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26 幼き日の黄金の。4
しおりを挟む初孫だから、クライスはかなり大事にされた。その自覚はある。
祖父母は自分に甘い。
――父が生まれるまで、かなり大変であったことは後に聞いた。とある薬の扱いとともに。
しかし祖父母は伯爵として、きちんとしていた。
クライスは跡取りには向かないかもしれない。
その判断は、きちんと。
しかし――クライスはまた優秀でもあった。
他家に出すには、微妙に惜しい。
それに書類を読めないハンデを持っての婿入りでは、クライスが苦労するだろう。婿にもらった家だって。
仕事の手間が増える、あてが外れたと、蔑ろにされる可能性が。
ならばこのままホンス家で護った方が良い。
伯爵としての判断と、祖父母と父母としての判断で。
幸いにして。クライスは伯爵家の跡取りとしての自覚はあるし、ハンデを負ってはいるがそれを補う能力もある。
弟妹想いでもあり、彼らも兄が家を継ぐと思って育っている。
「きちんと書類を読むことができる妻を迎えたら、大丈夫では……?」
「世には仕事をしたい女性もおりますし……」
それは祖母と母が。
もちろん自分たちも引退を返上して手伝いをするつもりで。だけど自分たちに何かしらあった時のために。
彼女ら自身もそうして時に夫の手伝いをすることがあるからで。妻の役割としては当たり前。むしろ手持ち無沙汰になるより何かしら役割がある方が家の中でしっかりと地位も居場所も作れるというもの。
これは他の領主の場合でも、普通だろう。
もちろん、あらかじめそのことを説明して。そうした仕事込みで良しとする女性を。
仕事を押し付けるつもりはさらさらなく。音読だけでも良いのだし。
嫁に来てくれるならもちろん大事にする気は、こちらも満々で。世には嫁いできた者は家のモノだと、まるで奴隷のように働かせるところもあるというが、それはとんでもないことだ。
書士の役割は書類の製作で音読ではない。秘書も、また。報告などはあろうけども、それはまた別。
頼めばやってくれるだろうが――もし、もしも、だ。
そこで間違いがあったら。
信頼と信用をもって雇いはしているが、不正や隠匿をされたら。
これも嫌なことだが、よくあることだ。
使用人に裏切られて落ちぶれることも。
他家や商売敵などに入りこまれることも。
だからこそ、こればかりは身内に任せなければ。
始めは弟を兄の補佐にと考えていた。
次男のオリバーもまた優秀であり、彼自身も生れ育ったホンス領のために働いても……と、思っていたという。
けれども、彼を跡継ぎとして――迎えた養い子の夫にしたいと、縁ある子爵家より頼まれてしまった。
それは祖母の姪から。そう、父クリストフの従姉妹より。
祖母のジャクリーンはシーズリー侯爵家より嫁いできた――故に、礼儀作法がとてつもなく美しい。同じく嫁いできた母は伯爵家出身とはいえ、祖母より新たに習い直したほどに。家のことを教わると、同時に。
母がそのように祖母に躾直してもらったことにより、妹のジェシカも格上のソーン家に恥ずかしくなく嫁げ――後の世には、娘が。
そんな祖母には二人の兄がおり、そのうち一人は生家の保持していた子爵位を受けていた。
祖母の実家のシーズリー侯爵家が、ホンス家やそのネイズ子爵家の後見でもあるというべきか。
ホンス家の跡取りのチェスターとジャクリーンは当時は珍しく恋愛だった。幸いにしてその頃の侯爵家は政略を結ぶ必要のない状況にあり、伯爵位とはいえ領地の小さなホンス家に嫁げたのは、そんな兄たちが妹の恋を応援してくれたからで。
だからチェスターとジャクリーンは、二人は互いの子供ができないことに悩みもした。二人で乗り越えたいと決意して――申請し。
そしてなんということか、兄たちも己に子がなかなか生まれないことに悩んでいた。もしも兄弟に子が何人もできていたら、養子として互いに助け合い、また繋がりあうこともできただろう。
幸いにして。
シーズリー侯爵家にはホンス家と同じく跡取り男児が生まれた。
そしてネイズ子爵家も、女の子がひとり。
――同時期に申請した薬を、兄たちが使ったかどうかは、同じ悩みを抱えていたからこそ尋ねはしなかったが。
自分たちが使う直前に、自然に授かったことも、同じく苦労した兄や兄嫁たちを思うと口にできなかった。
そうしたことならば、跡取りとして女も認められる時代になってきていたことは救いであったが。
しかも後の世、自分の子のクリストフには三人もの子宝に恵まれて。
そのことは、本当にありがたいとチェスターもジャクリーンも神に感謝して。
彼らは若い頃に苦労した分、孫に恵まれ幸せに終わりを迎えられたことだけは、幸福であっただろう。
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