「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ

文字の大きさ
2 / 6

02


「な、何故ジョージが……」

 ヤロール家には三人の息子がいた。

 長男のヴィンセントは碧眼な夫に似ているし、大事な跡取りだ。瞳は自分の色目を受け継いでいなくて残念だったが、プラチナブロンドだし、夫の顔立ちはイザベルのお眼鏡にかなう美形であったのが。

 三男のライアンは何もかもが自分に似ていて可愛く、誰にも好かれて……年の離れた末っ子だから、余計に愛しく。本当は女の子だったらとは、少しだけ思ったけれど、これだけ美しいなら……。

 そして次男。
 ぱっとしない茶色の髪に茶色の瞳の。夫の祖父の若いころに似ているらしいが……本当にぱっとしない。義両親が父親似と喜んでいたのも馬鹿らしい。
 せめて顔立ちくらい良ければ……いや、せめて女の子であれば可愛がったものを。男は長男がいたのだから。
 次男は確かもう学園に入学して……そうだ、騎士学校に入学したとか。長男の息子が寮を手配したとか言っていたが、ライアンに新しい服を作るのが大事で聞いていなかった。

 ……長男が「こんな毒親からはさっさと離れたほうが良い。お前だけでも」と、すでにあきらめた眼をして弟の肩を叩いていたのも彼女らは知らなかった。

 跡取りとして大事にはされていたヴィンセントは、幼い頃よりずいぶんとできた少年だった。そう、まだ彼も少年と呼ばれる時期から、見た目に差をつける母に。そんな母に惚れているから言いなりの父に。
 大事な弟を蔑ろにする両親に。
 ヴィンセントは既に両親を見限っているのは察するにあまりあり。彼は自分が成人したら両親は領地に押し込む予定であると、祖父と相談しているらしいが――それはまだ先のお話し。

 そんな存在すら忘れていた次男を、何故いま?
 イザベルの様子に、カインは「本当に知らないのか?」と、逆に驚いてしまった。

「ジョージ君は騎士学校の首席ですからな」

 騎士団にて副団長をしていた叔父は、当然騎士学校からあがってくる話を聞いていて。

 十五歳のジョージは、その世代の学年の首席であった。

 実家の辺境伯家の兄には娘がひとり。
 当然彼女が跡取りだし、ならば良い婿が必要だと、カインは兄が悩んでいることを上司である騎士団長に話したりしていて。
 そうした話しがどこからか漏れたのか、ヤロール家から見合いが持ちこまれたのだ。
 ジョージは十五歳だが、五歳差など貴族には珍しい話ではない。むしろ近い方。そして学校での優等生の評価。
 良いかもしれないと、兄も頷いて。
 まだ学生で忙しいであろうジョージに辺境にまできてもらうのは大変だろう。
 ならば久しぶりに叔父にも会いたいし、王都のレベル・・・・・・も見てみたい……と、リューゼットが出向いてくることになり。

 そして勘違いに。
 ヤロール家は辺境伯家に婿入りできると喜んで。何せ領地も小さなヤロール家には、余っている爵位もなく。長男は跡取りだけど、可愛いライアンにも貴族に婿入りさせたい。伯爵家よりも高位ならなおさら良い。ヤロール家は妻の実家が太いくらいしか今や自慢できるものはなくて。
 
 そしてヤロール伯爵、ライアンの父は、宮廷で辺境伯家が婿を探していると聞いてしまい。

 妻の実家は力があるし、その妻に似て美形の息子ならば喜んで婿に欲しがられる――と、クラレンス家からの好意的な返事にほくほくしていたのだが。

 すっかりと、次男の存在を忘れていて。

 ちなみに……実は、ヤロール伯爵自身もこの場にはいる。影は薄いが、とんでもないことを言った息子を「おやおや」と、止めなかった一人だ。
 けれども今、自分の勘違いに――すっかりと次男を忘れていたことに、青い顔をしていた。
 見合いの了承は、次男であったからだと。彼もようやく。
 そして次男が首席だという栄誉を得ていることに――はっと、目の曇りがとれた。
 他人にそのことを教えられるだなんて。実の息子だというのに。
 
 そんな彼は、可愛がっている末っ子を甘やかしてしまったことにも、ようやく気がつくことになった。
 
「こ、この……女のくせに生意気だ!」
 存在すら忘れてた次男と比べられて、馬鹿にされていることにライアンは気がついてしまった。
 やがて彼はしてはいけないことをしてしまった。両親がさすがにそれは駄目だと止める間もなく――意外と素早く――リューゼットを殴ろうと、その襟を掴み――。

「ほう、良い動きだ――だが!」

 頭に血が登ったとしてもしてはいけないことはある。
 だから、それは、当然の罰。

 ――次の瞬間、ライアンは宙を飛んだ。

 カウンターで殴り返されたのだと、その時の彼にはわからなかった。

 ただ。



 ――空が、青いのに、星が瞬いていた。


感想 3

あなたにおすすめの小説

【短編完結】婚約破棄なら私の呪いを解いてからにしてください

未知香
恋愛
婚約破棄を告げられたミレーナは、冷静にそれを受け入れた。 「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」 婚約破棄から始まる自由と新たな恋の予感を手に入れる話。 全4話で短いお話です!

王子に買われた妹と隣国に売られた私

京月
恋愛
スペード王国の公爵家の娘であるリリア・ジョーカーは三歳下の妹ユリ・ジョーカーと私の婚約者であり幼馴染でもあるサリウス・スペードといつも一緒に遊んでいた。 サリウスはリリアに好意があり大きくなったらリリアと結婚すると言っており、ユリもいつも姉さま大好きとリリアを慕っていた。 リリアが十八歳になったある日スペード王国で反乱がおきその首謀者として父と母が処刑されてしまう。姉妹は王様のいる玉座の間で手を後ろに縛られたまま床に頭をつけ王様からそして処刑を言い渡された。 それに異議を唱えながら玉座の間に入って来たのはサリウスだった。 サリウスは王様に向かい上奏する。 「父上、どうか"ユリ・ジョーカー"の処刑を取りやめにし俺に身柄をくださいませんか」 リリアはユリが不敵に笑っているのが見えた。

突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました

恋愛
パーティーの場でロイドが突如倒れ、メリッサに毒を盛られたと告げた。 メリッサにとっては冤罪でしかないが、周囲は倒れたロイドの言い分を認めてしまった。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月
恋愛
 それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

無表情な奴と結婚したくない?大丈夫ですよ、貴方の前だけですから

榎夜
恋愛
「スカーレット!貴様のような感情のない女となんて結婚できるか!婚約破棄だ!」 ......そう言われましても、貴方が私をこうしたのでしょう? まぁ、別に構いませんわ。 これからは好きにしてもいいですよね。

かわりに王妃になってくれる優しい妹を育てた戦略家の姉

菜っぱ
恋愛
貴族学校卒業の日に第一王子から婚約破棄を言い渡されたエンブレンは、何も言わずに会場を去った。 気品高い貴族の娘であるエンブレンが、なんの文句も言わずに去っていく姿はあまりにも清々しく、その姿に違和感を覚える第一王子だが、早く愛する人と婚姻を結ぼうと急いで王が婚姻時に使う契約の間へ向かう。 姉から婚約者の座を奪った妹のアンジュッテは、嫌な予感を覚えるが……。 全てが計画通り。賢い姉による、生贄仕立て上げ逃亡劇。

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月 瑠々奈
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。