21 / 32
⑦真祖と聖女-9-
しおりを挟むリオンとローズを抱えて近くの部屋に逃げ込んだメリーアンとジェーンは、クリュライムネストラにこれからどうするのかを尋ねる。
「私が二人を元に戻します」
「カーミラに噛まれた二人を元に戻せるの?!だったら、元に戻る薬や方法を見つける必要なんてないじゃないか!」
「ところがそうでもないのですよ」
吸血鬼に噛まれた事で妖魔と化した人間を元に戻せるのは噛まれた直後から一日・二日までが限度で、注ぐ霊力も僅かで済む。しかし、それ以上となると魂そのものが完全に妖魔のものへと変質しているので自分の霊力の全てを注いでも不可能なのだと、クリュライムネストラが二人に教える。
「人間の力には限界があるという事です」
これ以上、無駄話に付き合っている暇などない事を言葉と態度で示したクリュライムネストラは、眠っているリオンとローズに向けて何やら呟く。
彼の者の魂を蝕む悪しき力よ
我の霊力にて汝等の穢れを払わん
メリーアンとジェーンにはクリュライムネストラが何を言っているのか全くと言っていいほど分からないが、その声は澄んでいながら力強さを感じさせるものだった。
それもそのはず。
魂の浄化を使う際に発する言葉の一つ一つには霊力が込められているのだ。
リオンとローズの首筋に付いていた、カーミラに噛まれた跡は綺麗に消えただけではなく、インキュバスとエキドナへと変化していこうとしていた二人の肉体が人間のものへと戻っていく。
「成る程・・・ああやって昔のメディクスは妖魔と化してしまった人間を元に戻していたのだな」
窓から見える室内の様子を眺めている、愛くるしいリスに変化しているレーヴェナードが呟く。
「我が君。あの者達の目の前でメディクスを我が君の眷属に」
「いや、私に匹敵する霊力を持つメディクスを眷属にするのは不可能だ」
レオパルドが、より屈辱を与える意味で提案したのだが、それはレーヴェナードによって否定されてしまった。
「我が君と同等の霊力を持つ存在?!」
メディクス家の者が、強力で膨大な魔力を持っているが故に人間の世界では【魔王】とも言われているレーヴェナードと同じレベルの霊力を持っているという言葉にレオパルドは驚きを隠せないでいる。
魔力と霊力は表裏一体。
闇と光のように本質は正反対であるが、力の根幹は同じなのだ。
「だが、恐怖に歪んだ顔をする人間共の目の前でメディクスに屈辱を与えるのもまた一興・・・」
自分と同じくらいの霊力を持つメディクスの血はどのような味がするのだろうか?
デザートワインのように甘くて、シルクのように滑らかな舌触りなのか
ビロードのようにきめ細やかで、薔薇のように芳しい香りなのか
メディクスの血を引く者の血の味を想像したレーヴェナードは霧に変身すると、彼等がいる部屋へと侵入する。
※ライムの魂の浄化の呪文は、アラビア文字みたいなものにルビを振っているものをイメージしているですが、どう書けばいいのか分からないので日本語です。
0
あなたにおすすめの小説
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる