異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉

文字の大きさ
83 / 174

ブレイブス港街7日目

しおりを挟む
 今日も朝早くから作業を始めた。
 
 マッドは、いよいよ魔法陣を描くということもあり、いつも以上に気合いが入っているようだ。集中を要する作業なので、地下には誰も入らず、彼が黙々と一人で描いている。昨日購入した奴隷たちは、ジルとレティが手続きを進めてくれているので、明日の夕方には完了し、一緒にルルソン村へ行ける予定だ。
 
 昨日トンダさんが購入した奴隷二人のことを、マーカスさんは興味深そうにマッドに尋ねていた。早朝から宿で、まるで詰め寄るように話している。
 
 マーカスさんから見ても、彼らはとても感じが良く、頼もしそうな若者だったらしい。だからこそ、なぜマッドが彼らを選ばなかったのか、疑問で仕方がないようだ。
二人は借金奴隷で、有能なスキルも持っており、冒険者ランクも既にBランクだという。確かに私から見ても強そうに見えたけれど、彼らが纏っているオーラはグレーだった。その色が悪いわけではないけれど、少し濁りがあるように見えたのだ。
 
「マーカスさん、鑑定が全てではありませんので、変な固定概念は持たないでください。俺たちには合わないと感じただけです」
 
「だから、どこが合わないと感じたのか知りたいんだ」
 
 マーカスさんも引かないようだ。昨日はそのことが気になって眠れなかったらしい。
 
 マッドは考え込むような仕草をしてから、口を開いた。
 
「鑑定結果は悪くありません。店主の言う通りのスキルだったし、人柄もそうだと思います。……多分、リオの方が上手く説明できると思います」
 
 マーカスさんがリオを真剣な目で見る。
 
「僕は鑑定できないよ。ただ、僕が見る限り、彼らは奥深くに闇を抱えている気がしたんだ。奴隷だから当然かもしれないけれど、なんて言うか、根が深いというか……僕たちでは救ってあげられないような、そんな感じ。でも、冒険者ギルドなら上手くやれるかもしれない」
 
「なるほど、俺にはよく分からんが、まあいいだろう。それで、あの四人を選んだ理由は?」
 
 私たちが選んだのは、四人全員が犯罪奴隷だった。
 
 最初の30人は全て働き盛りの借金奴隷で、次に集められた15人は犯罪奴隷や年配の者たちだったのだ。犯罪奴隷と言っても、有能なスキルを持つものは高額だが、ここの奴隷商人はどうも人物鑑定があまり上手くできていないようだ。水晶鑑定に頼っているようだが、お父様が以前言っていたように、水晶によってはかなり曖昧なのだろう。
 
 * ワオン(59歳、男性、犯罪奴隷(冤罪)、火属性、魔道具、斧)
 * パオス(17歳、男性、犯罪奴隷(冤罪)、火属性、魔道具、斧)
 
   * ワオンとパオスは血の繋がった親子だ。貴族に騙されて犯罪者にされたようだが、間違いなく冤罪だとマッドが言っていた。二人とも奴隷とは思えないほど明るく前向きな性格で、魔道具が大好きな根っからの職人だ。
 
 * カイト(15歳、男性、犯罪奴隷、土属性、地下掘り、建築補助、ナイフ)
 * ハンナ(13歳、女性、犯罪奴隷、光属性、解読、ブーメラン)
 
   * カイトとハンナは血は繋がっていないが、スラム街で兄妹のように育っている。スラム街で生き抜くために盗みを繰り返していたので、間違いなく犯罪者ではある。でも、二人の魂は疲弊しているものの、決して汚れてはいない。スラム街で過酷な暮らしをしていたとは思えないほど、優しい光が二人を纏っているのだから。
 
 マッドの鑑定は、波長が合うと人物の背景や生い立ちまで見えるようになったらしい。カイトのスキルだけを気に入って購入を決めたわけではないとマッドは言っていた。

 私は新しい家のカーテンやクッション作りを始めている。ドナが蜘蛛の巣や薬草の採集に行ってくれたので、今は染色作業をドナと一緒にやっている。染色は、その日の湿度や温度によって色が変わるので、とても面白い。
 
「ねえドナ、この自然な色、良いと思わない?」
 
 私が染め上がった布を広げて見せると、ドナが目を輝かせた。
 
「少しグリーンが入っていて、私も好きです!キャロル様が染める色は、どれも本当に素敵ですね」
 
「ありがとう。これでベッドカバーとか枕カバー作ったら、よく眠れそうよね」
 
 私がそう言うと、ドナはにこっと笑って言った。
 
「キャロル様はいつもぐっすり眠っていますから、あまり関係ないと思いますよ」
 
「……そうね」
 
 思わず苦笑してしまった。私はそんなに良く眠っているのかしら? そういえば、私はドナが眠っているのを見たことがないかもしれない……。彼女はいつも、まるで小さな妖精のように活動的だ。そんな彼女の言葉に、ふと心が温かくなった。
 
 夕方になると、マリアはいつも通り食事の準備をしてくれている。マリアの作る食事は、一般的な家庭料理に近く、毎日の栄養バランスが考えられているので、身体にとても良い。
 
「マリア、何か手伝おうか?」
 
「大丈夫よ、キャロル。今日は昨日使った残り汁を使って煮込むだけだから簡単なのよ」
 
 マリアは王城で育ったのに、なぜこんなに家庭料理が作れるのだろう?
 
 私が不思議に思っていると、マリアが私の心を見透かしたように言った。
 
「本当にキャロルは面白いわね。私はジータに家庭料理を教わったのよ」
 
「えっ、そうなのね! ジータはいい先生ね!」
 
「ええ、とても分かりやすく丁寧に教えてくれたわ」
 
 私もルルソン村に戻ったら、ジータに料理を習おうと思った。彼女の作る料理は、きっと家族の温かさを感じさせる、優しい味なのだろう。
 
 明日の夜8時過ぎには、ルルソン村へ私たち家族は帰る。今日はマッドやリオやボンドンは夜中まで作業を続ける予定なので、私たちは先に宿に帰ることにした。
 
 マッドたちのいない夜は寂しいけれど我慢しないといけない。彼らが頑張ってくれている分、私もできることを精一杯やろう。

 明日、新しい仲間たちとルルソン村へ帰るのが楽しみだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

旧転生者はめぐりあう

佐藤醤油
ファンタジー
リニューアル版はこちら https://www.alphapolis.co.jp/novel/921246135/161178785/

処理中です...