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曽我雪政

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015. 不可能は卑怯者の避難所でもある

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——電子世界・商丘帝国
 聖属性魔術師によるアウストラシアの壊滅は、世界中に衝撃を与えた。
「アウストラシアが壊滅したそうです」
 この報告が来た時には、既に我が帝国の西部への侵攻を許していた。
 国境地帯にはアウストラシアからの亡命者が押し寄せた。対魔術兵器『火雷からい破魔弓はまゆみ』も時間稼ぎにすらならない。
 そんな中、かつてのスキート王チェンバロの側近だった人物が、ある提案をしてきた。
「『空飛ぶホウキ』で対抗しては如何でしょう?」
 簡単に言うと、敵の反撃を受けない高高度から爆撃を繰り返すという作戦であった。
 ヤスベーが賛同し、速やかに作戦の準備が整えられた。
 必要な魔術ホウキなどの調達も既に終わっており、後は実行あるのみであった。
「爆撃予定地は旧スキート領の砂漠地帯、敵の総数6万」
 高度1万mからの魔術爆撃。普通ならば酸欠だか高山病だかになる所である。しかし、低酸素耐性の魔術エンチャントを施したヘルメットがあるため、問題はない。
「爆撃開始っ!!!」
 高高度からの一斉爆撃は効果抜群であった。数千人が空飛ぶホウキに乗って爆撃を行ったため、逃げ隠れする場所がなかったのだ。
「敵部隊を殆ど撃滅、しかし魔術師は無事な模様」
 敵の聖属性魔術師は、爆撃に対して防御魔術バリアーを使用していた。激しい爆撃のため広範囲使用はできなかったようだが、敵兵数百がこれで助かっている。
「次々に防御陣地が破られていますが、一部持ち堪えている部分もあります」
 砂漠の要塞にも、瞬殺されている部分と落とされていない部分があるらしい。ヤスベーは心当たりがあるようで、伝令兵に尋ねた。
「破られた防御陣地は、土属性・水属性・火属性の魔術師がメインではなかったか?」
「そ、そういえば……」
 報告を見たり聞いたりした者が驚く中、ヤスベーは続けて言う。
「恐らく、敵陣営は地・水・風・火の四大元素をベースにしてる。今攻め込んできている敵は、恐らく四大元素への優位を持ってる。対してこちらは木・火・土・金・水の五大元素をベースにしてる」
 事実、聖属性は四大元素への絶対優位を持っている属性であった。
「四大元素と重なってない木属性・金属性なら勝ち目があるかもしれない」
 しかし、ここで全員が困った。
「木属性や金属性の魔術って、そもそも何?」


——現実世界・マサの家
「マサの家、こんな感じなんだー」
 ミコは自宅と正反対の、たった5畳の家を見て少し驚く。
 マサの家は郊外にある、微妙に狭い家である。風呂や洗濯機が共有でないという一点で選んだ家である。
「裏山でも散歩する?」
 何も思いつかなかった私は、取り敢えず居場所を変える事とした。
 裏山に行くと、ミコが急に親しくしてくる。
「もう現実に付き合い始めたのだから、手繋ぎデートぐらいはしても良いと思うの」
 確かに、カップルの3割が手繋ぎデートをしているという体感はある。私もそれを見て「いつかはあんな風に」と思っていた。それに、人目も監視カメラも無いこの裏山であれば、妨げるものは何もない。
「繋いでみよっか」
 平静を装って言ったものの、内心は緊張と不安と焦燥で限界であった。言ってはみたけど、どうすれば良いのか。考えがまとまらない。突然の提案への準備不足による緊張と、上手くいくだろうかという不安。それに加えて、勘付かれぬよう早く繋がねばという焦燥。
 ミコの方から手を差し出してくれたので、手を繋ぎにいく。もう付き合い始めたのだから、恋人繋ぎが良いのか。それともまだ初回であるし、普通の繋ぎ方が良いのか。分からないまま手を繋ぐ。最早、どちらかなんて記憶にない。
「強く握り過ぎじゃないかしら?」
 ミコがそう言ってきたので、口から出まかせが飛び出た。
「ちょっと愛が強すぎたかな?」
 心中を見透かしたかのように、ミコが答えた。
「マサがガチガチに緊張してるんじゃないの」
 そう言ってミコは、いきなり私の手を引いた。ビックリした私は、思わず「ひぇっ」と声を出しながら、引かれた方へ転びそうになった。ミコがそれを支えて言う。
「ほーらね」
 裏山といっても車が2台並んで通れる道のりで、しかも300mくらいしかない。とても短いけれども、私にとってはこれでも十分満足である。
(というか、ずっとドキドキして話にならないんですがー!!!!!)
 本音はこんな感じである。手を繋ぐ事自体に意識が向きすぎて、全く会話にならない。それどころか、手を繋いでいた時の記憶がない。


——電子世界・ネウストリア軍
「残った兵士は400か……まあ十分」
 聖属性魔術師ホリー・ポティストはそう呟く。
「今より我々は大幅に加速し、商丘周辺まで詰め寄る」
 奇襲攻撃を宣言した彼は、高速移動の魔術エンチャントを全兵士に付与した。
 今やネウストリアの全軍を動員した大遠征は400人の部隊にまでなってしまっていた。しかし彼にとっては、十分すぎるアドバンテージであった。
 彼らが東の『はじまりの町』の跡地に辿り着く頃。商丘の迎撃隊は『火雷破魔弓』で魔力を枯渇させようとした。しかし、魔力の自給ができる彼相手には無益であった。
「行け、君たちは今、時速800kmで高速移動ができるのだから」
 彼は魔術エンチャントを施した兵士達に言い放った。しかし動体視力がそれに追いつく訳がなかった。瓦礫や銃弾に自ら激突する始末で、惨憺さんたんたる結果であった。
「魔術師を見つけ次第、集中砲火を浴びせよ」
「見つけたぞ、撃てぇ!!!」
 防御魔術を張るので精一杯で、転移ワープしようにも流石に魔力不足。
「友軍が遺跡にて交戦中との事、爆撃を開始せよ」
 そんな中で空飛ぶホウキ隊による大穴クレーターを作るほどの爆撃が行われた。包囲部隊も爆撃に巻き込まれるが、また別の部隊が魔術師に銃弾を浴びせる。
 ほんの少し後方では、白灰化の剣を持ったヤスベーが、一騎打ちに持ち込もうとしていた。
「この爆撃の中で行くのはやめて、貴方が消えちゃうかもしれない」
 ウィステリアが止める中、ヤスベーはこう言う。
「不可能は卑怯者の避難所でもあるからなぁ。自分の安全のために、君や皆を危険に晒すのは違うだろう? それに、マサやミコが行くのは危険すぎる」
 ヤスベーは知っていた。この剣が死因となるのが白灰化の条件であり、爆撃で倒れてもリスポーン可能だという事を。しかしウィステリアや一部の人は、剣の周辺で倒れてしまうと白灰化するものだと思っていた。また、魔術師がどんな奥の手を用意しているか分からないというのは事実で、その点では危険な任務であった。
 戦線へと突入したヤスベーは、爆撃と瓦礫を潜り抜けていき、ホリーに肉薄した。
「何っ!?」
 ホリーが気付いた瞬間であった。ヤスベーは多重結界に閉じ込められたが、同時にホリーを貫いていた。二撃目に移れない。その点では致命的であった。しかし一撃で仕留めたらしく、ホリーの白灰化と共に結界は消失していった。ヤスベーは帰ってきた。
 ウィステリアが泣き喚く中、ヤスベーは白灰化の条件を説明する。
「それでも怖かったんだから……次からあんな無茶しないでよ……」
 ヤスベーは反省する。自分の事をここまで想ってくれる人が居るのだな、と。


——電子世界・ネウストリア帝国・帝都エクスラシャペル
「ホリーが討ち取られました」
 この報告には、議場の全員が腰を抜かした。
「こうなれば、最終決戦に持ち込むしかあるまい」
 議場に電撃が走る。
「隣国サルペ帝国も動員し、総力戦を決行する」
「了解致しました!!!」
「まずはリトログラントから順次攻略する事とする」
 北方大遠征の先には、ウィステリアの『ファミリー』が居る。そういう訳で、商丘とネウストリアの最終決戦が幕を開ける事となったのである。
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