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008. MMOグローバリゼーション

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——東の最果ての国・江都大君国
「イルミナート本部から指令が出た。『権限移譲を偽装せよ』とな」
「敢えて反イルミナートの反乱を起こし、反乱軍政権を誕生させる」
「実態は第2次イルミナート政権という訳だな」
 国号を東都帝国に変えた最果ての政権は、外敵を
「解放革命は成功した、次なる解放戦線は南方・月港に移る!!!」


——商丘市・マサハウス
「併合した旧スキート領に関する報告です」
「砂漠地帯には廃墟化したオアシス都市が点在しています。その住民は遊牧民族ニンシャーオとしてスキートの重税から逃れた模様」
「そのニンシャーオとやらはどこに居るの?」
「南方の大河地帯で複数の都市を築いています」
 既に別で定住生活を営んでいる以上、元のオアシス都市に帰す事は無理筋な可能性が高い。
「住民が居なければ、侵攻時の緩衝地帯にならない。……新住民を募るしかないか」
「西域への調査にはヤスベーを向かわせるとしよう」
 西方領域、略して西域への移住民募集のため、まずは調査を行わなければならない。
「続いて南方領域に関してですが、先ほどのニンシャーオが傘下に入りたいという話です」
 本土への侵攻を防ぐためには、勢力圏を確保しておいた方が得策である。
「ニンシャーオは他の国と対立しているのか?」
「いいえ」
 大きなデメリットはない。管轄領域が増えるメリットの方が大きい。
「承諾したと伝えて」
 こうして商丘政権の勢力圏は、大陸の東半に及ぶ事となった。


——東都帝国・陸軍省
「月港への侵攻には海軍だけでは足らぬ」
「いち早く商丘領南方地域を制圧する事が重要である」
「判断を待っている場合ではない、許可が出たとして進軍命令を出せ」
「でも、大丈夫なんですか……?」
「反乱で成立した我が国には、軍規も法律もない」
 これはイルミナート政権ですら想定しなかった事態であった。
 東都帝国陸軍が独断で侵入してきた事に対して、商丘は大パニックに陥った。


——商丘市・マサハウス
「東都帝国の電撃侵攻に対する緊急会議を開催する」
 私が呼び付けたのは、ミコにサムの2人である。ヤスベーを西域の調査に向かわせたのが悔やまれる。
「あくまで勢力圏であるから、対応する必要はないわよ」
 ミコの発言に、サムがこう反論する。
「しかし、対応しなければ将来的に同盟都市の離反は有り得るかと」
 勝算はあるかとミコに訊くと、十分あるという事であった。
「ならば、東都軍を撃滅しに行こうか。サム、ニンシャーオ諸都市にも協力を仰いでくれ」
「了解した」
 こうして東都軍の侵攻との戦いが始まった。


——西域の砂漠
「草原の向こうに砂漠地帯があるとは聞いてたけど、1週間歩いても地平線の向こうが砂漠だなんて……」
 ヤスベーはお供に連れてきたノンベーと駄弁る。
「折角だから、砂漠横断するまで行ってみません?」
 ノンベーの提案に、ヤスベーは「乗った」と興じた。
 それから更に2週間が経過して、再び草原地帯が見えてきた頃。
「旅の商人ですかな?」
 ヤスベー一行に声を掛ける者が居た。
「私は北の果ての地・リトログラントの行商、ヨハノ・ミーロでございます」
 ミーロは2人をリトログラントまで送り届けた。


——北の果て・リトログラント王国
「つい先日、こちらでもイルミナート政権が倒されましてな」
 ミーロの案内をよそに、王都・キヤイコタンの壮麗なタマネギ型ドーム建築群に2人は目を奪われる。
「ようこそ、リトログラント王国へ。私は王女のウィステリアですの」
 出てきたのは、銀髪赤眼の絹製ジャンバースカート系女子。ヤスベーが早速質問する。
「王女とは? 電子世界でも家族経営なのか?」
 ノンベーは『そこ!?』と思いつつも様子を見守る。
「良い質問です。疑似家族ファミリーという機能がありましてね」
 ヤスベーらは全く知らなかったが、ギルド機能とは別にファミリーという機能がある。
「貴方様の居る商丘市の扱いも、データ上では国ではなく『軍事ギルド』なのですのよ」
「って、ミコとヤスの奴ら、2人で疑似家族ファミリー機能使ってやがる!!!」
 文句を垂れるヤスベーに、ウィステリアが提案する。
「……ヤスベーさん、その、我々のファミリーに入りませんか?」
「勿論、そちらが構わないのであれば」
 こうしてウィステリアのファミリーに入ったヤスベーであったが、設定を見てすぐに驚く事となった。
「夫婦っ!?」
「こんにちは、旦那様♡」
 ノンベーは関わらなくて良かった……と心底安堵していた。しかしこの時ノンベーは2人の息子として勝手にファミリーに組み入れられていたのであった。これに気付いたのは暫く後であるが。

「そういえば、貴方たちも『はじまりの町』を倒したんですよね?」
 ウィステリアの問いにヤスベーは肯定する。
「噂はかねがね、お聞きしておりますのよ♡」
「いちいち語尾に♡を付けるんじゃない!!!」
 ヤスベーの注意をよそに、ウィステリアは話を続ける。
「キヤイコタンは『はじまりの町』を占拠した街ですが、商丘はどんな街並みですの?」
「マサとミコが2人で作った愛の巣ですよーだ」
 『マサミコファミリー』に入れて貰えなかった事に不貞腐れたヤスベーは不機嫌そうに言う。
「じゃあ、ここを私たちの愛の巣としましょう♡」
「だから♡を付けるなって!!!」
「絶対不利な状況での逆転劇、強敵スキートの撃破、色々聞いておりますのよ♡」
「とにかく、早く王様に会わせやがれ」
「もう、旦那様ったら、せっかちなんだからー♡」
 何とかリトログラントの王と面会する事に成功したヤスベーであったが、特に打算があった訳ではない。
「お初にお目に掛かります、商丘から来たヤスベーと申します」
「そんな畏まらなくて良いよー、だってウィステリアの夫なんでしょ?」
(リトログラントはこんな奴ばっかりなのか……!?)
 ヤスベーは困惑しながらも「では、お言葉に甘えて」と返す。
(何が『お言葉に甘えて』だよ、既成事実化されちゃったじゃねぇかよ)
 自分自身から漏れだした言葉に後悔しながらも、ヤスベーは談笑する。


——リトログラント王国・王女の部屋
「うちの王様、気さくでしょ?」
(気さくというか……距離感おかしくねぇか!?)
 ウィステリアの言葉に、ヤスベーは思わずツッコミを入れそうになる。
(危ねぇ、外交問題モノだった)
「ヤスベーは帰っちゃうの?」
 目を潤ませながら訊くウィステリアだが、ヤスベーには任務がある。
(本来は砂漠のオアシス都市の調査に来たのに、雪国の王女様と結婚して帰れなくなったなんて言えねぇ……)
 困ったヤスベーはウィステリアにこう言った。
「一緒に商丘に来ても良いけど、多分来れないだろうし、もうお別れかな」
 ウィステリアは即座に返事した。
「一緒に行くわよ♡」
 壁の後ろで聞いていた王様も出てきて、親指を立てて言う。
「全然OKだよ!!!」
(マジかよ……)
 こうしてヤスベーはウィステリアを連れて、商丘まで戻る事となった。


——商丘市・マサハウス
「ニンシャーオ軍は既に東都軍と交戦、大敗を喫した模様」
 この報告に対し、ミコは今すぐ装備品を南方に持っていくよう指示を飛ばす。
「東都の目的は一体何なのかしら……」
 ミコがそう悩む中、サムが月港に情報収集から帰ってきた。
月港ルーナ・ハヴェーノへの侵攻が目的らしいでござる」
「つまり攻撃の意図はない、と?」
「かもしれません」
「マサ、これどうする?」
 ミコはござる語尾のキャラがたまに崩れるサムに微笑みつつ、私の対応を訊いた。
「市民は城や砦に避難させた上で、放置しよう」
「了解っ」
 あとは東都軍が通り過ぎるのを待つのみ、となった。
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