いでした。
 私は飛びあがりそうになって机に膝をぶつけてしまいました。大きな音を立ててしまったので、恐る恐る隣の部屋にいる兄の様子を伺ったのですが、どうやら今は眠っているようです。
 兄は夜眠れないので、時折こうして昼間に眠ることもあったのです。
 私はほっとしてそのまま手紙を読み進めました。
(どういう意味だろう?)
 兄に限ってそんなはずはない、と思うのですが、一度取り憑かれた思考は簡単には振り払えませんでした。
 読み進めるにしたがって、私の不安が的中していることを知りました。
 どうやら兄とSは、男同士でありながら肉体関係まであったようなのです。
 ――貴方と初めてつながった日、私はこのまま死んでも悔いはないと思ったくらい幸せでした。
 ――どうせ死ぬなら、貴方の為に死にたい。そう思うほどあなたのことを愛しています。
(お国が一丸となって敵国に立ち向かって行かねばならないこの時になんと破廉恥で浮ついたことを!)
 私は兄とSに対してひどく憤りました。
「私は違う! 私はお国のために立派にご奉公をするのだ。そのためには命など惜しくない」
 私は自分に言い聞かせるように呟きました。
 ですが私の下半身は痛い程に勃ち上がっていました。
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