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第一章

四十話 私の力

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 始まりは遠い遠い幼稚園。彼はもう覚えていないだろうが、やんちゃな男の子から自分を守ってくれた。
 小学生、中学生、幼かったあの日を夢見て毎日学校に通っていた。自分に、あんな素敵なヒーローが現れてくれないかって。 
 
 高校生になった。何の因果か学校が同じ。そしてクラスも同じだった。喜ぶのもつかの間、彼は昔の記憶を覚えていなかった。がっかりしたが今から仲良くしていけばいいと深く理解した。 

 でも………………彼は私となれ合うことを好きとしなかった。高一の終わり、私の親友、雲斎桜莉が西岡樹に好意を示した。そんなのだめだ、だめだだめだだめだ。彼に相応しいのは私だ。だから彼に近づく前に雲斎桜莉を排除した。 

 この時になって改めて感じた。私には特別な力がある。そしてそれは多くの人間に好かれやすいという力だ。だけど、この力は一番伝わって欲しい人に届きはしない。それが余計に苛立って私を追い詰めていった。 

 高二。また同じクラスだった。神様に感謝するが何故か距離は近づかない。
 
 そんな私の様子をどこで嗅ぎつけたのか理解できなかったが、とある教師が事情を鑑みて一つのカードを渡してきた。その男の話は到底不可解な点が多かったけれど、使用すると現状が解決できるかも、と言われて私は受け取ってしまった。

 暫くすると自分の中で焦りが生まれてきた。
 
 去年の三月に西岡の親友と仲良くなって外堀から埋めようとしてるのに、不思議と埋まらない。なぜなぜなぜなぜだ。意味が分からない。 

 彼の下校をひっそりと見ていると隣に変な女子がいた。篠崎紬希。人脈で必死に調べ上げ、よく知らない那覇士香織を使った素晴らしい作戦を考え、朝公衆の面前で醜態をさらしてやった。 

 どうだ、失望しただろう。でも大丈夫、貴方には私がいるから。早くこっちをみて……。

 なんとか放課後待ち合わせをすることに成功した。そこで私はお願いする。貴方を一番知る人間が目の前にいる。まずは友達になろうと。それとも恋人の方がいい?  

 でも、来たのは私が切り捨てた雲斎桜莉だった。奴は自分を思いをはっちゃけ貴方に全て捨てられたとほざく。ふざけるな、そんな話どうでもいい、私は人を待ってるんだ。

 そう言うと、西岡樹はどこか教室以外の所で何か夢中になってるらしかった。私を放ってそっちに行ってしまったらしい。

 怒りのあまり、私は貰ったタロットカードを使うと彼女は倒れてしまった。 

 そこに一分立たずして男が乗り込んできた。これで目的を遂行できるとかなんとか、奴の話は何一つ意味不明だったが西岡樹が私の手になると告げられ、彼に従い私は力を解放した。

 裸の男女二人と中央に座る変な男の絵柄は不気味そのものだったが、あの野郎の説明通りの力の使い方で生徒全員を操ることが可能だった。 

 貰った当初は信じてなかったけど、こんな凄い力があれば、、きっと彼も振り向いてくれる………そのはずなのに鼻っから受け付ける態度じゃなかった。

 それどころか彼をおびき寄せるために操った雲斎、あの女の心配をしていた。気に食わなかった、全てが気に食わなかった。どうやっても、こうなればどうやっても上手くいくとは感じなかった。

 その途端………今まで使っていた筈のタロットカードが言うことを聞かなくなって、いつの間にか私も操られる立場に陥っていた。 
 
「どう、笑えるやろ。結局あーしはお終い。これで全てが終わるんや」 
「………………終わりなんかじゃない」 
「は?」 
「終わりなんかじゃない‼」 
 
 唖然とこちらを見つめる彼女に、私は言葉をぶつける。 

「諦めないでよ、諦めたらそこで終わりなんだよ。そりゃあ、今の貴方は全てを終わらせてどこか人知れず沈んでいきたいかもしれない。でもだめだよ、そんなことしたら。本当の意味で終わりになっちゃだめなんだよ」 
 
 それは、どこかの正義のヒーローが図書館で放った長文と似たようなものだった。一度全てを投げ捨て、それを止めた自分だからできるアドバイス。 

「簡単に言ってくれるなあ。こっちが何回挑戦したと思っとる! もう彼はこっちに振り向いてくれんのや!」 
「それは貴方の力じゃない!」 
「っ!」 

 言葉を詰まらせた動きを私は見逃さない。 

「能力を意識して接近したって意味がない! 結局は能力でどうにかなる、と思う貴方の甘えがあるから。そんな失礼な対応をしたら西岡くんが嫌がるよ。勇敢で誰かを助けてきた人間が、そんな下心見え見えの気持ちに何を感じる?」 
「それはー」 
「確かに西岡くんには能力は効かない。貴方が自覚していた特別な力は届かない、この理由は私にも分からないけど、それなら自分の意志で彼とは話さないと!」 
 
 彼女の話。その全てを聞いていたからわかる事実。長山さんは、現に一度も彼と能力抜きの本心で向き合ったことがなかった。いつも心の奥底でズルをしていた。 

「貴方は西岡くんにそこまで思われてない、と思う。でもその原因は……性格が合わないとか趣味が違うのもあると思うけど、貴方がずっと同じ価値観のまま西岡くんに話しかけていたことだと思う。現に西岡くんは、貴方に直球で悪口とかは言ってないんじゃないかな」
「………」 

 座り込んだまま静かに瞼を閉じる長山さん。 
 暫くの無言の末、 

「なんだ、初めからあったやないか。彼と仲良くする方法。盲点って恐ろしいものやな」

 そして、彼女は私に視線を預けた。 
 再び映る彼女の表情は先ほどとは打って変わり、何かを悟った顔をしていた。 

「篠崎さん。あんた、あーしの能力を奪いに来たんやろ」 
「え?」 
「なあに、万が一にもその可能性があるって奴が言ってただけや。気にすることじゃない」 

 笑いながらそう呟く彼女は相変わらず晴れていた。 

「……………やってくれ」 
「! 分かった」 
 
 此処に同意は成立した。 
 私はそっと彼女の周りに漂う黒い靄に触れる。 

 頭の中に爺さんの言葉が横切った。

『もしかすれば長山陽葵はタロットカードに力を奪われてやもしれん』
『タロットカードってそんな恐ろしい力があるんですか?』
『それだけ込められた力が強いとな。タロットの真名によっては夥しい血が流れてる場合もある』
『長山さんの場合は……?』
『まだ断定はできん。じゃがどっちみちお主の力じゃなければ解決できない』
『私の…力』
『能力者の能力を消すという行い。それはその人の中にある自分の一部を消す行為他ならん。たとえ、同意をしたところでそれは変わらない』 

―――なら私が、その痛みと重みを背負う! 

 指先から熱い光が迸る。浄化作用のような一種を受け持つそれは、漂う靄をじわじわと分解していく。 
 
 スサーーっと。砂の飛び散る音を響かせ、黒い靄は消える、消える、消える・・・。 

「く!」 
 
 だが、意思を持った生物のように、こちらの光をかき消しながら抵抗する靄がある。 
まるで長山さんを取り変えさせないように。

―――だめ、押し返さないで。 
 
 私の叫びも虚しく、靄は逆流をさらに進行させようと光を押し返しーすぐ戻された。 

「え?」  

 服の中から暖かい反応。確認すれば一枚のカードが中から私にエネルギーを与えてくれるようで、 
 
 ズザー!! 
 
 光は一気に加速する。 

「ありがとう。………お願い、彼女の力を消してあげて!!」 

 発した直後、 

 光は過去最大の明るさを照らし、あっという間に黒い霧を消し飛ばした。 
 
 どこか近くで。 

「今までありがとう、私の力」 

 誰かが寂しそうに、今までの自分と切り離すように、お礼を述べた気がした。 
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