乙女ゲームに転生した男の人生

白雪の雫

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⓪二度目の人生の始まり

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 (娘が赤ちゃんだった時は離乳食を作ってくれたり、家事全般をしてくれたり、今でもこうして積極的に育児に協力するアイドネウスってイクメン以外の何者でもないわ。イケメンでイクメンの夫って嫁の立場で見たら優良物件なんだろうな)
 王侯貴族のように、神様は自分の子供を乳母や教育係という存在に全てを任せるのだと思っていたミストレインは、三歳になって間もないセレスティーネと人形で遊んでいるアイドネウスの姿を微笑ましいと思いつつ、お茶の準備をしていく。
 「しかしその実態は、俺を嫁にする為だけに腹上死(?)させたド外道の天空神だけどな」
 元の世界での灯夜には情交の痕跡などないものだから表向きは心臓発作として処理されているらしいが、実際は腹上死のようなものだ。
 その事を和寿ことアイドネウスから聞かされた時、灯夜は『何て恥ずかしい死に方をしたんだ、俺!』『詫びとしてジャングルや極楽のネットショッピングが使えるスキルやチートが欲しかった』と何度そう思った事か───。
 つい、思い出してしまったミストレインがボソッと呟く。
 「アストライアー・・・いや、ミストレイン。何か言ったか?」
 「何も言ってないわよ」
 今日のデザートはババロアにしようかな~?
 今の独り言がアイドネウスに聞こえてなくて本当に良かった
 もし、聞かれていたらどんな酷い目に遭わされるか
 (・・・・・・100%の確率で今夜は寝れないと自信を持って言える!)
 「そうか。だが、自分が助かる為だけに己の死を偽装して逃亡しただけではなく、実の妹をロードライト帝国の皇帝とやらに売り渡したミストレインも十分にド外道だと思うが?」
 「聞こえていたのなら態々聞く必要なんてないじゃない!というより単に俺は事実を述べただけだ!!」
 凸(゚Д゚#)
 ((どっちもどっち。似たもの夫婦だよ!!))
 アイドネウスの従者にしてミストレインの教育係、そして雑貨ショップ・ミストレインの従業員でもあるリーベルとディアナが心の中でツッコミを入れる中、二人は喧嘩をし始める。
 「とうしゃま・・・かあしゃま・・・」
 神の子供であっても、両親が喧嘩しているところを見て不安になるのは人間の子供と同じだ。
 二人の元に駆け寄ったセレスティーネが今にも泣きだしそうな顔で両親を見上げる。
 「「ティーネ・・・」」
 「父様と母様は話し合っていたんだよ。弟か妹が出来たらティーネは喜んでくれるかな?って」
 (産むのは・・・俺、なんだよな?)
 何かのフラグが立ってしまったような気がしてならないミストレインの顔からは音を立てて血の気が引いていく。
 「おとうと?いもうと?ティーネは・・・おねえさんになるの?」
 「ああ。弟と妹、ティーネはどっちが欲しい?」
 え~っと・・・
 「おとうと!」
 アイドネウスに頭を撫でられて弟が欲しいと答えるセレスティーネに、ミストレインは危機を訴える本能に従い離れようとするのだが───。
 「弟が欲しいという娘の望みを叶えるのは、親としての努め・・・だよな?ミストレイン」
 力強く肩を掴まれたミストレインは、爽やかな笑顔を浮かべているアイドネウスの問いかけに対して涙を流しながら必死になって首を横に振る。
 「そ、それよりもお茶の「ミストレイン、ティーネの為にも今から弟を仕込もうな」
 (ひぃぃぃぃぃ)
 アイドネウスに、米俵のように担がれたミストレインが何とか逃げようと必死に手足を動かして暴れまくる。
 「あなた!まだ陽が出てる!こういう事は夜に!」
 「却下」
 「シャワーを浴びたい!」
 「逃げるつもりだろ?」
 「め、滅相もございません!汗で身体がベタベタして気持ち悪い!だから・・・」
 「俺は気にしない」
 「私が気にするの!」
 バスルームの小窓から逃走計画を立てていたミストレインは声を上げて否定する。
 「じゃあ、俺が洗ってやる」
 「・・・・・・・・・・・・」
 逃げ道を塞がれてしまった今のミストレインに出来るのは、売られていく子牛の歌を心の中で歌う事だけだった。










 一年半後
 「かあさま。ここに赤ちゃんが、ティーネの弟がいるの?」
 「弟かどうかは分からないけど、赤ちゃんがいるわ」
 膨らんでいるお腹に頬を寄せるセレスティーネの頭に手を置いたミストレインが優しく触れる。
 「早く弟に会いたいな~」
 そんな二人の元にアイドネウスがホットミルクとカステラを載せたトレイを持ってきた。
 「今日のデザートは肌寒いからホットミルクとカステラだ」
 「「いただきます」」
 手を合わせた二人は早速デザートに口を付ける。
 「「美味しい~♡」」
 カステラのしっとりとした食感と甘さ、ホットミルクの甘さが心を癒す。
 「ここに・・・いるんだな」
 セレスティーネの時にも経験しているが、こうして愛妻が自分の子供を宿している姿は感慨深いものがこみ上げてくるのか、手を置いたアイドネウスが触れる。
 「ええ。ティーネは弟だと言い切っているけど、私は元気に産まれてくれるのならどっちでもいいと思っているの。アイドネウスは?」
 「弟が欲しいと願っているティーネの事を考えたら男の子だな。でも、俺はどっちでもいいと思っている」
 「そう言ってくれると嬉しい」
 アイドネウスがどこかの国の王侯貴族であれば、後継ぎとなる息子と王族に嫁がせる駒となる娘を最低でも一人ずつ産むように催促する義父母に悩まされていたはずだ。
 夫が、そういう世間の柵のない立場の男であって良かったとミストレインは思う。
 「赤ちゃん。私達のところに来てくれて・・・ありがとう」
 来年の春に産まれてくる予定の赤子に向かって語り掛けるミストレインの顔は、全てを赦す聖母のように慈愛に満ち溢れていた───。







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