カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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閑話6・夏のバイト-9-

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 堂の隙間から茜色の光が差し込み、外ではどこか哀愁と懐かしさを帯びた声でヒグラシが鳴いている。

 ゴクッ・・・

 緊張の糸が張り詰めている堂の中で、誰の者か分からない固唾を呑む音が嫌に大きく聞こえる。

 外は夕方でエアコンを付けていないレベルで暑苦しいにも関わらず薄暗い堂の中が寒いと感じるのは、あれ等の気配が身近にあるというのもあるが生命の危機が刻一刻と迫っているからなのだろう。

 ギュッ

 (・・・・・・そろそろね)

 ヒグラシの鳴く声が聞こえなくなった事と月の光が差し込んでいる事で今は夜になったのだと察したのだろう。

 三人は恐怖で身体を震わせながら無意識に紗雪に縋りついていた。

 ・・・マ、・・・マ

 そんな彼女達の耳に何かを求める声が入って来る。

 「・・・っ!」

 「な、何あれ!?」

 「ゾンビそのものじゃない!!」

 思わず声を上げそうになった芳恵は慌てて自分の口元を手で塞いだのだが、隙間からあれ等の姿を見てしまった事でパニックになってしまった真由美と涼香が大きな声を上げてしまう。

 「マ、マ・・・」

 「マ、マ・・・」

 「い、いやぁ!」

 「た、助けて!」

 「「し、死にたくないーーー!!!」」

 (真由美達ってどう考えてもホラー映画の序盤で化け物に襲われてすぐに退場する登場人物そのものだわ)

 眼孔から目玉が落ち、一部が溶けている肉体から腐臭を漂わせているゾンビのような存在が近づいて来るという恐怖で三人は粗相をしてしまったのだがそれに構う事なく、また尊清からの注意を忘れて堂を出てしまった。

 「マ、マ・・・」

 「マ、マ・・・」

 「だ、だずげで・・・」

 「じにだぐない・・・」

 涙と鼻水で汚れた顔で悲鳴を上げる三人に縋ろうとする肉体が爛れてゾンビと呼べる存在と化してしまった物であったが、勢いよく弾かれてしまった。

 「えっ?」

 「た、助かった、の?」

 見えない力で化け物が自分達から離れた事で三人はキョトンとした表情を浮かべて安堵の息を漏らすが、それは彼女達が紗雪お手製の霊符を持っていたからだ。しかもその霊符の効力は一度だけという即席のものに過ぎない。

 ゾンビのような化け物三体は再び真由美達へと近づいて行く。

 (チッ!)

 「だ、だずげでーーーっ!!!」

 「じにだぐないーーーっ!!!」

 声を上げながら泣きじゃくっている三人に対して心の中で舌打ちした紗雪は、自分達の姿が見えている彼女達に近づいて来る三体に懐から取り出した霊符を投げつける。

 紗雪が三体に投げつけたのは普段から携帯している自身の霊力を込めて書いた霊符。

 真由美達には気休めとして渡したお札とは比べ物にならないくらいの威力だ。

 ぎゃああああ!!!

 肉体という器があっても魂魄にダメージを与え消滅させる霊剣・蜉蝣と比べたら劣るとはいえ、紗雪の霊符はそこら辺の霊能者が書いたものとは比べ物にならない威力と効果がある。

 喩えるなら、生きたまま皮膚が剥がれた事で外気に晒された筋肉と神経に直接ダメージを受けるようなものだ。

 「マ、マ・・・」

 「マ、マ・・・」

 そんな霊符の攻撃をまともに受けてしまった三体からは、地獄の炎で焼かれている苦しみで唸るような、助けを求めるような悲鳴が上がる。

 「わ、私達・・・た、助かった、の・・・?」

 三体の肉体が完全に溶けていく様を黙って見つめている芳恵が紗雪に尋ねる。

 「ええ。これで芳恵さんが見えていた三体は消滅して術者は呪詛返しをまともに受ける事になるけど、それがどんなものかまでは・・・想像出来ないわね」

 紗雪の一言で三人は緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んだと同時に安堵の息が漏れる。

 「この事を尊清副住職に報告しに行くとしますか」

 「そうだね」

 「ところで紗雪。今回の事件を起こした術者って誰なの?」

 「その事も含めて尊清副住職には話して貰うわ」

 昼間とは打って変わり、四人は和やかな雰囲気で庫裡へと向かう。













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