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「こりゃあきまへんわ。現実みよ」
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しおりを挟む兄たちが、ファビアンとレティシアが反省したこと。
それは良かったなと、スピカも思いはした。反省しないよりはした方がましだ。世の中には反省もなく、自分は悪くないと言い張る輩とているのだから。
被害、当事者である両親が怒りも悲しみも飲み込んで許している以上、いつまでも過去の罪を突く趣味はスピカにはない。
両親の気持ちは、両親にしかわからないからだ。きっと、言葉にはできはしない感情で。両親のこともスピカが突ついてはいけないことだ。
スピカは兄のことはそうして切りをつけた。
自分は、セオドアにすっかりと絆されたからだ。愛情を知って、幸せになったからだ。
思えばあの時、背中にかばってくれたのに――トゥンク、はした。トゥンク、である。
まさに乙女、を。
「まぁ、セオドアさんは昔から良いひとだし……私も親戚になれて嬉しいわ?」
「リーシャさぁん……」
リーシャが変わらず友でいてくれるというのがスピカの一番の救い。
リーシャはスピカが平民となるなら自分の家にご家族ごといらっしゃいな――と、言ってくれていたくらいだ。
あの舞踏会のやらかしの時点で、そこまで考えてくれていた友人に、スピカは感謝である。
「いや、僕……そんなに嫌、かな?」
「そ、そんなにでは……ありませんが……」
「うん。まずはそれで良くない? ゆっくり行こう?」
「……はい」
セオドアも実はそれなりにスピカを気に入っていた。
王太子殿下に物怖じしないところを、特に。一緒に突っ込みしてくれるところに。
まぁ、デザインに関してな時だけだけども。普段はきちんとわきまえているところも、逆にギャップが好い。
そうしてスピカはしっかりと外堀が埋められた。
授業の選択も侍女科目は外れて、ダンスやマナーを、さらに上のを学ぶ必要にもなったので、たまにセオドアに愚痴りつつ。そうしたところで関係を深めて。
彼女自身が侍女を雇う側になったので。
ちなみに男爵家では男爵夫人である祖母にしか侍女はついていなかった。これは男爵位では平均的であり。
人を使うことを学ぶのが、実は一番大変だった。
そうしてスピカは、学園を卒業し、セオドアとともにレトラン家を継いだ。
ちなみに在学中にもまたいろいろとあった。
一番の出来事――国さえ変えることになったのは。
他国で発明されたコルセットの要らない下着類。ブラジャーや……腹巻き。
話を聞いたスピカは、誰よりも熱くアルフレッドにこの国に導入するように力説した。
「前々からコルセット無くしたいて思ってたんです! 何より身体に悪いですわ、こんなん!」
身体に悪い。
すなわちエステルの身体にも。
王太子妃に――次期王妃になるエステルが一番コルセットを身に着けているだろう。時にそんな姿で何時間も立ち、何時間も踊らねばならない。
アルフレッドは即座にその国と交渉に入った。
「腰痛には腰痛に適したコルセットもあるんです。彼の国にはきっと……!」
腰を悪くしている現王、現王妃もその話を聞いた。乗った。
そしてなにより。
「コルセットがなくても美しくみえるドレス、作ってみせますとも!」
拳を握りしめ仁王立ち。
「なんて頼もしい」と王太子とその婚約者は拍手し。
彼女自身の婚約者は「惚れ直しますね」と、最近かけ始めた眼鏡の位置を直した。
伯爵令嬢が「ブレーキ役がいない……もしかして私?」と一人頭を抱えたが。頑張って。
彼の国とは、下着類とドレスを連携するような、良い関係を築くことができ。
この国はいつしか流行の始まりと謳われるようになっていたから。
彼の国はそうした医療美容、人間の中身と外見には強いが、服飾は分野外であったと。互いに有り難く。
その御縁により、医療にも強いその国に、アルフレッド王太子の支援で留学する者も増え、違うところで国の為にもなった。
そうした功績によりスピカは、気がつけば王家お気に入りのデザイナー兼任――宰相夫人となっていた。
「あれぇ?」
「まぁ、僕も優秀だし……」
セオドアはアルフレッド王太子の側近から、宰相補佐になっていた。
そうして王太子が王位を継いだときに宰相補佐から宰相位を、彼も継いだのである。
爵位も伯爵から侯爵となった。
その予定で、もともとレトラン領を伯爵位より少しばかり大きめにしてあったと、アルフレッド王に言われて――こんにゃろめとなった相変わらずの二人であったのだけれど。
領地の管理人のスピカの父母も大変だったが、その頃には慣れてくれて、レトラン領は穏やかに栄えていった。
マーロウ家の皆はもとより、元バーディ家の領地だった人々も、元々レトラン家の領地だった人々も。皆が宰相の直轄領となったことに誇り持ち、すごしてくれる。
リーシャとは変わらず良い友人関係で。彼女は父母の跡を継いで外交に。友人のドレスをせっせと売りに出している。
子世代でまた縁組さえも。
糸目も引き継がれたが、それが良い、のである。
前世、同人活動もしていたオタク。
今世、乙女ゲームのヒロインだったかもだけど――王家お抱えのデザイナーになりました。
人生も、仕事も、めちゃくちゃ充実してます。
芸は身を助く――技術は身を助ける。好きこそものの上手に、だ。
――現実みて、良かった。
そんな現実を見たスピカは、実はセオドアも攻略対象で将来の宰相夫人ルートがあったことは。その際の相方役がレティシアであったとは――最後まで、思い出さなかったのであった。
もっとも、彼女のおかげでルートとも言えないが。結果、だ。
レティシアがあの性格なまま、悪役令嬢なまま――跡取りにもなれないままであったら本来、彼女はただ平民となり……いや、最後が酷く。なんの力も取り柄もない貴族の娘が平民と放り出された末路など……。
スピカがルートを変えたことでレティシアの救いになったことは、誰もそうとは思わなかったまま。
それは悪役令嬢たちだけでなく。本来モブであったリーシャや他の皆も何かしら。
――これからも現実を見据えて生きていく。
こうして、転生ヒロインはルートを変えました、とさ。
…でも、スピカの前世のお姉さんや会社の方々は、「良くねぇっ」と言われるでしょうが…。それはまたいつかフォローできたら。
でも、頼れるひと、もしくはそれなりの機関に、報連相はしてくださいね。
スピカさんは前世でも、そうして嫌な過去をぶっちしました。今世でも。
ひっそり彼の国とは、こちらを。
「これは私ですが、そちらは私ではありません」
…マリアさん、スピカにもし会えたら「神の指」について教えてもらえるだろうけど。たぶんスピカの中の人は知ってる大勝利。(ニチアサがタイムリー過ぎてコーヒーむせました…)
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