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017. イエスかノーか

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——電子世界・北の孤島イスランダル
 ネウストリア本土を失った支配者たちは、全長500kmのこの孤島からの反攻を考えた。
「大陸との海峡部に最新鋭の戦艦を配備せよ」
 皇帝の命令は妥当なものであった。というのも、ネウストリア帝国艦隊は殆ど無傷のままであったのである。
「航空決戦の後に上陸を図る。研究中であった夜間戦闘機を用意せよ」
 ネウストリアには戦闘機数百機と空母5隻が残存しており、侮れない戦力であった。夜間戦闘機の導入は特に脅威であった。
 この情報は、帝都エクスラシャペル陥落後の押収資料から明らかになっていた。

「急報、ネウストリア本土に戦闘機が来襲、『空飛ぶホウキ』隊が全滅!!!」
 灰塵に帰したエクスラシャペルに遮蔽物はない。駐留部隊も甚大な被害を受けた。
「敵基地撃滅の爆撃計画を策定してくれ」
 ヤスベーにそう依頼すると、驚きの答えが返ってきた。
「既に案はあるよ」
「敵航空隊を正面から叩かない作戦ね。オトリ部隊を出撃させておいて、その間に敵母艦や基地を叩く」
 商丘の航空隊はオトリ隊と攻撃隊の2つに分けられた。オトリ隊は正面突撃を図り、攻撃隊は背後から攻撃を仕掛けるという算段である。この戦いには、電子世界初の無線連絡によるリアルタイムな戦況が伝えられた。
「オトリ隊、出撃しました」
 オトリ隊は大陸から孤島へ向けての攻撃を演じる。
「敵航空隊の出撃を確認、オトリ隊と交戦に入ります」
 一方で攻撃隊は、イスランダル島よりも北方から爆撃を敢行する。
「攻撃隊、間もなく敵航空基地上空。爆撃開始します」
 イスランダル唯一の航空基地には大穴クレーターが続出した。
「間もなく敵航空母艦上空。急降下爆撃を実施します」
 3回の攻撃で敵空母5隻全ての甲板が使用不能となり、加えて空母3隻を撃沈した。
「敵機、間もなく緊急帰還する模様。攻撃隊は格闘戦ドッグファイトに備えよ」
 攻撃隊はイスランダル島に戻ろうとする敵機を次々攻撃した。
 この時、予想外の事態が発生した。
「イスランダル島上空で白灰化現象、全機緊急離脱します」
 後々の調べによると、決戦兵器として白灰化爆弾を積んだ爆撃機が1機あったらしい。白灰化はイスランダル島の半分をも包み込み、皇帝諸共消え去った。


——現実世界・マサの家
「白灰化されたアカウントが元に戻ったわよ!!!」
 ミコが大喜びして私に言う。敵の元締めを討ち取ったのだから、ある意味当然ではあるのだが。
「という事は、白灰化ブラックリストから脱出したから、もう安全なんだよね!!!」
「じゃあこの家からも出られるね?」
 ミコにそう言うと、何だか不機嫌そうである。同居状態だと、色々気にして疲れるのだが。
「これで一緒に外でデートできるね」
 ミコが私にそう詰め寄る。押し負けた私は、明日デートしようと提案した。
「今日じゃダメなの?」
 予定が空いている事を事前にサーチしているのだから、ちょっぴり怖い。
 プランも何も立てていないし、準備の欠片もないが、仕方ない。こうしてミコと私は、裏山を除いて初のお外デートに出掛ける事とした。
「……どこに行きたい?」
 デートスポットも特に知らない私は、ミコに丸投げした。
「嵐山に行きたい所があってね」
 北野きたの白梅はくばいちょうから帷子かたびらつじを経由して、嵐山駅に着いた。
「こっちよ!!!」
 カンニングスマホを片手に道案内をするミコ。その先には竹林が広がっていた。竹林の中にある野宮神社が今回の目的地らしい。
「お目当てはこの『黒木の鳥居』?」
 ミコに訊くと、鳥居はどうでも良いのだと一蹴されてしまった。
「……って、あれはどこかしら?」
「『あれ』とは?」
「触ってお願いしたら1年以内にお願いが叶うっていう石があるのよ」
 2人して探したが、その石は中々見つからない。仕方がないのでネットで調べてみるも、分からない。あるのは穢れ落としの紙を浮かべる水だったり、龍の泉だったり。
 見当たらないので仕方なく御神籤おみくじを引いてみる。
「『恋愛』の欄、どんな事書いてたか教えてよ」
 ミコに訊かれたので『恋愛 一途な思いが愛を深める 行動こうどうで示せ』と読み上げる。
「一途ねぇ……」
 ミコはそう呟きながらニヤニヤしている。これは何か悪戯を考えている時の顔である。
「まあ、満足いく御神籤だったし、帰ろうか」
 ミコが本来の目的を忘れた瞬間、私は気付いた。
「あれじゃない?」
 探していた『触ると1年以内に願いが叶う石』は、目立たない形ですぐ隣にあった。
「何を願ったの?」
「教えてあげませーん」
「ケチなミコは教えてくれないんだー、じゃあケチミコだね」
「何よ、ケチミコって!?」
「だって教えてくれないじゃん」
「ひーどーいー」
 そんな会話を繰り広げながらも、竹林を歩いて元の道に戻った。
 その瞬間であった。
「マサ、こっち向いて」
「ん?」
 顔を向けた瞬間、ミコが強引に顔を近付けてきた。
 突然の事で何もできなかったが、唇同士が接触した。
「『公道こうどうで示せ』でしょ?」
 見ている人が居たのに路チューされてしまっては恥ずかしさしかない。
「あのぅ……御神籤の『こうどう』って、『公道』じゃないのよ……」
 そう言うとミコはそっぽを向いて「知らなかったヨ……」と一言。
 嘘をつくのがド下手なミコの素振りから見るに、分かっていて事に及んだのだろう。
「いきなり私のファーストキスを奪うだなんて……」
 そんな事を言っているけれども、仕掛けたのは貴女ですよ、ミコさーん!?
 何も言い返せなくなったのか、ミコはこんな事をのたまい始めた。
「キス1回でストレスが1/3になるらしいよ!!!」
 つまり?
「あと6回キスすればストレスは1/2187よ!!!」
(そういう事ではないと思うんだけどなぁ……)
 これ以上の暴走はマズい。取り敢えず私は、ミコを家に強制送還する事とした。
「もう逃げ隠れする必要ないんだから、家に帰れるでしょ?」
「……」
 納得いかなさそうな、ムスっとした顔で見つめてくる。この顔もまた可愛い。
「じゃあ1週間に1回だけなら、うちに泊まりに来ても良いから」
 そう言うと、目を輝かせてミコが言う。
「ホントに!? ……指切り拳万、嘘ついたら針千本呑ますからね」
 喩えが怖いが、了承してやっと家に帰りつく。
 しかし、いざ帰宅してみると、ミコの居ないボッチ生活に戻っただけだ。
 ピンポーン。
「宅配便でーす」
 どこかで聞いたような声である。
 扉を開けると、そこには巨大な段ボール箱が1つ。
(これ、扉に入らない大きさだなぁ……)
 そう呟いた瞬間、段ボール箱が開いた。
「おしゃべり抱き枕ミコちゃんだよ!!!」
 繰り返すが、うちはアパートである。
 隣の人が帰ってきたタイミングでそれをやられると、大変気まずい。
「まあ、最近の人はそんな趣味なのねぇ」
 何か誤解された感は否めないが、取り敢えずミコを家に入れる。
「……という訳で、来ちゃった!!!」
 来ちゃったじゃねーよ!?
「で、今後も一緒に住むの? イエスかノーかで答えて」
 一瞬で既成事実化を図るミコ。
「……イエスで」
 こうして、ミコとの同居生活は続く事となった。
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