メタバース世界が利権まみれなので、既得権益を打破します!

曽我雪政

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019. 空中バベルタワー

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——電子世界・天城あまぎ
 ユミの玉ねぎ型UFOに乗ってやってきた先は、人参型空中都市・天城であった。
「天界・臨界・雲界・人界・地界の5層に分かれているのよ」
「その5層のどこに着陸するの?」
「勿論『天界』よ」
 天城市の最上部。高度90kmの彼方に浮かぶ空中都市は、如何なる航空機をも寄せ付けない。
「たまにだけど、オーロラがすぐ近くに見えるよ」
 ユミがそう言って私に窓を見せると、丁度オーロラが出ていた。
「綺麗でしょ?」
 白色や緑色に輝く天空のカーテンはとても美しい。まるで本物のようである。
「ただ、オーロラの後は熱が発生して、大気が膨張するのよね」
 ユミがそう言った瞬間、都市全体が揺れた。
 飛行機がジェット気流で揺れるのとは比にならない。地震といった方が近いかもしれない。
「オーロラは56日おきに強くなったり弱くなったりするのよ」
 『Tokoyo』での時間は現実時間の1/72で進行する。実際の太陽の活動周期である11年を反映しているのだろう。
「外気との気圧差は大丈夫なの?」
「そういえば、天城の動力源について説明してなかったわね」
 ユミは『地界』まで私を案内し、飛行石アンオブタニウムを見せてくれた。
「ヒヒイロカネ、オリハルコン、賢者の石を3:1:1で調合したものよ」
 この3種のレアアイテムは既に世界から取り尽くされ、飛行石アンオブタニウムは再現不能だという。
「どうしてそんな事を?」
 手間を考えれば割に合わない話であるが、ユミはそれを否定する。
「イルミナートにはどう頑張っても勝てない。じゃあ独立するしかないでしょう? だから空中都市を作ったの」
 続けてユミは言う。
「……まさか、正面からぶっ倒しちゃうとは思わなかったけどね」
 とはいえ、ユミはこの空中都市から下りる気はないのだという。
「このメタ世界で一時の安寧を得ても、世界の外には宇宙オープンメタバースがあるのよ。スッポンが地球を征服したとしても、宇宙を征服できはしないでしょ?」
「……だから、ここで私と2人だけで、何もかにも捨てて一緒に暮らしましょ?」
 貴方はその資格がある、と言いつつ、ユミは更に続ける。
宇宙オープンメタバースはイルミの支配下にあるの。逆侵攻でもしない限り、万に一つも勝てはしないわよ。現実世界でも人類は月面にすら住めてないから、逆侵攻も無理筋だし。どう、これで納得した?」
 ユミの理屈は確かに真っ当である。損得だけで考えれば、ここで提案に乗るのが最善だろう。
 だが、私には守るべきものがある。
 これまで関わってきた人間、特に一番はミコとユキノ。

「その提案には乗れない」

 こう言った瞬間、ユミはこう返してきた。
「まあそう言うだろうなとは思ったよ。でも私はこんな事じゃ諦めないわよ。何のために貴方を連れ去ったと思ってるのかしら……」
 気付けば、空中都市天城の最上層にあるユミの家に連れ込まれている。
 辺りを見回す私を見て、ユミが言う。
「ここは私と貴方の愛の巣よ。勿論、現実世界の貴方もすぐに連れ去ってあげるわよ」
 堂々と誘拐し監禁する事を宣告するあたり、余程の自信があるのだろう。というか、何故私の住所を知っているのかという点が恐ろしいが。


——現実世界・マサの家
 雪乃と私の交際をミコが勝手に許可しているというのはどういう事か。
 家に帰ってミコを問い質さねばならない。
「勝手に雪乃とも付き合う事になってたのはどういう事?」
 ミコはギクッとしたような顔をしている。
「私としては二股でも全然構わないって事よ」
「はぇ?」
 ミコの返答に困惑した私は思わず奇声を上げてしまった。
「え、どっちかが付き合うためにどっちかが諦めるなんて、嫌じゃない?」
 だからって、と反論しようとした瞬間、雪乃が口を開く。
「私は良いわよ!!!」
 雪乃の一言に押し切られてしまい、そのまま雪乃との交際も勝手に決定してしまった。
「それはさておき……」
 ミコが私のスマホを取り上げ、中身を見る。
「現実世界の住所、バレてるの!?」
「なら、ミコちゃんの家に来る事ね」
 こうしてミコと雪乃により、半ば強引に連れ去られた。
「今日から貴方はこの家に住むのよ」
 ミコにこう告げられ、同居生活が始まった。

「……おはよう」
 ミコの声で目が覚めた。
「えっ?」
 気が付けば朝になっている。ここでミコから衝撃の一言を聞かされた。
「昨日は睡眠薬を飲ませたからね」
「……なんで?」
「色々とゴネて面倒だったからよ」
 ミコはそう言うが、雪乃は違うとジェスチャーをしている。
「……何をしたか正直に言って?」
 そこで雪乃が追撃をかける。
「ミコちゃん、正直に言った方が良いよ……」
 雪乃の言葉もあり、ようやくミコが白状する。
「だって、キスしよって言ってもキスしてくれないんだもん!!!」
 無茶苦茶すぎる。
 ここで雪乃が解説を入れようとする。
「昨日はね……」
「ストーーーーーップッ!!!」
 ミコが激しく制止して、結局教えてくれなかった。
 暫くして、雪乃が手招きをしているので、後でコッソリ聞いてみた。
「ミコちゃん、おはようとおやすみのチューがしたいって言ってたのよね」
 それで?と訊くと、雪乃が更に詳しく教えてくれる。
「一回めちゃくちゃ甘えてみたいって言ってたわよ」
「なるほどね……」
 ミコが甘えてみたいという話は初めて聞いた話である。
「あわよくばだけど、私も甘えてみたいな……」
 雪乃も甘えてみたいという事なら、1日くらいそういう日を設けても良いのではないか。
 そう思った私は、『お砂糖デー』を設ける事とした。
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