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「……ヒルデガルドがなぁ、仕方がないて言うのだよ」
「仕方がない……何故、そのような……?」
「ヒルデガルドの嫁ぎ先の候補には、問題があることがわかった」
「問題、ですと?」
「ああ、そうだな……身綺麗ではない、と言うべきかな」
ヒルデガルドは帝国の姫だ。それを無下にするようなことを「仕方がない」だと。
ヴォルフラムは怒りのあまりテーブルを殴ろうとした。
それを兄に先に片手を上げ、落ち着けと命じられて座り直す。帝王である兄も怒っていると思っていたから、彼に制されたならば……――。
「「だってお祖父様もしていることだから、仕方がない」と言うのだ」
孫娘の口調を真似て言われても、すぐに頭に入ってこなかった。
一つ目の候補。
帝国にある歴史浅い公爵家ではあるが、そこの跡取りに。
何代か前にも姫が降嫁することにより、領地も増やして公爵領となった家だ。
そこの跡取りは学園に入学中なのだが、身分低い男爵家の娘と恋仲なのだとか。
すでに何年も前よりヒルデガルドの降嫁候補として話があるというのに。
跡取りは学園にて「真実の愛は権力に屈しない」などとも言っているという。もしもヒルデガルドが嫁いできたとしても、自分の愛はその男爵家の娘にあると。
それはそれは、ヒルデガルドを蔑ろにする気満々で。
――跡取りは学園を卒業次第、病気療養で公爵家の領地の隅に行くことになっている。在学中は夢を見るが良い。
二つ目の候補は。
歴史ある侯爵家の跡取り。
彼はなんと、屋敷の使用人と――すでに身体の関係もあるという。
けれども、彼はヒルデガルドの降嫁の話に。自分は姫を娶れるほどの器量もなく――そもそも、跡取りにも向かないと、話がくるより昔から辞退を考えていたそうだ。
無骨な彼は跡取りの座を優秀な妹か従兄弟に譲り、自分は領地を護るための騎士団に入るつもりである、と――自分の向き不向きをよく考えている長男だと、むしろディートリヒは侯爵領の――帝国内のために頷くほどだった。
妹御は学園でも学力、人格共に優秀であると評価もあり、彼女が跡取りの方が帝国のためにもなろう。
そうなると跡取りはむしろ婿を必要として。
――侯爵家の兄は、むしろ恋人のため。愛のためにその地位を捨てた、とも。
侯爵家の跡取りに関しては、ディートリヒは許すこととした。
ある意味、自分と家の将来を見据えてきちんと考え、責任をとっているのだから。
――恋仲の使用人は身ごもっていると、報告にもあった。
もしもヒルデガルドの降嫁がなったとしたら、それこそ――新たな問題、火種となった。
そうして。ヒルデガルドの嫁入りはまだまだ先になりそうだった。
けれども。
それらの話を聞いたヒルデガルドは。可愛い孫娘は。
それらと兄たちから聞いた話に。
仕方がないと――諦めと嫌悪の混じった目をしたのだ。
「なぁ、ヴォルフラム? お祖父様もしていることだから、仕方がない、とは……どういうことだろうね?」
「は? いや、私にも……」
帝王は弟の様子に――ああ、こいつは自覚がないのか、と。
「私にはそんな覚えはなかったのだけれど……お前にもない、と?」
「ええ、そんな不誠実な……ヒルデガルドにはむしろもったいないです。まぁ、侯爵家の方は身の程を知っているようですが……」
「お祖父様」である自分たち。
自分には身分低い女を裏切った記憶もなければ、婚約者になるひとを悲しませた覚えもなかった。
ヴォルフラムは、そう言ったのだ。
ヴォルフラムの公爵家の息子を怒る様子に、ディートリヒはすっと弟との間に――見えない壁を作った。
「そうか……お前がそうならば、仕方がないな」
「……兄上?」
「いやなに、時が経つのは早い。我らも、特にお前はそろそろ、後進に任せるころかもしれないと思ってな」
「ははは! 何をおっしゃる。私はまだまだ兄上の右腕として働きますとも!」
「そうかい? それは……ありがたいね」
弟は確かによく働いてくれた。頼りになる右腕だった。
すべては過去だ。
もしも彼が話に合点が行き、反省なり、孫娘にそんな思いをさせたことに何らかの後悔などをしたならば。
ディートリヒもまた、ヴォルフラムと隠居し、責任を取るつもりだった。
だが。
むしろ責任をとるならば。
息子と孫たちの世のためにも――自分はまだ、こうした弟たちのような奴らの処理をしてから――逝かねばならない。
汚れ役はまだまだ必要だろう。
「なぁ、ヴォルフラム。エリーゼという名前に覚えはあるか?」
「……ええ、私の最愛でした」
「そうか。では、逢わせてやらねばいけなかったな……もっと早くに」
ヴォルフラムは自分がとある属国にしていることは、「愛した娘との子どもを毒で殺された」としか思っていなかった。その逆恨みに、彼は自分が婚約者――今や長年の妻――を裏切っているとも思いもしていなかった。
その復讐は正当である、と……。
その、勘違いに。
エリーゼとは婚約者との結婚前であったし。エリーゼが亡くなったことでヴォルフラムは婚約者を裏切らず、かねてからのままに結婚したことになったから。
――ライゼンバルグ公爵家は、その婚約者は……その裏切りを知っていたと、後に。
愛した身分低いエリーゼは確かに出産で儚くなったのは哀れであるが。
その後。残された娘は、また彼の勘違いによって不幸なことに早く亡くなった。
ただ幸いなことは、彼女自身は「自分はユリアンに愛されている」と思い込み、幸福なうちに夢をみながら――眠ったことだろう。
――帝王は、自らの右腕ともあった弟に、毒杯を与えたという。
――眠るように、優しく終われる毒を。
最後に、毒で終わりを。
因果は巡って戻ってきました。
誰かのバッドエンドは、誰かのハッピーエンド。
バッドエンドだけど…救いがないとは言っていない。救いの形はひとそれぞれ。綺麗事好きですから。
こんな世の中だ。綺麗事くらい書かせろ。読ませたい…な、気持ち。
この話がどなたかのお気に召し、一時の気晴らしにでもなっていたら嬉しいです。
「仕方がない……何故、そのような……?」
「ヒルデガルドの嫁ぎ先の候補には、問題があることがわかった」
「問題、ですと?」
「ああ、そうだな……身綺麗ではない、と言うべきかな」
ヒルデガルドは帝国の姫だ。それを無下にするようなことを「仕方がない」だと。
ヴォルフラムは怒りのあまりテーブルを殴ろうとした。
それを兄に先に片手を上げ、落ち着けと命じられて座り直す。帝王である兄も怒っていると思っていたから、彼に制されたならば……――。
「「だってお祖父様もしていることだから、仕方がない」と言うのだ」
孫娘の口調を真似て言われても、すぐに頭に入ってこなかった。
一つ目の候補。
帝国にある歴史浅い公爵家ではあるが、そこの跡取りに。
何代か前にも姫が降嫁することにより、領地も増やして公爵領となった家だ。
そこの跡取りは学園に入学中なのだが、身分低い男爵家の娘と恋仲なのだとか。
すでに何年も前よりヒルデガルドの降嫁候補として話があるというのに。
跡取りは学園にて「真実の愛は権力に屈しない」などとも言っているという。もしもヒルデガルドが嫁いできたとしても、自分の愛はその男爵家の娘にあると。
それはそれは、ヒルデガルドを蔑ろにする気満々で。
――跡取りは学園を卒業次第、病気療養で公爵家の領地の隅に行くことになっている。在学中は夢を見るが良い。
二つ目の候補は。
歴史ある侯爵家の跡取り。
彼はなんと、屋敷の使用人と――すでに身体の関係もあるという。
けれども、彼はヒルデガルドの降嫁の話に。自分は姫を娶れるほどの器量もなく――そもそも、跡取りにも向かないと、話がくるより昔から辞退を考えていたそうだ。
無骨な彼は跡取りの座を優秀な妹か従兄弟に譲り、自分は領地を護るための騎士団に入るつもりである、と――自分の向き不向きをよく考えている長男だと、むしろディートリヒは侯爵領の――帝国内のために頷くほどだった。
妹御は学園でも学力、人格共に優秀であると評価もあり、彼女が跡取りの方が帝国のためにもなろう。
そうなると跡取りはむしろ婿を必要として。
――侯爵家の兄は、むしろ恋人のため。愛のためにその地位を捨てた、とも。
侯爵家の跡取りに関しては、ディートリヒは許すこととした。
ある意味、自分と家の将来を見据えてきちんと考え、責任をとっているのだから。
――恋仲の使用人は身ごもっていると、報告にもあった。
もしもヒルデガルドの降嫁がなったとしたら、それこそ――新たな問題、火種となった。
そうして。ヒルデガルドの嫁入りはまだまだ先になりそうだった。
けれども。
それらの話を聞いたヒルデガルドは。可愛い孫娘は。
それらと兄たちから聞いた話に。
仕方がないと――諦めと嫌悪の混じった目をしたのだ。
「なぁ、ヴォルフラム? お祖父様もしていることだから、仕方がない、とは……どういうことだろうね?」
「は? いや、私にも……」
帝王は弟の様子に――ああ、こいつは自覚がないのか、と。
「私にはそんな覚えはなかったのだけれど……お前にもない、と?」
「ええ、そんな不誠実な……ヒルデガルドにはむしろもったいないです。まぁ、侯爵家の方は身の程を知っているようですが……」
「お祖父様」である自分たち。
自分には身分低い女を裏切った記憶もなければ、婚約者になるひとを悲しませた覚えもなかった。
ヴォルフラムは、そう言ったのだ。
ヴォルフラムの公爵家の息子を怒る様子に、ディートリヒはすっと弟との間に――見えない壁を作った。
「そうか……お前がそうならば、仕方がないな」
「……兄上?」
「いやなに、時が経つのは早い。我らも、特にお前はそろそろ、後進に任せるころかもしれないと思ってな」
「ははは! 何をおっしゃる。私はまだまだ兄上の右腕として働きますとも!」
「そうかい? それは……ありがたいね」
弟は確かによく働いてくれた。頼りになる右腕だった。
すべては過去だ。
もしも彼が話に合点が行き、反省なり、孫娘にそんな思いをさせたことに何らかの後悔などをしたならば。
ディートリヒもまた、ヴォルフラムと隠居し、責任を取るつもりだった。
だが。
むしろ責任をとるならば。
息子と孫たちの世のためにも――自分はまだ、こうした弟たちのような奴らの処理をしてから――逝かねばならない。
汚れ役はまだまだ必要だろう。
「なぁ、ヴォルフラム。エリーゼという名前に覚えはあるか?」
「……ええ、私の最愛でした」
「そうか。では、逢わせてやらねばいけなかったな……もっと早くに」
ヴォルフラムは自分がとある属国にしていることは、「愛した娘との子どもを毒で殺された」としか思っていなかった。その逆恨みに、彼は自分が婚約者――今や長年の妻――を裏切っているとも思いもしていなかった。
その復讐は正当である、と……。
その、勘違いに。
エリーゼとは婚約者との結婚前であったし。エリーゼが亡くなったことでヴォルフラムは婚約者を裏切らず、かねてからのままに結婚したことになったから。
――ライゼンバルグ公爵家は、その婚約者は……その裏切りを知っていたと、後に。
愛した身分低いエリーゼは確かに出産で儚くなったのは哀れであるが。
その後。残された娘は、また彼の勘違いによって不幸なことに早く亡くなった。
ただ幸いなことは、彼女自身は「自分はユリアンに愛されている」と思い込み、幸福なうちに夢をみながら――眠ったことだろう。
――帝王は、自らの右腕ともあった弟に、毒杯を与えたという。
――眠るように、優しく終われる毒を。
最後に、毒で終わりを。
因果は巡って戻ってきました。
誰かのバッドエンドは、誰かのハッピーエンド。
バッドエンドだけど…救いがないとは言っていない。救いの形はひとそれぞれ。綺麗事好きですから。
こんな世の中だ。綺麗事くらい書かせろ。読ませたい…な、気持ち。
この話がどなたかのお気に召し、一時の気晴らしにでもなっていたら嬉しいです。
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