手紙

猫丸

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7.老人の告白⑥

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 兄が受け取った最後の手紙。
 それは私がSのふりをして書いたものでした。
 私は兄が寝ている隙に枕元にその手紙を置いたのでした。

 ――前回の手紙は本心ではありません。結婚などというのは嘘です。私は貴方を心の底から愛しています。
 ですが、私は近いうちに遠い所へ行かねばなりません。果たしていつ帰ってこれるのか、私にもとんと見当がつかないのです。
 貴方への愛。私が貴方を想う気持ちに決して嘘はありませんが、私の愛で貴方を縛り付けることもまた本望ではありません。
 私は貴方に幸せになってもらいたいのです。私達は元々結ばれてはいけない関係です。
 それでも愚かな私は貴方にこの気持ちを伝えられずにはいられなかったのです。
 私は貴方を愛しています。
 これだけは間違いなく言える、私の真実です。
 貴方に恋焦がれたまま、これからの寂しい人生を過ごすしかない私を憐れに思うのなら、最後にもう一度だけ私を受け入れてくれないでしょうか。
 もし受け入れてくださるのなら、今日の夕方、私のために笛を吹いてください。それが合図です。貴方の部屋へつながる縁側の窓の鍵を開けておいてくださったら、私は最後に貴方の姿を目に焼き付けてその場を去りましょう。
 ですがお願いです。貴方と目が合ってしまったら、私の決意は揺らいでしまうでしょう。どうか決して私を見ないでください。
 愚かで無力な私を憐れに思うのなら、私の最後の、全身全霊の真心を貴方に捧げさせてください。  S
 
 思い返してみれば、なんと支離滅裂な手紙だろうと思います。
 ですが、私にはもう自分の気持ちの折り合いのつけ方がわからなかったのです。
 手紙のところどころににじみ出る私という存在。
 この手紙はSの仮面を被った私の本心でもあったのです。死地に向かう前に、私は兄を愛する一人の男として兄の前に立ちたかった。

 Sのふりをして手紙を書いた時、ここまでの行為を期待していたわけではありませんでした。ただ恋人として兄を抱きしめ、その唇に触れられれば良いと、ひどく純粋な気持ちでいたのですよ。
 ですがあのような淫らな姿を見せられたものだから、ひどく混乱してしまったのです。嫉妬と執着の感情を思い切りぶつけて抱くのだから、兄だってたまったものじゃなかったと思います。
 兄の身体に、花びらを散らしたように赤い鬱血痕をつけ、乳首やペニスも擦り切れんばかりに愛しました。布団が私の性液と、兄の体液でぐちゃぐちゃになっても私は狂ったように兄を犯しました。
 兄はずっと目隠しをしたまま、私を受け入れてくれました。
 最後には兄のペニスの先端からはもう何も出ていませんでした。がくがくと内腿と腸壁が震えて、兄がイったのがわかりました。
 私は兄の腰を掴み、その体内に最後の精を放ちました。
 そしてしばらくの余韻ののち、私は名残惜しくも、ずるりと兄の体内からペニスを抜きました。
 栓がなくなり、ぐずぐずに蕩けた孔からは、泡立った液体が時折汚い音をたてながら、だらだらと流れ出てきました。
 それがそのまま布団に落ちて、水たまりを作りました。
 そんな兄をそのままにしておくわけにはいかず、私は井戸から手桶に水を汲んで来ました。
 再び縁側から兄の部屋へ入ろうとして、私は思わず手桶を落としてしまいました。
 静かな夜の闇に、がこんと桶の音が響きました。
「に、兄さん……これは、その……」
 私に抱かれ、ぐったりと身体を横たわっていた兄が目隠しを取り、こちらを見ていたのです。
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