カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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52.聖女からの宣戦布告(後編)-1-

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 話は、レイモンドと紗雪が米粉でパン等を試作していた頃まで遡る。





 (やはりサユキ嬢の功績は大きいな・・・)

 ディートヘルムは五年に一度───来年の春に王宮で執り行う叙勲授与式の事で悩んでいた。

 叙勲授与式とは、文化・教育・音楽・芸術方面で国に貢献したとか、武功を立てたという風に何かしら功績のあるを讃える為に士爵か準男爵を与える式典だ。

 国王によって叙勲された平民が士爵か準男爵になったからといって、どこかの土地を治める領主になる訳ではない。かといって、貴族名鑑に記載されるが貴族の仲間入りを果たす訳でもない。

 簡単に言えば名誉だ。

 (だが、サユキ嬢は伯爵令嬢・・・)

 プルメリア島と交易するようになった事で、バニラビーンズをはじめとするマンゴーやパパイヤといった果物がキルシュブリューテ王国に広まり、徐々にではあるが料理のメニューの幅が広がり、食文化が豊かになってきている。

 それ等を手に入れる事が出来るようになったのはレイモンドのおかげだが、切っ掛けを作ったのは紗雪である。

 レイモンドは侯爵家の三男だが今の彼は平民として生きているし、功績を讃える意味で準男爵に叙しても問題はない。

 紗雪は平民として生きて行く事が決まっているとはいえ、今の彼女は貴族令嬢。

 貴族であるが故に、一代限りの士爵か子に引き継がせる事が出来る準男爵を授ける事が出来ないのだ。

 (今回は諦めるしかないだろうな・・・)

 ディートヘルムは指で眉間を押さえながら溜め息を漏らす。

 「陛下、何かお悩みですか?」

 そんなディートヘルムにディビッドが声を掛ける。

 「いや。叙勲授与式の事で考え事をしていただけだ」

 「左様でございましたか。それよりも陛下、気分転換の意味でお茶と菓子を用意しました」

 本日の菓子はバニラビーンズを入れたクッキーです

 そう言ったディビッドがテーブルの上に、ハーブティーとクッキーを置いていった。

 食事前の祈りを捧げた後、ディートヘルムは皿の上にある一枚のクッキーを一口だけ齧る。口直しとして飲むハーブティーで甘さをリセットしたら、再びクッキーを口に運ぶ。

 「・・・・・・サクッとした食感。程よい甘さ。そして、何と言ってもこのバニラの甘い香りが余の心を癒すかのようだ」

 クッキーを食べた事で心が落ち着いたディートヘルムは安堵の息を漏らす。今の彼は魔王な威厳とオーラを纏っていない、普通に大好きな甘いものを食べて幸せそうな顔をしている、ごく普通のおじさんであった。

 「陛下!お寛ぎのところ失礼いたします!」

 そんなディートヘルムの元に側近が一通の書状を持って慌てふためきながら部屋へと入って来た。

 「ウィスティリア王国のエドワード王太子殿下と聖女様からキルシュブリューテ王国の陛下に渡すようにと・・・」

 側近から書状を受け取ったディートヘルムは目を通す。

 「・・・・・・ロードクロイツ卿とシュルツベルク卿、それから当事者であるレイモンド殿とサユキ嬢に、王宮に来るようにと伝えてくれぬか?」

 「仰せの通りに。陛下、お聞きしてもよろしいでしょうか?ウィスティリア王国から届いた書状には何て書いておられたので?」

 (・・・・・・・・・・・・)

 どう答えたらいいのか分からないディートヘルムは、ウィスティリア王国の王太子と聖女から自分宛てに届いた書状をディビッドに手渡す。

 「私が目を通しても・・・?」

 (・・・・・・・・・・・・)

 沈黙を是だと判断したディビッドは、ディートヘルムから受け取った書状に目を通していく。

 「こ、これは・・・!?」

 (・・・・・・・・・・・・)

 ディートヘルムとディビッドは、ウィスティリア王国の王太子と聖女から届いた、理不尽で子供じみた内容としか思えない書状に目を通した後、どこか遠くを見つめる眼差しで絶句するのだった。









※本文には書いていませんが、ベルンハルトは早い段階で準男爵になる事が決まっていたので彼の名前は出ていません。









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