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「足掻こうとは思わないの?」
生きたいと、足掻かないのか。
何故にもうその道を選んで――自分の命を使って、取り引きを持ちかけてきたのか。
ヨアヒムから持ちかけられた幾つかの条件は、国の存続をかけたもの。そして彼の個人的な願い。それすらも自分のことではなく――命乞いは、違う人間のことを。
上が挿げ替えられるとして、属国としての立場がこれ以上悪くならないために。民たちを大切にしてほしい。昔からある帝国寄りばかりではなく、若い家にも優秀な芽が出ていることを気にかけてほしい――と。
あとは彼の個人的――その中のひとつは、母であるガブリエーレの命の嘆願。
――王弟ヴォルフラムがヨアヒムの命だけで満足するとは思えないから、と。
実際、ロベリアが急遽ガブリエーレの毒味に名乗り出たのは、ルドルフからの連絡を受けたのが真相。慌てて自主的に監禁されていた部屋から出ることに。
毒娘であることは――つまり、彼女自身も毒に強い。その上、ベラドンナからも習っていた。
ガブリエーレは案の定、風邪に見立てた毒を盛られ始めていた。
――かつて彼女が王と王妃に飲ませたものを。
「いや、足掻いちゃ駄目でしょ……僕、王子、ですよ?」
王子。
すなわち、この国の王の子。
「僕の命一つで戦争も何もがおこされないていうなら、差し出すのが役目でしょう?」
王とは。
生まれながらにして生贄な役割があるが。
その首一つで、命一つで、国のすべての命を護る役割ももっている。そのためにあるのが、玉座という椅子。
生贄の祭壇。
ああ……この子は……。
間違いなく、王になるべくして生まれてきたのだ。
自分のような――気楽に逃げ道を探して生きているような、そんな責任感のない王子とは違うのだ。
その青い瞳は、深い深い海の底みたいな色をしているのに――まったくもって壊れていなかった。
真っ直ぐだ。
怖いほどに真っ直ぐ――澄んでいる。
――惜しいなぁ。
――もったいないなぁ。
そもそも、はじめに下手を打ったのは、自分の母方の祖父だ。王弟ヴォルフラムだ。
身分違いを考えないで、ただ惚れたで近くにいた女に手を出した。
癒しがなんだ。
王族が――男が。
自分の心の機嫌を他人に任せるな。
そのくせ、有能だからたちが悪い。
祖父ディートリヒが帝王の地位を得られたのはヴォルフラムの助けがあればこそ。
有能だから……属国にこんなことを。愛した女の子供を、この国で好きにさせていたなんて。
こうしてこの国の王子にちょっかいかける、長い嫌がらせなんてこともしてやがったのは自分も最近まで知らなかったくらい。
帰ったら兄たちに相談だ。
その兄たちに。
「ようやく腹を括ったか」と、喜ばれるとは――この時のルドルフは思っていなかった。
兄たちは何故か前向きに逃げ道を探している弟を心配してくれていて。
ルドルフが恐れることなく、帝王の孫たちは――実は本当に、仲が良かったのだ。
――伯父に笑いながら背中を叩かれた。
そして兄たちに相談するまでもなく。
最後の最後まで我慢して、政略を受け入れたヨアヒムの父のユリアンの方が偉いと、今や同じ為政者側のルドルフは、思う。
最後の最後で我慢しきれなかったのは、気の毒である。
それを、ルドルフはヨアヒムに詫びた。
存在を知らなかったとはいえ。伯母が彼の父母の間に割り込まなければ、そもそもこんなことには。
祖父が、身分違いの恋人なんかを作らず――未だに引きずっていなければ。
「復讐は復讐しか生まないから、誰かが、損して我慢して、断ち切るしかない……て、思うんですよ」
さらっとすごいことを。
「それで損する位置にいて、一番首の値段高くて、こうしたカード切れるのは、僕しかいないじゃあないですか?」
「キミ、人生何度目?」
何ですか、それ。そう言って笑う王子。
その目が、青い目が。深い深い海の底みたいに青いのに、どこまでも澄んでやがるのが。
――なんだかそろそろ憎らしい。
――うらやましい。
「ねぇ、キミ? ヨアヒムくん? 死んだふりして僕に仕えない?」
「絶対いやでーす」
即答かよ、この野郎。
生きたいと、足掻かないのか。
何故にもうその道を選んで――自分の命を使って、取り引きを持ちかけてきたのか。
ヨアヒムから持ちかけられた幾つかの条件は、国の存続をかけたもの。そして彼の個人的な願い。それすらも自分のことではなく――命乞いは、違う人間のことを。
上が挿げ替えられるとして、属国としての立場がこれ以上悪くならないために。民たちを大切にしてほしい。昔からある帝国寄りばかりではなく、若い家にも優秀な芽が出ていることを気にかけてほしい――と。
あとは彼の個人的――その中のひとつは、母であるガブリエーレの命の嘆願。
――王弟ヴォルフラムがヨアヒムの命だけで満足するとは思えないから、と。
実際、ロベリアが急遽ガブリエーレの毒味に名乗り出たのは、ルドルフからの連絡を受けたのが真相。慌てて自主的に監禁されていた部屋から出ることに。
毒娘であることは――つまり、彼女自身も毒に強い。その上、ベラドンナからも習っていた。
ガブリエーレは案の定、風邪に見立てた毒を盛られ始めていた。
――かつて彼女が王と王妃に飲ませたものを。
「いや、足掻いちゃ駄目でしょ……僕、王子、ですよ?」
王子。
すなわち、この国の王の子。
「僕の命一つで戦争も何もがおこされないていうなら、差し出すのが役目でしょう?」
王とは。
生まれながらにして生贄な役割があるが。
その首一つで、命一つで、国のすべての命を護る役割ももっている。そのためにあるのが、玉座という椅子。
生贄の祭壇。
ああ……この子は……。
間違いなく、王になるべくして生まれてきたのだ。
自分のような――気楽に逃げ道を探して生きているような、そんな責任感のない王子とは違うのだ。
その青い瞳は、深い深い海の底みたいな色をしているのに――まったくもって壊れていなかった。
真っ直ぐだ。
怖いほどに真っ直ぐ――澄んでいる。
――惜しいなぁ。
――もったいないなぁ。
そもそも、はじめに下手を打ったのは、自分の母方の祖父だ。王弟ヴォルフラムだ。
身分違いを考えないで、ただ惚れたで近くにいた女に手を出した。
癒しがなんだ。
王族が――男が。
自分の心の機嫌を他人に任せるな。
そのくせ、有能だからたちが悪い。
祖父ディートリヒが帝王の地位を得られたのはヴォルフラムの助けがあればこそ。
有能だから……属国にこんなことを。愛した女の子供を、この国で好きにさせていたなんて。
こうしてこの国の王子にちょっかいかける、長い嫌がらせなんてこともしてやがったのは自分も最近まで知らなかったくらい。
帰ったら兄たちに相談だ。
その兄たちに。
「ようやく腹を括ったか」と、喜ばれるとは――この時のルドルフは思っていなかった。
兄たちは何故か前向きに逃げ道を探している弟を心配してくれていて。
ルドルフが恐れることなく、帝王の孫たちは――実は本当に、仲が良かったのだ。
――伯父に笑いながら背中を叩かれた。
そして兄たちに相談するまでもなく。
最後の最後まで我慢して、政略を受け入れたヨアヒムの父のユリアンの方が偉いと、今や同じ為政者側のルドルフは、思う。
最後の最後で我慢しきれなかったのは、気の毒である。
それを、ルドルフはヨアヒムに詫びた。
存在を知らなかったとはいえ。伯母が彼の父母の間に割り込まなければ、そもそもこんなことには。
祖父が、身分違いの恋人なんかを作らず――未だに引きずっていなければ。
「復讐は復讐しか生まないから、誰かが、損して我慢して、断ち切るしかない……て、思うんですよ」
さらっとすごいことを。
「それで損する位置にいて、一番首の値段高くて、こうしたカード切れるのは、僕しかいないじゃあないですか?」
「キミ、人生何度目?」
何ですか、それ。そう言って笑う王子。
その目が、青い目が。深い深い海の底みたいに青いのに、どこまでも澄んでやがるのが。
――なんだかそろそろ憎らしい。
――うらやましい。
「ねぇ、キミ? ヨアヒムくん? 死んだふりして僕に仕えない?」
「絶対いやでーす」
即答かよ、この野郎。
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