カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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71.イクラと鮭-6-

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 美奈子がレオルナードの面倒を見ている間、レイモンドと紗雪は厨房で鮭とイクラの親子丼とイクラ丼、そして軍艦巻きを作り始めていた。

 カフェ・ユグドラシルでは米料理を出しているので、ご飯に関しては問題ない。鮭は焼くだけ、冷蔵ボックスには醤油に浸けておいたイクラがある。要するに殆ど準備が出来ている状態だったりする。

 二人が作るのは軍艦巻きに使う薄焼き卵と薄切りの肉、そして酢飯である。

 ご飯、米酢、砂糖、塩で酢飯を作るのだが、ロードクロイツには米酢がないので今回は小麦酢を使う事にする。

(米酢・・・アルベリッヒお義兄様に相談すれば桜花から取り寄せてくれるかしら?)

 寿司がキルシュブリューテ王国に広まるのであればアルベリッヒは取り寄せてくれるのかも知れないが、試食に出す料理を相談していた時にレイモンドに語ったように、酢飯が彼等の口に合うかどうかという懸念が紗雪にはあった。

 生魚を使わない、酢飯を使わない、海苔の代わりに薄切りの肉や薄焼き卵を使うという風にキルシュブリューテ王国向けにアレンジすれば受け入れられると思うが、それはもう寿司ではない。

(どう考えてもおむすびよね?おむすびであれば受け入れられるかしら?)

 そんな事を考えながら小麦酢、砂糖、塩をしっかり混ぜたそれを別のボウルに移したご飯にかけた後、しゃもじで切るように混ぜる。粗熱が取れたら酢飯の出来上がりだ。

 紗雪が軍艦巻き用の酢飯を作っている間レイモンドはというと、鮭の切り身を焼きつつ、溶いた卵に粉末になったジャガイモ澱粉を混ぜて薄焼き卵を作った後、フライパンで焼いた牛肉の薄切りに醤油・砂糖・味醂の代替品で作ったソースを絡ませていた。

 これ等は軍艦巻きに使うはずであった海苔の代わりである。

「だ、旦那様・・・?私達の夜の賄いですが・・・」

「安心しろ。三人の賄いはイクラを使わないもので、今作っているのは俺達の試食用だ」

 深めの器に盛り付けたご飯、薄焼き卵で巻いたご飯、薄切りの牛肉で巻いたご飯それぞれに魚の卵をスプーンで掬い乗せている事に、魚の卵をご飯で巻いている事に不安を感じているのを声色で察したのだろう。

 賄いはドリアだと伝えると、キース達は昼の賄いの時と同様に安堵の息を漏らす。

(レオルくんには薄焼き卵を巻いた鮭・・・鮭は昼食に食べたから鮭ではなく肉そぼろの混ぜご飯でいいわね)

 レオルナードに酢を使った離乳食を食べさせた事がないので酢飯を使う事に不安を抱いている紗雪は、鍋に挽き肉を入れて焼き始める。

 紗雪が作っているのは肉そぼろだ。

 赤色だった肉を解し白く変わった事で紗雪はそこに水・醤油・味醂の代替品・砂糖で作った赤ちゃん用の薄味ソースを入れて煮詰めていく。

 後は肉そぼろとご飯を混ぜ、それを薄焼き卵で巻いたらレオルナードの夕食の出来上がりである。

「お待たせしました」

 試食用なので半人前ずつであるが鮭とイクラの親子丼とイクラ丼、海苔の代わりに薄焼き卵と牛肉の薄切りを巻いた軍艦巻きを美奈子とレオルナードが就いているテーブルへと運ぶ。(秋野菜を使った味噌汁つき)

「まぁ♡」

 軍艦巻きが薄焼き卵と牛肉の薄切りでなければ喜びも一入だっただろうが、こればかりは仕方がない。

 それでも新鮮なイクラがふんだんに使っている丼と寿司に美奈子の瞳が再びキラキラと輝く。

 神よ、あなたの慈しみに感謝いたします

 食事前の祈りを捧げた後、三人はイクラ料理を、レオルナードは紗雪が作った薄焼き卵のおむすびを口に運ぶ。

 ん~っ・・・

「美味しい~♡」

 イクラはプチプチと口の中で弾け、濃厚な旨味が酸味の中に甘さを感じるご飯と合わさる事で更に食が進む。

「軍艦巻きは海苔だと思っていたけど・・・卵と肉もイクラと合うのね」

 目から鱗が落ちると言えばいいのだろうか。

 新たな発見だと言わんばかりに美奈子は目の前にある料理を食べ進めていく。

「今日は贅沢な気分を楽しませて頂いたわ」

 ごちそうさま

 手を合わせた後、寿司は両方出してもいいが、丼は鮭とイクラの親子丼ではなくイクラ丼だけを出した方がいいのではないのか?とレイモンドと紗雪に伝える。

 試食が出来ただけではなく、大きくなったレオルちゃんの顔を見れて今日は楽しかったと言った美奈子は我が家へと帰るのだった。













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