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⑬性女とは-1-
しおりを挟む「どう足掻いても私は、この世界で生きて行くしかないのね・・・」
ロードクロイツ家の者達が居並ぶ前で、紗雪が決意を口にする。
「あなた、サユキさんには後見となる・・・養女として迎えてくれる家が必要ですわ」
「そうだな。後、陛下にも紗雪殿の事を話しておかなければならないのか」
公爵、侯爵、伯爵・・・
エレオノーラの言葉に、ランスロットは紗雪をどの家の養女として迎え入れさせるかを考える。
迷い人であれ、召喚という形であれ、強力な魔法が付与されているとはいえ何の後ろ盾もなく戦いのない世界で生きていた異世界人が、自分達が今まで培ってきた価値観を覆す異世界で生きて行くのは不可能に近い。というより、不可能である。
だからこそ、国の上層部が異世界人にフリューリングで生きて行く為の常識を教えたり、有力貴族が後見人となるのだ。
但し、国の上層部は何の見返りもなく異世界人を保護するのではない。
彼等の知識と技術を広める事で国の発展を求めるのだ。
戦いに身を置いていた紗雪には、後見人というものは不要だった。
だって、その気になりさえすれば彼女は高ランク冒険者になれる実力があるし、何より元の世界に帰る気満々だったから。
だが、事情が変わってしまった今は違う。
紗雪にはフリューリングで生きていく為の常識だけではなく、戸籍と後ろ盾が必要となったのだ。
「あの・・・ロードクロイツ侯爵、侯爵夫人?私は卸しの商人として生きつつ、レイモンドさんの夢に協力するので貴族の養女になる必要などないのでは?」
「紗雪殿。我等が何の見返りも求めずに異世界人の後ろ盾として王族や有力貴族が名乗り出たり、養子に迎えると思うか?」
「思いませんね」
ランスロットの問いかけに対して紗雪が断言するようにきっぱりと言い返す。
「えっ?違うの?フリューリングで生きて行けるようにする為にという親切心で異世界人を保護するんじゃないの?」
はぁ?
「美奈子さん・・・為政者が異世界人を純粋に心配してフリューリングの常識を教えたり、保護すると思っていたの?!」
国を富ませる為に、技術と文化を発展させる為に、過去の為政者達は迷い人や召喚術で招いた・・・というより拉致した異世界人を保護してきたのだと、紗雪は美奈子にランスロットの言葉の裏を伝える。
「まぁ、第一発見者が貴族ではなく平民であれば純粋な思いで異世界人を保護するのかも知れませんけどね」
私だったら・・・日本に迷い込んでしまった異世界人を目にしてしまったら、その人の事を心配しつつも家の発展と自身が強くなる為に利用する形で保護するでしょうね
「紗雪殿、日本には貴族・・・華族は存在していないと母上から聞いているのだが?」
何故、平民である紗雪にそのような考え方が出来るのか?
ランスロットが紗雪の言葉に疑問を抱く。
「父上。日本で華族が廃止されていなければ、紗雪殿は子爵令嬢という立場にありました」
異世界人を保護していた理由が、純粋に心配していたからではなく国の発展の為だった事にショックを受けている美奈子に対し、紗雪はショックを受けていないどころか寧ろ下心があって当然だと受け止めている節がある。
そんな紗雪に疑念を抱いているランスロットに、レイモンドが彼女の素性を話す。
「話が早くて助かる。だが、誤解のないように言っておくが、私達が紗雪殿を貴族の養女にしようとしているのには理由がある」
「一つはレイモンドの為。もう一つはサユキさんが後見を得る事で行動しやすくする為なの」
(レイモンドの為って・・・。もしかして、二人は私をレイモンドさんの嫁にしようと・・・って!嫁にする気満々だわ!!)
ランスロットとエレオノーラを霊視してしまった紗雪は、何だか外堀が埋められて行っているような感じに襲われる。
(フリューリングというか、キルシュブリューテ王国の結婚適齢期って何歳くらいなのかしら?)
レイモンドからその辺りを聞いていなかった紗雪は考える。
日本では晩婚化が進んでいるのだが、ここは異世界。
十代前半から半ば辺りが適齢期で、ニ十歳を過ぎれば嫁き遅れと見做される可能性があるのだ。
「レ、レイモンドさん?私って幾つに見えます?」
キルシュブリューテ王国の結婚適齢期を知らない紗雪がレイモンドに尋ねる。
「紗雪殿?」
ん~っ・・・
「十五か十六?」
紗雪の問いかけの意図が見えないレイモンドであったが、彼女の外見から判断した年齢を答える。
「・・・・・・あのですね、レイモンドさん。私、ニ十歳です」
実年齢より若く見られているという事は、裏を返せば子供っぽいとも受け取れる。
ここは素直に喜べばいいのか、ショックを受ければいいのか、紗雪は判断が出来ないでいた。
はぁ?
「ニ十歳?!紗雪殿は俺より三つ年下だったのか!?」
もしかして、元の世界では結婚していたとか?!
ニ十歳で結婚していたというレイモンドの台詞から、紗雪はキルシュブリューテ王国の結婚適齢期は十代だと察する。
「そんな訳ないでしょ!!」
一に修行、二に修行、三四がなくて五に修行!
一に妖怪退治、二に妖怪退治、三四がなくて五に妖怪退治!
そんな日々を送っていた自分に結婚はおろか、性女・・・ではなく聖女である茉莉花のように何人もの男と同時に付き合った事はないし、彼氏と呼ばれる存在などいなかったのだとレイモンドに言い返す。
「紗雪さん・・・ティンカーベルだったの?」
プックスー
自分が二十歳だった頃と比べたらボンキュッボンで遥かに美人な紗雪が喪女であったという事実に、美奈子は思わず吹き出してしまう。
(何か腹立つ!)
学生時代に彼氏がいたというだけで、男と付き合った経験すらない自分を見下している美奈子にイラッとしてしまった紗雪の顔から表情が消える。
((((怖っ!))))
そんな紗雪を目にしてしまった一同はgkbrになり、顔からは音を立てて血の気が引いていく。
「さ、紗雪殿?ティンガーベルが何を意味するのか分からないが、貴女に聞きたい事がある。【性女】とは何なのだ?」
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