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⑰カステラの試食-3-
しおりを挟む「総料理長、牛乳はどこにあるんだ?それと、厨房にある食材と調理器具は俺達が好きなように使っていいのだな?」
「はい。旦那様と奥方様からそのように聞いております。それと牛乳ですが、牧場から今朝届いたものを冷蔵庫に保管しています」
レイモンドの言葉に総料理長が答える。
お茶会とは、暇を持て余している貴族の奥方や令嬢達が自分達の好きなものを好きなように語り合う場ではない。
有力貴族とのコネを作ったり、家や領地の繁栄の為の情報収集・情報交換・社交の場であると同時に、腹の探り合いをする戦場でもあるのだ。
その事を知っているランスロットとエレオノーラは、お茶会に出すお菓子の為に食材を好きなように使っていいと許可を出したのである。
巨大な冷蔵庫にある陶器の牛乳瓶に入っている牛乳を鍋に注いだレイモンドは、それをコンロの上に置くと火を点ける。
「まずは超高温殺菌した牛乳から飲むとしましょうか」
「紗雪殿、超高温殺菌牛乳は短時間の殺菌でいいという事は強火で熱したらいいのか?」
「ええ。沸騰したら数秒で火を止めるの」
「分かった」
強火で温める事数分
外側が泡立ってきたので、表面に膜が張らないように木ヘラでかき混ぜつつ熱していく。
本当は温度計があればいいのだが、キルシュブリューテ王国では見た事がないので出す訳にはいかなかった。
表面がぐつぐつと煮立ってきたらコンロの火を止めるという方法を取るしかない。
「・・・これくらい沸騰させたらいいかしらね?後は人肌くらいに冷ませば飲めるようになるわ」
紗雪の言葉に従い、レイモンドがコンロの火を止める。
待つ事十分
紗雪とレイモンドが人数分の牛乳をカップに注ぐ。
「超高温殺菌牛乳を飲んでみましょうか」
紗雪の言葉に一同が牛乳を口に運ぶ。
「・・・何か臭うんだよな~」
「何て言えばいいのか分からないが・・・味が薄いと言うか」
初めて口にするものだから、レイモンドと料理人達は何と表現すればいいのか言葉が見つからないので、微妙な顔つきになりながら首を傾げる。
「次は低温殺菌した牛乳を飲んで貰うわ」
「紗雪殿、低温殺菌牛乳はカフェオレとカフェラテを作る時に弱火から中火で十五分かけて殺菌したあの・・・」
「ええ。低温殺菌した牛乳は生乳・・・搾りたての牛乳に近い風味になるのですって」
レイモンドさん、後は私がするから休んで頂戴
巨大な冷蔵庫にある陶器の牛乳瓶に入っている牛乳を鍋に注いだ紗雪は、それをコンロの上に置くと火を点ける。
弱火で温める事数分
外側が泡立ってきたので、牛乳の表面に膜が張らないように木ヘラでかき混ぜつつ沸騰させないように殺菌していく。
「あの時も思ったのだが・・・低温殺菌とやらは随分と時間がかかるのだな」
カフェオレとカフェラテを作った時の事を思い出したレイモンドが呟く。
「でも、超高温殺菌した牛乳より濃厚で甘味とコクを感じるわよ」
初めて低温殺菌牛乳を飲んだ時、自分が普段飲んでいる牛乳と味が違うものだから驚いてしまった事をレイモンドに話す。
「私個人としては、殺菌に時間がかかると分かっていてもレイモンドさんには低温殺菌牛乳を飲ませたいわね・・・」
(!!)
「紗雪殿・・・」
(私ってば何て事を・・・)
(紗雪殿の今の台詞、俺の思い上がりなのかも知れないが・・・少しは期待してもいいって事なのか・・・?)
自分がとんでもない発言をしてしまった事に気が付いた紗雪と、彼女の言葉を深く捉えてしまったレイモンドは顔を真っ赤にして俯く。
コンロの火を調整しながら木ヘラでかき混ぜていく事十五分
紗雪はコンロの火を止めると、人肌くらいになるまで冷ます。
十分後
二人が人肌くらいにまで冷ました牛乳を人数分だけカップに注ぐ。
「低温菌牛乳を飲んでみましょうか」
紗雪の言葉に一同が牛乳を口に運ぶ。
「!!」
「これが牛乳本来の味なのか?!」
コクがあって甘くて濃厚でクリーミー。だが、サラッと飲みやすいものだからレイモンド達が驚きの声を上げる。
「やはりカフェオレとカフェラテに合うのは低温殺菌した牛乳だな」
「これなら旦那様達の朝食や休憩の時に供しても問題ないでしょう」
ランスロットの酷い偏食(?)───侯爵家の料理人達が腕によりをかけて作った昼食と夕食を口にしないという事実に頭を悩ませていた総料理長は、このままでは何れ朝食も摂らなくなると考えていたものだから安堵の息を漏らす。
「父上の舌を満足させるような料理は俺と紗雪殿がお前達に後で教えるとして・・・その前にお茶会に出すカフェオレとカフェラテを作る方が先だ」
レイモンドと紗雪は煮出しコーヒーを作りつつ、冷蔵庫に保管している牛乳を低温殺菌していく。
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