261 / 465
55.トマトのパンナコッタ-11-
しおりを挟む「いらっしゃいませ」
「お待ちしておりました。セバスティアンさん、ヴェルネージュさん」
「んだんだ!」
メアリアに案内されてカフェ・ユグドラシルまでやって来た吸血鬼と狼男を、レイモンドとレオルナードをおんぶしている紗雪が出迎える。
「女将、トマトで作ったデザートの前にランチを頼む。そうだな・・・今日は鶏のむね肉が入ったパエリアを食べたい」
「俺はベーコンのパエリアで」
「鶏むね肉のパエリアとベーコンのパエリアをそれぞれ一皿ずつ。ご注文承りました」
注文を受けた紗雪はレイモンドが居る厨房へと向かう。
待つ事暫く
「お待たせいたしました。鶏むね肉のパエリアとベーコンのパエリアです」
レイモンドが作ったパエリアを二人の前に置いていく。
「カフェ・ユグドラシルのシェフが作った料理は、どれも美味いんだよな」
肉の旨味を吸った、少し芯を感じて焦げている部分が香ばしく食べ応えのある米料理。
セバスティアンとヴェルネージュは、サフランで米が黄色くなっているパエリアを綺麗に平らげていく。
「セバスティアンさん、ヴェルネージュさん。皿をお下げしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「このお皿を下げましたらトマトで作ったデザートをお持ちしますので少々お待ち下さい」
「殿下、トマトで作ったデザートってどんなものだと思います?」
「この店のシェフの事だから、砂糖か蜂蜜を塗したトマトをそのまま出さないと思うが・・・」
営業スマイルを浮かべてそう言った紗雪がトレイにパエリアの皿を乗せて厨房へと向かっていく姿を見送りながらセバスティアンとヴェルネージュは、デザートについて語り合っていた。
「おまたせいたしました。トマトゼリーと、トマトのパンナコッタです」
紗雪がセバスティアンとヴェルネージュの前に置いたのは、ワイングラスを思わせる器だった。
一つは透明なスライム(?)の中に見える小さく刻まれた鮮やかなトマトの赤。
一つはミルク色のスライム(?)の上にかかった鮮やかで赤いトマトのジャム。
彼等にとって本日のメインとでも言うべきトマトを使ったデザートだ。
「これは・・・どちらも美しいデザートだな」
「陛下と王妃様も気に入るかも知れないですね」
自分達が信仰する神に食事前の祈りを捧げた二人は、レイモンドが作ったトマトゼリーを食べ始める。
「このスライム・・・いや、ゼリーでしたっけ?これだけだと何となく味気ないように感じますけど」
「小さく切ったトマトと一緒に食べるとレモンの爽やかな酸味と蜂蜜の甘さを感じるな」
甘酸っぱいトマトのゼリーは、今日のように暑い日のデザートにぴったりだと思いながら二人は食べ進めていく。
「もう一つは・・・牛の乳か?いや、山羊の乳?癖がないから牛の乳だな。乳で作ったゼリーにトマトのソースをかけているのか?」
先程食べたゼリーはトマトがメインだったが、次に食べるデザートはトマトが添え物という感じだ。
「殿下、まずは食べてみましょう」
ヴェルネージュの言葉に従い、セバスティアンはトマトのパンナコッタをスプーンで掬うと口に運んだ。
「これは・・・トマトのソースではなくジャムなのだな」
「乳で作ったゼリー・・・牛の乳で作ったパンナコッタとやらはバニラの香りがして甘くて濃厚ですね。これだけでも十分に美味しいですよ」
濃厚な乳の味と食感が滑らかなパンナコッタだけでも美味しいのに、ジャムと一緒に食べるとトマトの甘酸っぱさとパンナコッタの甘さが一つになり口の中でハーモニーを奏でる。
「殿下。トマトを使ったデザート、どちらも美味しかったですね」
「ああ」
二つのデザートを食べ切ったセバスティアンとヴェルネージュの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「女将、忙しいところ恐縮だがシェフを呼んでくれないか?」
他のテーブルに料理を運んでいた紗雪にセバスティアンが声を掛ける。
「はい。少々お待ち下さい」
料理を注文した客が座るテーブルに置いた紗雪はレイモンドを呼びに厨房へと向かった。
「お客様、お呼びでしょうか?」
「忙しい時に呼び出して済まない。私はただシェフにトマトのデザートを作ってくれた礼と、デザートが美味であった事を言いたかったのだ」
「お褒めにあずかり光栄に存じます」
他国の、それも吸血鬼の王子に褒められたレイモンドは頭を下げる。
「シェフ、女将。私はパスタとパエリアもだが、特にトマトのパンナコッタが気に入った。時間が出来たらこの店に来るから・・・その時はまたトマトのパンナコッタを作って貰えないだろうか?」
今回は自分の希望でトマトを使ったデザートを作っただけだ。
正式なメニューではない料理を作って貰えるかどうか分からないのでセバスティアンはレイモンドと紗雪に頼み込む。
「女給達の反応が良かったらアイスクリームのように夏季限定のメニューとして追加しますよ。紗雪、それでいいか?」
「ええ。当店の・・・レイモンドが作った料理を気に入ってくれたのですもの」
「シェフ、女将。感謝する!」
パエリアの代金とは別に今回の謝礼を払ったセバスティアンとヴェルネージュは店を出て行くのだった。
1
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
本物の聖女なら本気出してみろと言われたので本気出したら国が滅びました(笑
リオール
恋愛
タイトルが完全なネタバレ(苦笑
勢いで書きました。
何でも許せるかた向け。
ギャグテイストで始まりシリアスに終わります。
恋愛の甘さは皆無です。
全7話。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない
鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」
その“正義”が、王国を崩しかけた。
王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、
婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。
だが――
たとえそれが事実であったとしても、
それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。
貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。
それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。
「世界は、残酷で不平等なのです」
その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、
王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。
婚約破棄は恋愛劇では終わらない。
それは、国家が牙を剥く瞬間だ。
本作は、
「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」
「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」
そんな現実を、徹底して描く。
――これは、ざまぁではない。
誰も救われない、残酷な現実の物語である。
※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。
学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、
権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる