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54.聖女との対決-2-
しおりを挟む陸路でウィスティリア王国に行く為、王都の一角にある魔獣小屋に到着した紗雪一行は、主に案内されるまま目的の魔獣が居る厩舎を歩いていた。
魔獣小屋と言っても、地球では聖獣に分類されている獣も車用・騎乗用として調教しているのだ。
風通しと日当たりが良い厩舎からは、広い牧草地と小さな湖くらいの大きさの水飲み場等といった施設が見える。
(流石は異世界。何でもありね・・・)
スレイプニル、グリフォン、金羊、キマイラ、レイモンドが挙げていたユニコーンにペガサス等
今回の旅の為に借りる予定のユニコーンをはじめとした、地球では存在しないものとして分類される多種多様な魔獣が、それぞれの房で一頭ずつ飼われていた。
「お客様達がご希望するユニコーンでございます」
主が示す方に目を向けると、一本の角が生えている純白の毛並みが美しく神々しい雰囲気を纏った、某世紀末覇者の愛馬を思わせる立派なボディーを持つ一頭の馬ことユニコーンが房でのんびりと休んでいた。
「・・・触ってみても、いいですか?」
地球ではファンタジーものを扱った神話や伝説、漫画やゲームといったサブカルチャーでしか出て来ないユニコーンを目にした事で好奇心が抑えきれなくなった紗雪が主に許可を求める。
「お客様。その、ユニコーンは純潔の乙女・・・つまり、我が厩舎で働く生娘の従業員にしか触れる事が出来ない聖獣ですので・・・」
もし、紗雪が純潔でなかったら?
ユニコーンの神秘的な美しさに心惹かれた、両親と共に厩舎までやって来たとある貴族令嬢が自分のペットにしたいので飼いたい。だが、その前に触ってみたいと主に希望を伝えた。
その令嬢は見た目も可憐だったので清らかな乙女だろうと判断した主は、彼女に触ってもいいと許可したのだが、女に触れられた途端ユニコーンは気が狂ったかのように暴れ出したのだ。
ユニコーンが暴れたという事は、かの貴族令嬢は純潔の乙女でないという事だ。
ポーション一本では治せないレベルの深手の重傷を負ってしまった未婚の娘が既に純潔を失ってしまった事を第三者に知られてしまった彼女の両親は、主に多くの金を渡すと慌てて厩舎を去ってしまった───。
かの貴族令嬢は関係があった従僕と駆け落ちしただの、婚約者と結婚しただの、婚約解消して豪商の会頭の後妻になっただの、色んな噂が流れているらしいが主にとっては関係のない話だ。
あの令嬢は貴族らしく実に高慢な口調だったが、黒髪で長身の令嬢は腰が低く丁寧口調。しかも超美人。
純潔の乙女でなかったら良くて重傷、悪くて殺されてしまうものだから、主は紗雪にユニコーンに触れるのは止めた方がいいと忠告した。
「ご忠告、ありがとうございます。ですが、そのような心配は無用です」
そう言った紗雪はユニコーンに声を掛けながら手をやって優しく撫でる。
紗雪から純潔の乙女しか持たない香りと、エルフよりも上位種の気配を感じ取ったユニコーンは大人しく我が身を預けていた。
こうして触れてくれる手が心地よかったからなのだろうか。紗雪に対して自分の背中に乗れと言わんばかりに、ユニコーンは座り込んだ。
「これは・・・珍しい光景ですね」
ユニコーンは純潔の乙女にしか懐かないが、自分から他人を乗せる事を示す行動と声を上げて鳴いたのは紗雪が初めてだったものだから主は驚きの声を上げる。
「そうなのですか?」
「儂は若い頃に世界を旅していたから純潔の乙女がユニコーンに触れる姿と、純潔の乙女と偽った娘を蹄で踏み殺した姿を見た事はあるのじゃが、ああやって座り込んで誰かを乗せる姿勢を示したのは初めてじゃな」
(やはりこれはサユキ嬢が白鳥処女の末裔である事と、天界の者に相応しい膨大な霊力を持つ事が原因なのか?)
魔獣小屋の主程ではないが、それでも驚きを隠せないでいるクリストフも思わず声を上げる。
「ユニコーンをああやって座らせるには、まず調教師に頼んで説得させないと駄目なのですよ。お嬢さん、ユニコーンに乗ってみますか?」
「よろしいのですか?・・・でも、このユニコーンは鞍や鐙といった馬具を着けていないのですよ?」
「それ等は私共で着けますので何の問題もございません」
「紗雪。ここは主の好意に甘えて乗ってみれば・・・って、その前に根本的な事を聞くが、紗雪は乗馬経験があるのか?」
実は子供の頃に一度だけ、家族で馬牧場に行った時にポニーに乗った事があるのだが、その時は係の人が歩きながらポニーを牽いてくれた。自分で馬を操った事もないので乗馬に関しては全く分からないのだとレイモンドの問いに答える。
「俺がユニコーンを操るから乗ってみるか?」
「はい」
レイモンドと恋人らしい事が出来る嬉しさに紗雪は笑顔で答える。
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