カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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70.エルフによるカフェ・ユグドラシル買収騒動-2-

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 杏仁パウダーを入れたカップに湯を注いだだけなのに甘味を感じるのは、杏仁パウダーに砂糖が入っているからなのだろう。

 そんな杏仁パウダーを使った料理は何があるだろうか?

 杏仁豆腐、杏仁茶、杏仁茶以外の飲み物、パン、ケーキ、タルト、クッキー、カスタードクリーム、生クリーム、アイスクリーム・・・

(いや。今の俺が口にしているのは紗雪のスキルで手に入れた異世界の食材だから、杏仁パウダーを使った料理を出すのは無理だな)

 自分の時代では杏仁パウダーを使った料理をカフェ・ユグドラシルの新たなメニューとして加えるのは難しいだろう。

 これは後進に道を譲るべきかも知れない判断したレイモンドは紗雪が作った杏仁茶を嚥下していく。

「紗雪、聞きたい事があるのだが・・・」

「聞きたい事?」

「ああ」

「母乳って何で出来ているんだ?」

「子供を産んだ女性の血液で出来ているわね」

「やはりそうか・・・」

 神の娘とも神の侍女とでも言うべき天女の血を引くレオルナードが紗雪の血で出来た母乳を飲んで育っているように、自分達を神に近い存在と称しているエルフは赤子の頃は何を飲んでいたのだろうか?というものだった。

「・・・・・・多分だけど、母乳ではないかしら?」

 世界創造に関わった原初神は世界の摂理そのものだからなのか、成人の姿というのがお約束だ。

 原初神ならともかく、彼等の孫や曾孫世代となると【女神は赤子だった〇〇神の世話をニンフの誰々に頼み、〇〇神は彼女の乳で育った】という表記が神話にある。

 神々ですら母と乳母という違いがあれど母乳を飲んでいたのだから、神に近い存在(笑)であるエルフも赤子の頃は母乳、或いは母乳に近い山羊の乳を口にしていたと見ていいだろう。

「エルフが母乳で育ったかどうかは同族であるクリストフ陛下に聞くのが確実だと思うわ」

「・・・そうだな」

「でも何でそんな事を聞いてきたの?」

「エルフは肉や魚を口にする種族・・・要するにエルフ以外の種族を見下している。そのエルフが自分達も母や乳母の血を飲んでいたと知ったらどのような反応を見せるのだろうな・・・・・・?」

 これは自分の中にあるエルフに対する恨みを晴らす仕返しであり、豆腐屋の女将から聞いたエルフの企みを阻止する為でもある。

 何と言ってもエルフの矜持───この場合はアイデンティティと言えばいいのだろうか?

 それを崩す為なのだと、レイモンドが世間話をする感覚で紗雪の問いに答える。

「血と言えば・・・エルフが享受している森の恵みも微生物によって分解された虫や動物の死骸を栄養にしているのだから、間接的にエルフも血肉を口にしているという事になるのよね」

 屋台でフライドポテトを売っていた時にクレームを入れたアンネローゼというエルフに食物連鎖の話をした事を思い出す。

 何かの生命を食らって生きて行く・・・これは生きとし生ける動物が生まれながらにして背負っている業であり、生きている限り決して逃れられない運命だ。

 野菜・果物・穀物・乳・肉・魚を口にして生きて来た古の人達の感謝の気持ちから生まれたのが食事前の祈りである。

 それが現代へと引き継がれているのだが、エルフはこの事を分かっていない。

 動物性食品を口にしないだけでエルフも血を飲んでいたし、血肉を口にしているのだ。

 自分達を神に近い存在と称しているエルフが本当の意味でそれを理解した時───どう思うだろうか。

「楽しみだな・・・」

 そう呟いたレイモンドの瞳には昏い光が宿っていた。










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