元英雄のやり直し

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2章 狭間に立つ元英雄たち

1話 並んで歩く道

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正式にツル様の護衛騎士になって3日目。
朝霧がまだ濃く残る頃、帝都の中心『皇城』では、剣のぶつかり合う、乾いた音が鳴り響いていた。
「足が動いとらんぞ。剣は全身を使うと何度言ったらわかる!」
「はい!」
師匠の稽古は子供であろうと容赦はない。
アマトは泣きそうになりながらも師匠の指導を受ける。
「ミタマ!素振りが甘いぞ!カイン!ただ剣を振るな!剣の先の敵を想像しろ!」
「「はい!」」
アマトの相手をしながら、素振りをする俺たちにも指南をする。
それらは全て的確で、少しでも姿勢が崩れれば、その瞬間師匠から怒号が飛ぶ。
何度も怒鳴られて、ようやく休憩に入る。
城の中に戻ると視界の端に廊下を1人で荷物を運ぶライアさんの姿が写る。
その背は寂しさがあり、俺は初日の出来事を思い出した。

3日前。
結局ジーアスがこないまま会議は終わり、ロイルさんに連れられツル様の部屋に案内された。
「会議、お疲れ様でした。これから大変だと思いますが、どうかツル様のことお願いします。」
「わ、わかりましたから。」
ロイルさんが深々と頭を下げ、俺は慌てて首を縦に振る。
陛下の事と言い、ツル様は本当は愛されていることを感じる。
しかし、このことをツル様が知ることになるのはいつになるのか。
幼い皇女様の境遇に、胸が締め付けられる。
ロイルさんが去り、俺はドアをノックしようとする。
「待ってください。」
いつの間にか、後ろにはライアさんが立っていた。
こんな少女に背後を取られ、少しばかりショックだった。
「どうしたんですか。」
「こんなに早く騎士様を集められないと舐めておりましたので、謝罪とお礼をしておこうかと。」
「いえ、1人足りませんし、周りに恵まれていただけです。」
彼女の顔を見て、なぜかリア団長が思い浮かんだ。
「そういえば、ライアさんに姉か妹はいますか?」
「姉がいますよ。ご察しの通り、姉はリアです。」
リア団長を見た時に感じた疑問が解決する。
「姉さんは優秀でしたので、お父様の手も煩わせず、北都の騎士団長になりました。私はツテを駆使して、ようやくツル様の従者になれました。」
「皇族の従者は誇れる職業だと思います。ツテでもなかなかなれるものではありません。」
「そうですよね。そう思うんですけど・・・。」
なぜか彼女の表情は冴えない。
従者になったことではなく、別の悩みがあるように見える。
「何かあったんですか。」
思い切って聞いてみることにした。
ライアさんは話すことを躊躇っていたが決めたようだ。
「・・・皇族内のツル様の立場はあまり良くありません。そのため従者の私も他の人から距離を置かれています。別に無視されている訳ではないんですが、壁を感じるのです。」
そう言って、彼女は一度言葉を切った。
「もう1人ではありません。まだ会っていませんが頼れる仲間ができて嬉しいんです。」
そう言って彼女は微笑む。ただ、笑顔の奥にはまだ拭いきれない不安と孤独が感じられる。
これまでの経験からだろう。こればかりは今すぐというわけにはいかない。
まずは、彼女の警戒を解くところから始めよう。
「これからお願いします。」
俺は手を伸ばす。ライアさんは少し迷った後、すぐに笑ってその手を取る。
「よろしくお願いします。」
そうして、固い握手を交わした。

俺は廊下を歩くライアさんに近づく。
「ライアさん、おはようございます。」
「あ、カイン様。おはようございます。」
俺はスッと彼女の前に出る。
「荷物持ちますよ。」
「いえ、訓練の途中でしょう。戻ってください。私は大丈夫です。」
首を振り、そのまま通り過ぎようとする。
しかし、荷物はなかなか量が多く、足元がおぼつかない。
「では半分持ちます。師匠に許可をもらった手前、このまま帰るわけにはいかないんです。」
「・・・ではお言葉に甘えて。」
彼女の持つ荷物を半分もらう。
「この荷物、どこに運ぶんですか。」
「ツル様の部屋です。数ヶ月に一度、陛下から大量の贈り物が来るんです。ツル様や周りにはどこぞの貴族からってことになってます。」
何をしているんだ、陛下。
どこの誰かわからない人間からの贈り物をもらって嬉しいわけがない。
せめて、ツル様には本当のことを言っても良いと思う。
「もしかして、これいつも1人で運んでいるんですか?」
「いつも、ではないです。大体ロイルさんが手伝ってくれるんですけど、今日は用事がありまして、あと三往復くらいしないといけません。」
まじか。
そんな量、1人で運ぶものではない。
数ヶ月に一度とはいえ、これはおかしい。
「全部運び終えるまで手伝います。師匠たちにも手伝って貰えば一回で済みますよ。」
「え、本当ですか?」
この言葉が予想外だったのか、ライアさんから驚きの声が漏れる。
これまで1人でやるのが当たり前だったからなのか。
誰かに手伝ってくれるという発想自体、彼女にはなかったようだ。
「本当です。場所さえ教えてもらえればライアさんは休憩してもらっても大丈夫です。」
「いえ、一応見ておかないと何かあるかもしれないので。」
「わかりました。ツル様が起きる前に、終わらせましょう。」
「はい。」
気のせいかもしれない。
彼女の返事は先ほどよりも柔らかく聞こえた。

(こんな風に誰かと並んで歩くのはいつぶりだろう。なんだか安心する。)
ライアはその変化にまだ気づくことはない。
しかし、彼女はすでに誰かと歩く道を見つけていた。
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