19 / 58
⑦ヒロイン・カサンドラ-4-
しおりを挟むロードライト帝国の港町にある市場の一角に太陽の光が降り注ぐ。
劇場の舞台を思わせる壇の上に一糸纏わぬ姿で立つのは、今の自分が置かれている立場に戸惑いを隠す事が出来ぬ年端も行かない子供達に、恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯きながら両手で性器の部分を隠している成人した男女達。
中には自分という人間の価値をより高くする為に、己の局部を隠す事なく堂々と晒している者もいる。
奴隷商人によって紹介されていく彼等を観客席から眺めているのは裕福な商人と思しき中年男性に、どこかの屋敷の執事らしき壮年男性。
また、暇を持て余している貴族か富豪の夫人らしき女性の姿もちらほらと見受けられる。
壇上に立つ商品───奴隷に向けている視線に好色は一切含まれていない。
かといって、美術品を愛でるものでもない。
どちらかと言えば商品の良し悪しを見極めようと、或いは患者を診る医師のようなものであった。
「私は一番と六番の子供を頂くわ」
「では、私は十三番の少年と二十二番の青年を買うとしよう」
磨けば珠となり稼ぎ頭となる商品が欲しい娼館の女将が年端もいかない子供を買ったかと思えば、女役を専門とする男娼が欲しい男娼館の主が、客の要望に応えるべく少女にしか見えない可愛らしい少年だけではなく筋骨隆々な青年に知的な雰囲気を纏わせている少年達を次々と仕入れていく。
「あ、貴方方は間違っています!人を売買するという非道で野蛮な行為など今すぐ辞めるべきです!」
ある少女の声が、盛り上がっているところに水を差してきた。
「富める者が貧しき者を買うなど、正義と審判を司る我等が女神・ティリシアがお許しになりません!」
奴隷の売買を止めるように訴えているのは商品として壇上に立っている、清楚という言葉が似合う美しい少女だった。
ティリシアというのは、アイドネウスが妹であるパンドゥーラとの間に儲けた娘であり、弱きを助け強きを挫く正義感が強い女神だと、神話ではそう伝わっている。
だが、事実は大いに異なる。
ティリシアの母親はパンドゥーラであるが、父親は兄であるアイドネウスではなく弟のネレウスなのだ。
そのような事実を知る事なく、ティリシアを信仰する修道女達は彼女を象徴する【裁きの剣】をモチーフにした首飾りを常に身に着けているだけではなく、永遠に処女である事を誓う。
そして、清楚な少女はティリシアを象徴する首飾りを着けている事から、おそらく彼女は何らかの形で奴隷として売られる前は敬虔な信者だったのだろう。
正義感が強いが故に、彼女は声を上げたのだ。
(空気を読まない発言をしているあの女、どこかで見た事があるような気がするのだけど・・・)
隠しキャラであるアイドネウスを出現させるには、まずカルロスの側小姓であるゼフュロスに買われて後宮に入る事が必須条件だ。
女神になる為、恥ずかしさを押し殺し人前で自慢の裸体を晒していたカサンドラは、正義感気取りの女が誰だったかを思い出そうとするのだが・・・どうしても思い出せないでいる。
(まぁ、どうでもいいわね)
煌々たる愛のプレイヤーであり、ヒロインにして将来はアイドネウスの妻になる事が確定している自分が思い出せないのは、所詮彼女は十羽一絡げなモブキャラでしかないのだ。
そう結論づけたカサンドラの目の前で、少女が奴隷商の従業員達によって舞台から引きずり降ろされる。
おそらく彼女は問答無用で特殊な性癖を持つ変態だけを相手にする娼館か、生体実験を主としている施設に二束三文の値段で売られてしまうのではないだろうか。
ここでカサンドラが、舞台から引きずり降ろされた少女がゲームではゼフュロスがカルロスの為に買った商品にして、後にアストライアーの取り巻きとして画面に出ていた側室の一人であった事を思い出していれば───彼女はここが現実世界だと認識出来たのかも知れない。
しかし、ゼフュロスに買われた事で自分は女神になる運命なのだと思い込んでしまったカサンドラは、アイドネウスの攻略ルートに従った行動を取る事となり、メンタルがあの店で売っているプリンよりも柔い攻略対象者共と友達以上恋人未満な関係になってしまう。
未来の自分が後宮を追い出されて泡専門のお嬢でしか雇って貰えなくなる事など知らないカサンドラを無視して、市場では商品の売買が再開される。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
転生メイドは貞操の危機!
早桃 氷魚(さもも ひお)
恋愛
クララは乙女ゲームの世界に転生した、モブのメイド。
最推しキャラの公爵令息、ロルフのメイドとして、不幸フラグを折りながら、天使のように愛らしい推しを守ってきた。
ロルフはクララに懐き、魔法学園に入学するときも、離ればなれになるのを嫌がるほど。
「帰ってきたら、ずっと一緒だからね?」
ロルフとそう約束してから三年後。
魔法学園を卒業したロルフが、ついに屋敷へ戻ってきた!
だが、クララの前に現れたのは、
かつての天使ではなく、超イケメンの男だった!
「クララ、愛している」
え!? あの天使はどこへ行ったの!?
そして推し!! いま何て言った!?
混乱するクララを、ロルフはベッドに押し倒してきて……!?
-----
Kindle配信のTL小説
『転生メイドは推しを甘やかしまくった結果、貞操の危機です!』
こちらは番外編です!
本編よりずっと前の、推しがまだ天使だった頃のお話です。
本編を知らなくても読めます。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる