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㊱シメパフェ-3-
しおりを挟むディートヘルムの口に広がるのは、さっぱりとしていながら牛乳のコクを感じるシャーベットと一つになった杏のジャムの甘酸っぱさ。
滑らかな口当たりと優しい甘さのカスタードクリーム。
もちっとした食感のカステラ。
これだけでも美味しいのに、カステラとカスタードクリームを一緒に食べるとどうなるのだろう。
ディートヘルムは、カステラとカスタードクリームをスプーンで掬い口に運ぶ。
「!!」
甘くて滑らかなカスタードクリームが、パンにつけて食べるジャムの役割をしていると言えばいいのだろうか。
パンとは異なる食感のカステラと、カスタードクリームの滑らかでコクがありながら優しい甘さをディートヘルムは堪能していた。
葉っぱの形をしたクッキー、杏、シャーベットを食べて口直しをしたディートヘルムはグラスの底をスプーンで掬った。
杏の甘酸っぱい味と一つとなり幾分しっとりとなっているパイと、カスタードクリームの濃厚な味がディートヘルムの口の中に広がる。
「・・・余が今まで食べてきたどのデザートよりも美しいだけではなく、何より美味であった。流石はサユキ嬢だ」
日本風に言えばシメパフェになるのだろうか。
食べ終えたディートヘルムは紗雪に対して感謝の言葉を口にした。
「恐れ入ります。ですが、このデザートを作ったのは私ではなくレイモンド様です」
陛下が感謝を告げるのはレイモンド様でしょう
「何と!」
異世界人である紗雪が作ったと思っていたデザートが、実はレイモンドが作ったという事実にディートヘルムは驚きを隠せないでいる。
「お言葉を返すようですが、陛下。私がこのデザートを作る事が出来たのは、紗雪嬢の教えがあったからこそなのです」
ふむ・・・
「さしずめ、そなた達二人で考えて作ったデザートと言ったところか。実は二人に話がある」
ディートヘルムからの申し出というのは、宮廷料理人として自分に仕えないか?というものだった。
「我等をそこまで買って下さる事、光栄の至りです。ですが──・・・」
私は紗雪嬢の故郷の料理を広める為に、紗雪嬢がこの国を第二の故郷と思って欲しい為に料理を作っているのです
そのような動機で料理に携わるようになった私が王宮に仕える事になれば、純粋な思いで料理の道を志した者から見れば我等など不遜以外の何者でもないでしょう
「・・・今のは戯言だ。忘れよ」
二人が王宮に仕える気がないと分かっているからこそ戯れに言っただけだと、ディートヘルムが笑いながら告げる。
出来る事なら自分に仕えて欲しかったというのがディートヘルムの本音であったが、紗雪は貴族の養女にした上でレイモンドの婚約者に据えたという事実があるし、レイモンドは紗雪にキルシュブリューテ王国を第二の故郷と思って欲しいと言っていた。
「レイモンド殿、サユキ嬢。そなた達に此度の氷菓の礼をしたいのだが、何か望みのものはあるか?」
二人がどこかの国に出奔するという気がないという事が分かったからなのか、ディートヘルムが紗雪とレイモンドに尋ねる。
(望み、か・・・)
こういう事を他人から聞かれるのは困ると思いながらも紗雪は必死になって考える。
(牛乳から生クリームを作るクリームセパレーターに似た魔道具はロードクロイツ侯爵にお願いしているし、日本人のソウルフードである米・味噌・醤油はお養父様が桜花という国から輸入しているから問題ない)
健康食の代表とでも言うべき豆腐の原料である大豆を桜花から輸入して栽培を頼もうかと思ったが、個人の望みとしては大それているような気がする。
(というより、キルシュブリューテ王国が大豆の栽培に適しているかどうかも分からないし、何より私自身が大豆の栽培方法を知らないから止めた方がいいわね。健康食の代表とでもいうべき豆腐を使った料理、豆乳を使ったケーキを広めると言うのもありかしら?そういえば熟す前の大豆って枝豆なのよね?)
緑の宝石と表現してもいい枝豆を使った料理って何があっただろうか。
(枝豆と塩昆布の混ぜご飯、枝豆と鶏肉を使った春巻き・・・鶏肉ではなく海老で春巻きを作れば、シュルツベルクの名物になるかしら?)
いや、最初は名物ではなく酒のつまみとしてシュルツベルク家に広めるというのもありかも知れない。
(枝豆を使ったスイーツって何があったかな~?)
ずんだ餅にずんだプリン、枝豆饅頭にケーキ
(大豆と枝豆を使った料理・・・お養父様達は受け入れてくれるかしら?)
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