龍神様の生け贄

白雪の雫

文字の大きさ
5 / 7

5話

しおりを挟む










 春の御殿では梅、桜、菜の花、桃、撫子を

 夏の御殿では紫陽花、朝顔、百合、梔子を

 秋の御殿では萩、女郎花、藤袴、桔梗、菊、竜胆を

 冬の御殿では水仙、山茶花、椿、蝋梅を





 四季の花々を愛で、月見に花火、紅葉狩りに雪見を楽しんだり、お手玉で遊んだり、蒼が桜子に乗馬、琴や琵琶の弾き方を教えたりしている内に一年の月日が流れた。

 『パパ・・・ママ・・・』

 ここでの生活は楽しいし、侍女さん達も親切にしてくれる。(蒼の命令だから当然そうするしかないと思うが)

 だがここには家族が居ないので寂しいのは否めない。ホームシックに罹ってしまった桜子は泣き出してしまう。

 『か、帰りたい・・・』

 『桜子・・・』

 この幼子は自分に捧げられた贄。

 だから両親の元に帰す訳にはいかないと蒼は思うのだが、こうやって桜子が泣いている姿を見るのは辛いと感じるし、このままでは心を壊してしまうのではないか?と彼女の身を案じる思いもまた事実。

 『・・・・・・分かった。桜子を親御さんの元に帰してあげる』

 『本当!?あたし、パパとママの元に帰れるの?』

 『ああ、桜子が泣いているところを見るのは僕も辛いからね。その代わり条件があるんだ』

 蒼が出した条件とは、親元で裳着の儀式を行ったらここに居て欲しいというものだった。

 『裳着?蒼お兄ちゃん、裳着って何なの?』

 裳着というのは女児が大人になった事を示す儀式で、一族の長といった偉い人に裳の腰紐を結って貰い、髪上げをするのだと桜子に教える。

 『大人になるって二十歳って事?』

 (え゛っ?)

 『は、二十歳!?桜子の世界では二十歳になったら大人と認められるのか!?ここでは十二から十四歳辺りで大人だと認められるのに?!』

 『ち、違うよ・・・。日本では二十歳になったら大人だと認められるんだよ』

 それに二十歳になったら裳着という儀式をするのではなく、振袖かワンピースを着た女の人がどこかの会場で開催する成人式に参加するのだと蒼に話す。

 『じゃあ、桜子が二十歳になったら迎えに来るからね。その誓いとしてこれを飲んで』

 蒼が桜子に渡したのは錠剤を思わせる白い珠だった。

 『蒼お兄ちゃん、これ何なの?』

 『龍珠。桜子を護る・・・まぁ、お守りみたいなものだよ』

 龍神である僕が直々に力を込めたものだから、その効力は確実だよ

 『う、うん・・・』

 (これ・・・本当に飲んでもいいのかな?)

 幼子特有の勘が働いたとでも言えばいいのだろうか。

 桜子は蒼から貰った龍珠を飲む事に躊躇いを覚える。

 もし桜子が年頃の女性であれば龍珠を飲んだ振りが出来たかも知れない。

 だが今の桜子は幼稚園児。

 龍珠を飲んだ演技など出来る筈がない。

 蒼と侍女達だけではなく側近らしき男性達から無言の圧力を感じ取った桜子は口に入れた龍珠を水と共に嚥下する。

 (あ、れ?何か、急に眠く・・・何で?)

 『おやすみ桜子。二十歳になったら迎えに来るから。その時まで暫しの別れだよ』

 (あ、蒼お兄ちゃん・・・?)

 完全に意識を失う直前の桜子の瞳に映ったのは大人の男性になった蒼だった。












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...