18 / 58
⑥嫉妬と本音-4-
しおりを挟む「伯父上」
「伯父様」
「ザクレウス、ブリュネイア。久し振りだな」
アイドネウスの前に現れたのは、河川を司るザクレウスと森を司るブリュネイア。
神話ではザクレウスとブリュネイアはアイドネウスの子供であると伝わっているが、事実は異なる。
アイドネウスからから見て二柱は甥と姪になるのだ。
「確か、こうして顔を合わせるのは二百年振りでしたか・・・」
「伯父様。私達姉弟を呼び出したという事は、力を貸して欲しいと解釈してよろしいのでしょうか?」
「ああ。実はライトアンバー男爵とやらの娘だという、くねくねとして気持ち悪い奇乳女が俺の愛人を侮辱した。 お前達はその男爵家が治める土地に住む者達全てを殺してくれ」
二柱に対してそう告げたアイドネウスの瞳は怒りで青から金色へと変化していた。
「伯父上の愛人を侮辱・・・?」
うわ~っ・・・奇乳女って馬鹿ですか?!
あぁ、真性の馬鹿だから神の愛人を侮辱するという大それた事が出来るんだよな~
心の底から呆れたと言わんばかりに、ザクレウスが自分の額を押さえて呟く。
神の愛人を侮辱したという事は、その神をも侮辱した事を意味する。
今回の場合、ミストレインを罵った=アイドネウスを侮辱したのだと解釈され、その報いはシャルロッテだけではなく彼女の家族、そしてその土地に住んでいる何も知らない領民までもが受けるのだ。
一言で言えば、連帯責任である。
神話では、アイドネウスが浮気をした自分の情婦とその家族だけではなく国諸共滅ぼしたと記されているが、あくまでもそれは彼の天空神としての強大な力を謳うものでしかない。
実際のアイドネウスは己の子孫を騙る皇族や王族が治める国を怒りで滅ぼした事はあっても、情婦の浮気で何の関係もない赤の他人に連帯責任を負わせていないのだ。
だって、当時のアイドネウスには愛人はおろか情婦などいなかったのだから。
「伯父様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?伯父様の愛人という御方は伯父様がなさろうとする事を──・・・」
「いや・・・あいつは知らない。寧ろ、必死になって止めるだろうな・・・」
「でしたら、伯父様は神の掟をお教えした方がよろしいかと思いますわ」
「時が来れば、俺が教えるさ」
そう答えた時に浮かんでいたアイドネウスの笑みは穏やかで、その時が訪れるのを楽しみにしているものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三人の目の前に広がっているのは、刃と化した河の水と凶器と化した森の草木から逃れる術もなく命を奪われていく領民の姿。
そして、怒りで双眸を金色に輝かせているアイドネウスによってありとあらゆる拷問を受けた挙句、殺されてしまったライトアンバー家に仕える侍従とメイド達の死体だった。
「アイドネウスさん・・・?私はただ、あの男のような大女から気高くて美しいアイドネウスさんを解放しようとしているのよ?」
それなのに・・・何でこんな惨い事が出来るの!!?
「たかが平民の分際で貴族に逆らうとは・・・貴様は八つ裂きにしてやる!!!」
お前のせいで殺されたと言わんばかりに責め立てる死体の目から顔を背けながら、シャルロッテと彼女の両親が怒りに任せて一斉にアイドネウスを非難する。
「八つ裂き?この俺を?」
神を死刑にするという戯言を口にした人間を嘲笑した後、アイドネウスは本性を晒す。
三人の目の前に現れたのは、月のように儚い光を帯びた、そして見る者に力強さと神々しさを感じさせる銀色の美しい毛並みを持つ一頭の巨大な狼───フェンリルだった。
「そこの奇乳女は俺の愛人を大女と罵った・・・。即ちそれはこのアイドネウスを侮辱した事を意味する──・・・」
肩を寄せ合い震わせているシャルロッテ親子を見下ろしているフェンリルが雷を放つ。すると、凄まじい爆音と共に雷が雨のように降り注ぎ闇の帳に覆われている空が昼間のように明るくなる。
「狼・・・フェンリル・・・アイドネウス・・・雷霆・・・天空神・・・世界崩壊・・・」
神話で語られている光景の一つが広がっている事実に、シャルロッテ親子は腰を抜かして驚愕するしか出来ないでいる。
「伯父上、こっちは終わりました」
「ザクレウス、ブリュネイア。お前達のおかげで奇乳女親子の始末に集中する事が出来た」
フェンリルから人の姿になったアイドネウスが甥と姪に感謝を告げる。
「これくらいお安い御用ですわ・・・ってあら?伯父様を侮辱した人間、気が狂ってしまいましたわね」
自分が治めている土地が一瞬にして滅んでしまったからなのか、生き残ったライトアンバー男爵達は正気を失っていた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃ」
口端から涎を垂らし、焦点の合っていない瞳で虚空を見つめて奇声を上げている三人に満足したのか、三柱は止めを刺す事なく去って行く。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
転生メイドは貞操の危機!
早桃 氷魚(さもも ひお)
恋愛
クララは乙女ゲームの世界に転生した、モブのメイド。
最推しキャラの公爵令息、ロルフのメイドとして、不幸フラグを折りながら、天使のように愛らしい推しを守ってきた。
ロルフはクララに懐き、魔法学園に入学するときも、離ればなれになるのを嫌がるほど。
「帰ってきたら、ずっと一緒だからね?」
ロルフとそう約束してから三年後。
魔法学園を卒業したロルフが、ついに屋敷へ戻ってきた!
だが、クララの前に現れたのは、
かつての天使ではなく、超イケメンの男だった!
「クララ、愛している」
え!? あの天使はどこへ行ったの!?
そして推し!! いま何て言った!?
混乱するクララを、ロルフはベッドに押し倒してきて……!?
-----
Kindle配信のTL小説
『転生メイドは推しを甘やかしまくった結果、貞操の危機です!』
こちらは番外編です!
本編よりずっと前の、推しがまだ天使だった頃のお話です。
本編を知らなくても読めます。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる