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014. 不可能は小心者の幻影よ

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——電子世界・商丘帝国
 一方その頃、電子世界では、次の戦いへの備えが始まっていた。
「ネウストリアの魔術に対抗する兵器はできたか?」
 ヤスベーの問いに、トモナリが答える。
「あぁ、もう少しで対魔術兵器が完成するよ。あとは試験だけだ」
 トモナリの対魔術兵器は、先にこちら側で周囲に満ちた魔力を使い切る兵器である。そのため、とてつもない爆発を伴う。
「爆発のコントロールがようやく上手くいきそうなんだよ」
 トモナリの発言からは苦労が垣間見える。
「爆発を使って砲弾を飛ばせるようにしたいんだけど、砲身が保たないんだよね」
「そうかぁ……」
 ヤスベーはとても残念そうにした。というのも、今の戦場では砲撃力がモノを言っているからである。
 敵は機関銃や大砲を次々に導入するに違いない。勝つためには、こちらはそれを上回らないといけない。
「今の所は上空に爆風を逃がしてるから、使えて対空砲かな」
 そんな中で、アウストラシアがネルガルの攻撃を受けた。我々はアウストラシアと共にネルガルを挟撃し、殲滅した。
 これに反発したネウストリアは、アウストラシアの領空を侵犯した。空を侵したのである。
「急報、ドラゴンやワイバーンと思しき群れがアウストラシアを襲っています」
 やっている事が最早魔王の所業である。
「早速だが、対魔術兵器を実戦運用してみようじゃないか」
 ヤスベーの発案により、この試験兵器は最前線に持ち込まれた。
「敵ドラゴン兵・ワイバーン兵、数百頭が接近っ!!! 間もなく落石攻撃の餌食になってしまいます!!! 早く逃げましょう!!!」
 使者が怖気付く中で、ヤスベーは指示を出す。
「対魔術兵器『火雷からい破魔弓はまゆみ』装填完了。続いて発射用意、3、2、1」
「……発射っ!!!」
 その瞬間、空一面の雷霆が鳴り響き、同時にドラゴンを粉砕した。雷に運良く当たらなかったドラゴンたちも、魔力不足で次々に倒れていった。
「敵、魔力不足により全て墜落、我が方損害ゼロ!!!」
 これまで逃げるしかなかった魔術に対し、初めて抗う術が生まれた瞬間であった。


——現実世界・今宮ミコの居る神社
 電子世界での対魔術兵器の開発を見て、ミコが尋ねる。
「雪乃ちゃん、また入れ知恵したでしょ?」
「勿論よ、そうしないと間に合わなかったからね」
「マサにはどこまで明かしたの?」
「家の略史くらいかな」
 なるほど、と言いつつも、ミコは不安になる。
(隠してばかりで、嫌われないと良いのだけど……)


——電子世界・ネウストリア帝都・エクスラシャペル
「派遣したドラゴン大隊が撃墜された?」
「商丘側の雷攻撃で叩き落とされました」
「……それは自然災害ではないのか?」
 そうは言ったものの、皇帝は商丘の攻撃である事を知っていた。何故なら皇帝は、この世界の管理者アドミニストレータ―権限を有しているからである。
(天候操作は俺だけの権限。一時的とはいえ、無理矢理捻じ曲げるだなんて……)
 いささかの警戒心と共に、皇帝は次なる勅令を出した。
「地水風火の4属性全てに優越する魔術師を呼び寄せよ」
「つまり……」
「そうだ、その『つまり』だ」


——電子世界・アウストラシア
 突然に、ネウストリアからの魔術師がやってきた。
 彼はアウストラシア魔術隊の攻撃を物ともせず、100倍返しにして壊滅させた。
 辺境地帯で大混乱の起こる中、臨時首都ノルトマルクにも急報が入った。
「突如現れたネウストリア軍が、この街を包囲しましたっ!!!」
 辺境部隊を全滅させた彼は、辺境のネウストリア軍と共に転移してきたのであった。
 対して、臨時首都ノルトマルクは50mの空堀を備えた城郭都市であった。しかし彼の放つエネルギー弾は、城壁をいとも簡単に貫いた。
「逃げろー!!!」
 逃げ惑う市民は次々に白灰化されていき、あっという間に人口はゼロとなった。
「殲滅任務完了、次は商丘へ向かう」
 彼は聖属性魔術師である。管理者アドミニストレータ―によって、4大属性に対する絶対的優越を与えられているのだ。魔力をも自給してしまう彼を、阻む事ができる魔術師はいない。


——現実世界・今宮ミコの居る神社
「最近は変な人影が多いわね」
 ミコは雪乃が来たのを見て話しかける。
「うちに来ても良いと言いたいけど、既にマークされてるのよね」
「アカウントの復旧が出来れば良いのだけど……」
「白灰化されたアカウントは消えたんじゃなくて、別に隔離されているだけだものね」
 ミコと雪乃は、ある筋から白灰化の正体について少しだけ知っている。『捜査ゼロ課』という特務機関である。警視庁の部署ではない。敗戦直後に由岐家が創設した、イルミナートとの戦闘組織である。しかし、捜査零課でも中々対処できていない問題なのである。
「運営に訊いても勿論音沙汰なし、このまま逃げ続けるしかないのかしら」
「そんな弱気になっても仕方ないわ、不可能は小心者の幻影よ」
 雪乃はナポレオンの格言を引用してミコを励ます。
「取り敢えず、ミコはマサの家にでも行きなさい」
「えぇっ!?!?!?」
 驚くミコを前に雪乃は続ける。
「曲がりなりにもミコの彼氏なんだから、どうにかしてくれるわよ」
「か、彼氏!? まだそんなのじゃない……」
 赤面するミコを見て雪乃も驚く。
「貴女たち、まだ付き合ってなかったの!?」
「……それなら、いっその事付き合っちゃいなさい!!!」
「はわわわわわわわ!?!?!?!?」
 限界キャパオーバー限界オーバーフローなミコに、雪乃は更に言う。
「そんでもって、マサの家に転がり込みなさい!!!」
 ミコが羞恥で倒れそうになっている時であった。私が山を登ったのは。
「行けぇ、ミコっち!!!」
 雪乃が煽ってミコが言う。
「あ、あの……付き合ってあげなくもないんですのよ???」
(ミコっち、それではまるで意味が伝わらないよ……)
「私はミコの事が好きだよ」
(伝わった!?!?)
「じゃあ、取り敢えず同棲から……」
(今度は本題に切り出すのが早すぎるよ!?!?!?)
「喜んで」
(はわわわわわわわ!?!?!?!?)
 雪乃は顔を赤らめながらも、それを必死に隠し通した。
 こんな事があって、ミコは私の家で暮らす事となった。
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