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曽我雪政

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011. 我々の将来、この一戦にあり

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——商丘帝国・マサハウス
「この前新たに西方遊牧民ネルガルと出会いましてな」
 サムの報告は、我が帝国に激震を走らせた。
「近代化に成功したネウストリア帝国の大艦隊が東都復興を掲げて遠征してくるのだとか」
 ただの大艦隊ならまだしも、最新鋭の戦艦を投入しているらしい。
「相変わらず、イルミナートは情け容赦の欠片もないなぁ」
 ヤスベーの呟きも至極真っ当である。歩兵の10倍強いと言われる騎兵の大軍で攻め寄せたり、40万の木造大艦隊で上陸を試みたり。やられる側としては、いつも存亡の危機である。
「敵艦隊の情報が掴め次第、迎撃艦隊を編成する」
 ヤスベーは終始情報収集に徹した。


——ネウストリア帝国・帝都エクスラシャペル
皇帝陛下グランド・マスター、艦隊の派遣を行いました」
「大陸中央部はどうなっている?」
「西方遊牧民ネルガルを煽動しつつ、月港への攻撃を加えています」
「その兵力、商丘にも充てよ」
「旧スキート領への遠征ですか?」
 旧スキート領は大陸中央部にあり、全ての『はじまりの町』を繋ぐ要衝地帯。『はじまりの町』の3つが背いている今、ここの攻略は奪還戦の第1歩なのである。
「商丘を叩き潰せば、全ては解決する」


——商丘帝国・マサハウス
「敵艦隊は大陸南西部のサルペ帝国に寄港した後、東都へ向かう模様」
 相槌を打とうとした瞬間、報告が入った。
「西方遊牧民ネルガル、我が領内に侵攻してきました!!!」
 陸と海の同時侵攻である。但し、向こう側も連携を取りきれていないのか、時間差が激しい。ここを逆手に取り、各個撃破していく事はできるだろう。
「まずは陸上侵攻を対処するぞ」
 そう言い残したヤスベーは、ウィステリアと4万の軍勢を率いて出陣した。
「海上戦力は私たちで何とかしろという事かしらね」
 こちらはミコと私が対処する事になったらしい。
「敵は総勢40隻、こちらは砲艦5隻に装甲艦6隻……圧倒的不利ね」
 続けてミコはとてつもない目標を掲げる。
「向こうが40隻なら、こちらは100隻艦隊を作るわよ」
 これによりミコの主導で進められた100隻艦隊構想には、帝国勢力圏各地から集められた資源が次々に投下された。
「これに備えて造船所は大量に作ってある、建造費さえあればできるわよ」
 建造費には、これまで『へそくり』として貯めてあったお金が使われたらしい。
「どんだけこっそり貯めてたの!?」
「ざっと5兆円くらい?」
 どうやらこの前の東都侵攻で蓄財したものが大きいらしい。国家財産を差し押さえてやりくりしていたとは。
「とにかく、100隻艦隊は間に合いそうだけど、練度が一番大事なのよ」
 ミコの依頼を受け、私は急遽海軍を再編する事となった。


——ネウストリア帝国・連合艦隊
「いよいよ東都だな」
「何もないと良いのですが……」
「そんな訳はないだろう」
「急報、我が艦隊後方に艦影を発見」
「我々の目的は東都に辿り着き、政権を立て直す事だ。無視せよ」
「全速全進していますが、商丘艦隊であれば敵艦です」
 その正体は月港から派遣された艦隊であった。月港は補給港使用要請を拒絶するなど、ネウストリアに敵対的なのである。
 月港領の諸島部を通り過ぎ、東都諸島と大陸の海峡部に差し掛かった時であった。
「またしても艦影発見、月港艦隊ではない模様」
「となると商丘帝国だ、撃ち方用意っ!!!」
 ネウストリアの将官は皆、商丘の海軍が貧弱だと聞いていた。少なくとも東都や密偵からの報告では、砲艦5隻のみの地域海軍であった。実際、ネウストリアの大艦隊が港を出た際には、商丘の艦隊は貧弱であった。
「敵方、装甲艦からの砲火が始まりました」


——商丘帝国艦隊
「敵影確認次第撃ち方用意」
「我々の将来、この一戦にあり。全てはこの戦いに掛かっている」
 そう言った瞬間、敵影が確認される。
「撃てぇ!!!」
 4隻の砲艦が、敵の行く手を阻む形で横に並び、砲火を浴びせる。
(そろそろミコ隊が撃ち始める頃合い……)
 ミコは砲艦6隻を率いて敵の横から反航戦を仕掛ける。簡単に言えば、擦れ違いざまに撃ちまくる戦術である。
「ミコ隊、接敵」
 無事であってくれと願いつつ、敵艦隊の撃滅も願う。
「急報、敵艦隊が転舵に失敗、砲撃により上部機関に甚大な損害を与えた模様」
「敵艦に攻撃能力はないという事だな?」
「左様にございます」
 敵艦の継戦能力が失われた時点で、戦いは決したようなもの。
「敵に降伏勧告、並びに全機関の停止を勧告せよ」
 敵はこれに応じ、敵15隻、味方4隻の損害で、戦いは終わろうとしていた。
「大変です、講和に応じると言った艦隊長がミコ様を斬りつけ、ミコ様が白灰化しました!!!」
 白灰化してしまうと、個人情報が抜き出され、数日後に殺害されてしまう。この事は幾つもの白灰化事例から導き出されている。
 駆け付けると、艦隊長は自身の持つ白灰化の刀で自らをも白灰化させて消えていった。

 彼女のリアルを知る者は私だけである。
 私が助けねば。


——翌日
「ミコ、大丈夫?」
 幸いな事に、ミコにはまだ何もないらしい。
 しかし、いずれ必ず殺しに掛かるのだろう。白灰化は「イルミナートへの反逆者」に施される特殊な処理らしい。
「いずれ人は死ぬのよ。それに私だけでこの世をどうにか出来る訳じゃないわ」
 ミコはそう言うが、納得できない。
「白灰化されたアカウントと結びついている個人データを全て捨てて、逃げるよ」
 ミコはとても驚く。
「何としても君を救うよ」
 取り敢えずこう言ったは良いが、何か案がある訳ではない。
「マサ、今何も考えずに言ったでしょ?」
 ニマニマした顔でミコが言ってくる。
「一緒に考えてあげるわよ、というか、元々は私の問題なのだし」
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