乙女ゲームに転生した男の人生

白雪の雫

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⑦ヒロイン・カサンドラ-5-

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 (あの娘、面白いですね・・・)
 年頃の少女であれば恥じらい、胸元と恥部を隠すであろうに、ピンク色の髪を持つ彼女だけは自分という存在を誇示するかのように、堂々と己の裸体を晒している。
 そんな彼女を興味深そうに見ているのは、カルロスの側小姓であるゼフュロス。
 皇帝の側近という立場にある彼が市場───それも奴隷市場にいる理由は唯一つ。
 カルロスの側室候補になる少女を仕入れる為だ。
 ロードライト帝国の皇帝は代々捕虜や奴隷市場等で仕入れた女達を側室としているが、正室である皇后は存在していない。
 何故、ロードライト帝国は皇后を立てないのか?
 それには理由がある。
 ロードライト帝国から見て東に位置する大陸にある超大国を治めるのは皇帝であり、歴代の皇帝は正室となる皇后を迎え入れている。
 だが、先帝の妻が皇太后として、政というものを知らない皇太后の父が皇帝の祖父という立場を利用して権力を握った事により、その国は外戚政治によって乱れ滅亡。
 そして、新たな王朝が建国されては外戚によって国が滅ぶという事を何度も繰り返される。
 東の大国の歴史から、皇帝にとって外戚は害にしかならない事を学んだロードライト帝国は、皇后・皇太后の父や兄弟が政治全般に関わらないようにするだけではなく、皇帝よりも権力が強くなってしまう事を防ぐ意味で皇后を冊立しないのだ。
 あと、ロードライト帝国は男系社会なので【腹は借り物】という考えが罷り通っているという側面もある。
 要するに父親の身分と立場が全てであり、産まれてくる子供達の母親は貴族であろうが、奴隷であろうが関係ないのだ。
 現在、カルロスの後宮にはフローラを筆頭に美しく淑やかな女性が占めているが、己の意思とは関係なく側室となった彼女達は元を正せば王侯貴族の息女。
 幼い頃から淑女としての教養・礼儀作法・立ち居振る舞い等を学んでいるので、気品溢れる女性であるのは当然なのだが、所詮彼女達は皇帝に仕え皇子皇女を産む為の借り物でしかない。
 しかし、毎日同じようなものを食していると飽きが来るのもまた事実。
 ゼフュロスはカルロスの癒しと、主が気に入りそうな個性のある娘を取捨選択しては後宮に入れているのだ。
 (そういえば・・・陛下の後宮に入っている側室は豊満な胸の持ち主が多かったような気がしますね)
 「私は十五番・・・ピンク色の髪の娘を頂きます」
 微乳の娘を仕入れて、カルロスに疑似的な同性愛を味合わせるのも悪くないと考えたゼフュロスは声を上げる。
 (やったーっ!これでアイドネウス様に一歩近づいたわ!!)
 ゼフュロスがそのような考えを抱いているなんて知らないカサンドラは、彼に選ばれた喜びで心の中でガッツポーズを取っていた。





 後にカサンドラは知る事になる。





 この世界の住人はAIではなく、意思と意志を持って生きている一人の人間である事を───。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 (これ・・・何て書いてるの?全然読めないし、書く事も出来ないわ!!ここは日本人が作った乙女ゲームの世界なんでしょ!!だったら日本語にするか、あたしに翻訳スキルを与えるべきでしょうが!!!)
 側室候補としてカルロスの後宮に入る事が決定しているカサンドラ。
 皇帝の側小姓に買われた女奴隷という理由だけで、彼女達はすぐに後宮入りするという訳ではない。
 後宮というのは皇帝に仕える女性達が集められている場所にして生活空間───簡単に言えば私室である。
 生活の場にいる時くらいは、日頃の政務や世間の煩わしさから解放されたいというのが人情ではないだろうか?
 心身共に疲れている皇帝を癒す為に一般教養だけではなく、詩歌管弦や舞踊といったあらゆるスキルを身に付けてから女達は後宮入りをするのだ。
 (大体ね、ここはあたしが幸せになる為だけに造られた世界よ?!ヒロインを接待しない世界なんて有り得ないわ!!)
 カサンドラは世界そのものに対して心の中で愚痴を零す。
 (それに、このおばさんもおばさんよ!)
 「また貴女ですか・・・カサンドラ。歩く時は顎を引いて背筋を伸ばしなさい!」
 (このクソ婆が!あたしが後宮に入って権力を握ったら、あんたなんか追い出してやるわ!!!)
 モブキャラの分際で自分の手を鞭で叩いた教育係の老女を憎悪の籠った瞳で睨みつける。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 自分の人生はベリーイージーモードであるはずなのに、気付かぬ内にハードモードになっている事をカサンドラが愚痴っている頃
 「何と!灯夜君以外に日本人の転生者が存在しておったとは・・・!」
 下界にいる、アイドネウスの未来の嫁がどうしているのかをティフォーネは定期的に盗み見しているのだが、リーベンデールの住人とは異なる魂のオーラを感じ取ったものだからロードライト帝国方面に視線を向けると、悪い意味で一際目を惹く存在があった。

 『ヒロインであるあたしに対する仕打ちを知ったら、あたしを溺愛しているアイドネウス様が天罰を下すわよ!おいっ!そこのクソ婆!!謝るなら今の内よ!!!』

 ティフォーネの瞳に映るのは、結婚適齢期の少女達に文字の読み書きを教えている教師と思しき老齢の女性に対して怒鳴り散らしているピンク色の髪の少女の姿だった。
 「灯夜君の転生体であるアストライアーは人前では馬鹿王女を演じていたが、裏では文字の読み書きから常識を覚えるといった基本的な事だけではなく、リーベンデールで生き延びる為の術を学び錬金術師として逃亡資金を稼ぐ努力をしていたというのに・・・・・・」
 乳が小さいあの娘は文句を垂れているだけじゃのう・・・
 祖父として言わせて貰うが、儂の孫の本命は灯夜君の転生体だけじゃ!!
 お主のような人間を何と言ったかのぅ?・・・そうじゃ!電波じゃ!電波な小娘が孫の嫁になるなど、例え天地がひっくり返ろうがアイドネウスだけではなく儂を含む全ての神族が認めんわ!!!





 二人は地球、それも日本からの転生者であるというのに、何故こうも違いが出るのであろうか?
 ティフォーネは疑念を抱かずにいられないでいるのだった。




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