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⑧ハーネット王国の滅亡-6-
しおりを挟む「貴様!妖魔の分際で高貴な私に触れるな!!」
今すぐこの縄を解かぬか!!
狭い室内にあるのは絞首台にギロチン、異端者のフォークに三角木馬といった処刑器具。
石畳の床にレンガの壁にこびり付いているのは、この部屋で殺された者達の飛び散った血痕。
部屋に漂うのは血の臭い。
ハーネット王国の第四王子である自分が何故、辛気臭く血腥い場所に連れて来られたのか?
何日も食事を摂っていないだけではなく入浴もしていないからなのか、金色の髪はパサパサで汚れている。また、頬が削げ落ちてしまった事で唯一の取り柄であった美貌までもがすっかり失われている、どこからどう見ても物乞いでしかない男が、自分の左右を囲む鎧を纏っている二人の騎士に向けて大声で喚き散らす。
男の名前はパリス。
ハーネット王国の第四王子にして、今回の十数年以上も続いた大戦の元凶でもある。
その元凶が何故、サクリフィス大陸に居るのか?
理由は省くが、レオパルドの独断である。
いきなり拉致された挙句、拷問室に放り込まれたパリスは何度も叫ぶが、彼等はグレートアーマー。
注がれた主の魔力で動く自動人形であるが故に、自分達が抑えつけているパリスの問いに何も答えないのだ。
「自分の事を由緒正しい高貴な獅子だと勘違いしている雑種の犬・・・か。成る程、確かにライムの喩えは的を射ているな」
パリスがいる処刑室にやって来たのはレーヴェナードとレオパルド。そして──・・・
「クリュライムネストラ!何もせずに突っ立っているのはどういうつもりだ?!婚約者である第四王子・・・いや、メディクス王国の未来の王たる私が苦しんでいるのだ!早く助けぬか!!」
レーヴェナードとレオパルドの人間離れした美貌と服の上からも一目で分かるくらいに鍛えられている身体もあるが、イケオジ特有の気品と人の上に立つに相応しい威厳にすっかり負けてしまったパリスは二人と一緒に拷問室と思しき部屋までやって来た元婚約者に自分を助けるようにと大声で喚き散らす。
「婚約者?亡国の王子・・・今は戦犯ですわよね?との婚約は十年以上も前に破棄されているので、私を呼び捨てにするのは止めて頂きませんこと?」
それに、メディクス王国を治めるのは女王と法律で定められており、王位継承者は女性のみである。
メディクス王国の女王、或いは王女が産んだ男子は王子であるが国王にはなれないのだ。
但し、女王及び王女の血筋が途絶えてしまったら、臣下となった王子の女児が王位に就く。
そうする事で、メディクス王国は女王制を貫いているのだと、クリュライムネストラはパリスに教える。
「そのような馬鹿な事があって堪るか!!父上は『パリスがメディクス王国の次期国王だ』と仰っていたのだぞ!!!」
「メディクス王家の血を引いていないのに?どこをどうすれば顔だけが取り柄のハーネット王国の元第四王子がメディクス王国の次期国王に就けるのでしょうか?」
(ああ、そういう事ね・・・)
おそらくバルバガイツはパリスに対してこう言っていたはずだ。
メディクス王国に何かがあれば、クリュライムネストラが女王に就き、夫であるパリスは王配として迎え入れられる──・・・と。
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