カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
104 / 465

㉗ちくわパンとカルツォーネ-8-

しおりを挟む









 「プリッとした弾力のある歯応え。これは一体・・・?」

 「ウィンナー・・・ではないな」

 「干した魚を水で戻してから焼いた、のか?いや、違うか」

 肉を使って作るウィンナーのようにジューシーな肉汁を感じないのでウィンナーではない事は分かるのだが、初めての食感と味にシュルツベルク伯爵親子とランスロットは首を傾げる。

 「だが、美味い」

 「このテリーヌ?パテを固めたもの?多分、異世界では普通に食べられている食べ物とチーズ、マグロのオイル漬けは相性がいいのですね」

 ((酵母が広まれば、民達も柔らかいパンを口に出来るだろうな。それにはまず果物の生産に力を入れて・・・))
ランスロットとアルバートは、給仕達がテーブルに置いたちくわパンを食べながら酵母を広める為の算段を立てる。

 「果物の生産もあるが、聖女・・・いや、性女を牽制する意味で酵母を商業ギルドに登録するのが先だな」

 「聖女?それって邪神・サマエルを倒したウィスティリア王国のマリカ殿の事か?」

 「アルバート、あの女は聖女でなく性女だ」

 何せあの性女は元の世界では何人もの男と関係を持っていたし、他人の大切な物を取り巻きを使って奪い取っていたり、恋人や彼氏を略奪していた。

 しかも、弱者や自分より美人や可愛い女の子を陰湿な手で虐げる事に対して躊躇するどころか罪悪感を抱かない性悪女だ。

 それが原因で性病に罹っているし、堕胎した赤子の霊が取り憑いているという事故物件以外の何者でもない。

 「何それ~?」

 世界を救った英雄の一人を悪し様に言い放ったランスロットにアルバートが呆れ果てた視線を向ける。

 「父上、あのロードクロイツ侯爵が聖女殿をあそこまで罵るのは故あっての事でしょう・・・」

 異世界の聖女マリカは妖精のように清楚可憐で天真爛漫。

 貴賤問わず平等に優しく接し、純粋無垢で慈悲深く正義感が強いのだという。





 異世界人でありながら、ウィスティリア王国の為に最前線で戦い世界を救った聖女





 嘘か本当か分からないが、噂によるとそんな茉莉花と婚姻を結ぼうと噂を聞きつけたウィスティリア王国の伯爵以上の家柄の貴族子息だけではなく、近隣諸国の高位貴族の当主が自分の息子の婚約者と婚約破棄させてまで彼女との縁談を持ち掛けていた・・・らしい。

 しかし、茉莉花に惚れているギルバードが彼女を王太子妃に迎えようとしているらしいので、数多の縁談はすぐに立ち消えになってしまったというオチつきである。

 傍から見れば茉莉花は超優良物件でしかないのだが──・・・。

 「もしかして・・・ロードクロイツ侯爵はサユキの能力で聖女殿の真実の姿を知ったのですか?」
迷い人の価値を知っているアルベリッヒがランスロットに問い質す。

 「アルバート、シュルツベルク伯爵夫人、アルベリッヒ殿。私は紗雪殿が戦っているところを一度も目にした事がない。だが、術者としての腕は一流である事は確かだ」

 敵に回せば恐ろしいが、味方であれば頼もしい存在

 それが紗雪という人間である。

 「俺はサユキが戦いに身を置いていたという事は聞いているが、お前さんと同様にその実力は知らない。だが、お前さんがサユキの能力を通じて聖女・・・いや、性女の本性を知ったのであれば俺は娘が一流の術者で、性女がとんでもない事故物件だという事を信じるさ」

 何せお前さんは何の根拠もなく、そのような事を口にする男じゃないからな

 「まぁ・・・この場に居ない性女の話はこれくらいにして、俺達はこの異世界のパンを楽しむとするか!」

 「ああ」

 「このパンの食感は初めてだけど美味しいのね。次は試食用として切ったものではなく、チーズが入ったものとマグロのオイル漬けが入っているものを一個ずつで欲しいわ」

 「僕も」

 「私も」

 「俺も」





 四人はちくわパンを堪能する。












しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...