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「こりゃあきまへんわ。現実みよ」
03
スピカは無事に成長した。
何ら大きな病気もケガも、事件もなく。ゲームではプロローグが終わったら学園の入学にとんでいたから、そんなものだったのだろう。平穏が一番。
スピカは十五歳になったことで王立の、貴族の子が通う、まあその……舞台というか、学園に入学した。
「シナリオどおりですわ……」
ちなみにスピカの「ですわ」は、お上品に喋っているわけでなく、ただの口癖の語尾である。方言である。「ですワ」の発音である。
もはや魂に染み付いて落ちないのだろう。
男爵家での生活は、変わらないままだ。
祖父母は跡取りの兄が優先なのは変わらないが、父はどちらも別け隔てなく。スピカや母のことも別に大事にしてくれている。
祖父母も入学祝いにあれこれ買ってくれたくらいだ。それくらいにはきちんと大事にされている。ほどよい孫の位置だ。
まあ、兄は変わらずな雰囲気なのは仕方なく。母とともに気を遣いまくりな日々を。
「良くある物語だと、継子虐めとかありそうですがね」
しかし家ではそんなこともなく。母は後妻に迎えられたことを感謝の日々だし。
もともと貴族であったことで、その辺りは完璧な母だ。
「良い後妻さんをもらいましたね」
母の評判に、お茶会などでお祖母様は鼻高々。
貴族の皆さまは母と父が幼馴染みな事も知っているし、母が貴族だったときに友人だったひとたちは「良かった」と迎えてくれたし。
母は穏やかなひとで、彼女が平民になったことを惜しんだひとも多かったらしい。手助けできないことを歯がゆく思ってくれていたひともいた。でも、自分の家をまず守らないと、だ。
おめかけさんであったことなど、問題はあるけれど、結果良ければすべて良し、な……やつだろう。お貴族さまにはもっと酷いお話もあるし。
そう、マーロウ家のそんなやりとりは醜聞ならないほど。貴族の世界は……おそろしいと、スピカは成長の度にしっかりと学んでいった。
これは前妻さんとの離婚が相手都合もあり、円満離婚であったことも大きく。前妻さんが戻られた、その旦那さんのご実家が割と影響力あるお家なこともあり。そちらから気に掛けてもらえているらしい。
あとはスピカの外見が、祖父の母――父親の亡くなったお婆さんに瓜二つなこともあるのか。血の繋がり丸わかり、と。
はい、ゲームの主人公にあるように美少女です。ありがとうひいお婆さん。
「でも、ツラが良いだけでは世の中渡って行けへんわな」
スピカはゲーム主人公ということにあぐらをかかなかった。すでに自分はルートというものがあるなら、それていると思っていたし。
だから親やその祖父母の言うことを良く聞き、良く学んだ。
大人びているスピカのせいで、兄の方が……まぁ、言わぬが花。
兄がマーロウ男爵家を継ぐ頃にはスピカにも嫁入り先はできようし、関わりが薄いならそれはそれだ。
ゲームでもマーロウ家は主人公の実家のくせに描写が薄かったなと、スピカが思うくらいだ。
だから、兄は作中も「モブ」であったのだろう。
だが、まさかその兄が……――。
学園は十五歳から十八歳の三年間だ。
「高校みたいなもんかしら」
年頃もそうだし、実は十歳くらいから通い、基礎学力をはかる学校もある。
貴族の子らは基本的には家庭教師に学ぶのだけれども、それは伯爵位くらいからで、子爵男爵などは学校通いである。
そうしてこの貴族が通う学園では何を学ぶかというと――……。
「まぁ、人付き合いってやつよね」
ざっくり。
基礎的な学力をあげる授業は午前に少し。それらはすでに終わらせて入学している前提だから。
領地の経営や管理、歴史戦術などの専門科目が主に。これは跡取りなどで受けるものが変わるから。
そして、基本的には午後からは将来に備え社交な方面だ。
音楽やダンス、マナーを改めて学ぶ教室もあるし、スピカのような下位貴族には将来に高位貴族のお家で働くために侍女科目コースもあったりする。
スピカもその科目を選択していた。ほら、お兄さんのことがあるから、父や母に何かあったら「出ていけ」と言われかねないから。
「手に職は強い」
スピカの真面目な様子に、教師たちからの評価も良い。スピカが将来に現実的で、こうした前向きな生徒がいると、他の生徒にも良い影響を与えるので。
入学してまだ数日で教師たちの評価の良いスピカ。
しかしながら、スピカには――前世の早死にした趣味があることを。
それは死んでも治らない。また魂に染み付いていた。
それがとんでもない厄介ごとになるとは――スピカはこの入学した頃には、まったく思いもしなかった。
祖父母が入学祝いに買ってくれた画材道具――スケッチブックが、まさか。
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