いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

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「ねぇ、キミ? ヨアヒムくん? 死んだふりして僕に仕えない?」
「絶対いやでーす」

 どうせ死ぬなら、好きな娘に。
 しかも一番幸せなときに終わらせて殺してくれるのだ。

 即答かよ、この野郎。
 勧誘を――命を助けようとしたのを振られて頬を引き攣らせることになるとは。
 そんなルドルフをそっちのけでヨアヒムは、その理由・・・・を。

「ロベリアに惚れたのは偶然だったけど……もうこれ、運命だったんですよねぇ? まさかロベリアが、ずっと僕のために毒を飲んでくれていたなんて。あの白くて綺麗な髪がそのせいなんて。あ、でも白くなくても可愛いと思うんですよね。ロベリアの本当はどんな髪色だったのかなぁ。幼い頃にも逢いたかったなぁ」
「いやその惚気、どうなの? いやあの惚気でいいの、それ?」
「僕を殺すためにずっと頑張ってくれていたんですよ? こないだも「いつか優しくあなたを終わらせてあげます」て、泣きながら言ってくれたんですよぉ! 嬉しかったなぁ……素敵な告白、ですよねぇ……」
「え、それ、本当に惚気? ねえ、怖い! 何でうっとりしてるの? ロベリア大丈夫?」

 きっと大丈夫じゃない。

 ヨアヒムに命がけで頼まれた一つのなかに、ロベリアの保護もある。

 王弟ヴォルフラムの手の内の者たちの計画は――今や毒娘ロベリアを中心としてまわりはじめている。
 いや、ロベリアやベラドンナも吃驚なほどに。

 まさかロベリアがヨアヒムに見初められたのが。
 人間、人生、何かあるかわからないもので。

 ヴォルフラムの計画が、ヨアヒムの予想通りに自分が一等幸せなときに――だと、ルドルフの調べで改めて教えられて。
 エリーゼが、そうであったように。
 ヨアヒムの一等幸せで……ガブリエーレが一番絶望するタイミングが、ヨアヒムが死ぬ日。

 それはつまり。

「じゃあロベリアと結婚できるんだ? やったぁ! え、つまり……初夜……きゃっ」
「きゃっ、じゃないよ。キミがやっても可愛くないから」
「だってだってぇ……まぁ、毒娘の本領発揮させたげないと、ここまできたらロベリアの関係者たちが……先にマーガレットは安全なところに避難させるか。ロベリアが一番心配してるお姉さんだからな。領地に下がらせ、いや修道院でガチガチに固めて護らせるべきだな」
「急に真面目になるの止めて? ロベリアはお姉さんいるのね? 僕もう、ついてけないよぅ……」

 計画を知りながら喜ぶヨアヒムが、ちょっとこう、ルドルフにはわからないけど。

「……僕を殺したあと、ロベリアも長くないそうだから」

 ――毒娘という存在の哀しさをルドルフははじめて知った。帝国の王子でありながら、逃げてばかりいた自分は知らないことばかりだ。
 話に聞く、あのごたごたの争いの最中に、帝国が使った娘たちに涙した。
 今ここにいる娘――ロベリアにも。
 毒娘には、「時間」がないと聞いて、ルドルフは祖父がなんて酷いことをしているのかと――改めて、ぞっとした。


「それって最高の愛じゃない? 真実の愛てやつ? いや真実なんてのは安いな…至高でどうです? うん、僕のあとに……ロベリアもついてきてくれるんだから」
「え……? ついて……?」
「ええ、そう遠くなく……毒娘は、使用期限・・・・があるのですって。意味、解ります?」
「……ああ、解った……解らなくちゃ、駄目だよな」
「そうですね。貴方のお祖父さんですから。やってるの」

 それは暗い黄泉の国へ。

 ――ひとりじゃない。

 ああ、そうか。
 ヨアヒムがこんな真っ直ぐな理由の一つに、ルドルフはようやく思い至った。

 ロベリアはそんなに長くないから。
 いかに出来損ないとしても、毒娘として、その身に毒は蓄積している。

 それは間違いなく、彼女の命を――寿命を削って。

 覚悟して毒娘となったというが、それを哀しまない――恐れないものなどいないだろう。
 彼女とて、本当は……。

「ヨアヒム、キミ……もしかして、ロベリアのために……」

 ついてきてくれる――いや、つまりは先に逝く。

 ――ひとりで逝かせないために。

「どうせ使い道がある命なら、先に逝って待っていてあげてもいいかな、て……そうしたら、彼女の恐怖も少しは減ってくれるかな?」

 ――何て愛だ。想いの深さだ。

「僕の恐怖も減るし。一緒なら怖くない、怖くないよ……ロベリア」

 それほどに、ロベリアという娘の生き様は、これから死ぬ定めは、このヨアヒムという男の琴線に触れたのか。

 ルドルフにはまだそこまで本気で誰かを愛したことはない。
 祖父ヴォルフラムがエリーゼという娘を愛したから、こんな現状だということに。愛に対して小食気味になっていたくらいだというのに。

「ところで、ロベリアって呼び捨てしないでもらえますー? 僕のなんでー?」
「だからついていけないって……」

 それに王子とか王族だとかの厄介なしがらみからも解放される。
 しがらみ、まさに真っ最中。
 こうして国の行く末を考えたり、面倒くさい近隣諸国とやり取りしたり――帝国に厄介ごとを押し付けられたり。

「万々歳ですねぇ……やっほぅい!」

 その嬉しそうな、顔。

「ちょっとまって。キミ、なんでそんなに口調がくだけてるの!?」
 遠乗り・・・であちこちに出かけている自分もくだけてると思っていたが。自分より……そう、まるで平民のように。その煌めかしい派手な外見さえなければ、下町の若者と話しているような錯覚が……?


「あ、たまに城下に出かけてますんで」

 あっさり。
 だから下町に仲間がいたり――伝手があったり。そうした繋がりで、ヨアヒムは帝国側の貴族に――王弟の手の者に――悟られないで、ここまで調べられたのだ。

「……わぁ」

 ルドルフは思わず、この部屋の入り口にいるヨアヒムの側近であり護衛・・のハーゲンをみた。ルドルフの護衛たちも。
 ……かわいそうに、と。
 哀れまれていると、ハーゲンは何とも言えなそうに頬を引き攣らせる。事実、大変であった日々だ。
 そしてこれからも大変になる。
 ハーゲンは、ヨアヒム亡き後はルドルフの側近で護衛と……なる予定が決まっている。

 それは、ずっと昔から。幼い頃から。

 彼も複雑だろう――本当に、かわいそうに。

「下町、それなりに危険ですけど、慣れたらそんなに? 顔役と知り合いになったら皆、仲良くしてくれますよ?」
 へらりととんでもねぇことを。
 それにその手。意外とゴツい。きらびやかな顔に、本当に意外。剣ダコに拳ダコじゃないか、それ。
 つまりは、彼はそれだけ鍛えてもいるということか。
 王子として。
 いや、鍛えていた、と――これから過去形になる。

 男してある意味で最高の瞬間に死ねるというのと、為政者側の気持ちも。

 これからは、ルドルフがこの首をかけて、この国を護る立場になるのだから。
 王様に。王様という名前の責任者に。
 今まさにしがらみ背負っているルドルフは――ルドルフだけはヨアヒムの気持ちが解ってしまった。悔しい。

「ルドルフ様。頑張って引き継いでくださいな」

「……こんにゃろー」

 本当に、悔しいけれども!


 ――色々な意味で、悔しいから。



 そして二人の結婚式が。
 ヨアヒムの終わる日が。

 ルドルフは新たな統治者として――。

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