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大空の翼・大地の牙
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バテン・カイトスで道具を整え、いまの私たちに最適な魔術を考案し、私たちはリッカ村に戻ることにした。
日は落ち、あたりはすっかり闇に閉ざされている。月の明かりと、提燈の光を頼りに家路についた。空に星はない。月と太陽だけが回る空だ。これまで気にもしなかったが、星空の記録を持ったいまにしてみると、星のない夜空はあまりにも物悲しい。比較できる星がない満月は、暗闇の空間に穿たれた穴のようだ。そこから得体の知れない怪物が、私たち人間の愚かな所業を覗き込んできそうで、言い知れぬ不安を覚えた。
村の家屋には、ところどころ明かりがついている。おそらく仕事をしているのだろう。住人の少なくなった村には、日中だけでは時間が足りないほどの仕事があるからだ。私たちは村の入り口で一旦解散し、中央広場で再集合することにした。それぞれの自宅に戻って、今後の準備を整えるためだ。唯一、両親が健在の私にとっては、心の清算をする意味合いが大きい。
話し合いの末、落ち着くまではしばらくリディとエルフリーデの家に泊まることになった。心休まるまで、この四人と一緒に寝たかったのだ。とてもじゃないが、家に帰っても安心して眠れそうにない。子どもだけのお泊まり会は以前にも何度かあったが、その時の心境とはまったく別物だ。
自宅に帰ると、両親はさして心配もしていなかったようである。
「おかえり。遅かったね。何かあったのかい?」
父親はいつものように優しく語りかけた。
「ううん。なんでもないよ。ただ、みんなで遊び疲れてうたた寝しちゃっただけ。気づいたら真っ暗で、まいっちゃったよ」
「なーんだ。そういうことだったのね」
母親も愛嬌のある笑顔で会話に加わった。
「カナちゃんもリディちゃんもエルフリーデちゃんも帰ってきてないって聞いたから、てっきり四人とも天使様がお導きくださったのかと思ってたのよ」
母親はうれしそうな顔でしゃべり続けた。父親も深くうなずく。
……もちろん、いまでも私は両親を愛している。ずっとこれからも。それでも、生まれてしまった価値観のズレは、私を暗然とした気持ちにさせる。ふたりに悪意はない。純粋に子を思う親心だ。
だけど、いまの私には……死ねばよかった、と、そう聞こえてしまう。
「あの……今日からリディたちの家にしばらく泊まろうと思ってるの」
私は母親の言葉を無視した。どう答えようとも、心に、拭えない暗澹とした感情がこびりつきそうだったからだ。
「あら、急な話ね。どうして?」
「日食祭が近いから、それの準備」
「あれ? マリアのあの衣装、もう完成してるんじゃないの?」
さすがに、その道の職人の目は欺けない。
「うん。私のはね。でもみんなのがまだ完成してないから。それに、振りつけの練習もあるし。だってほら――」
言葉に詰まる。目頭が熱くなるのを感じて、私は思わず俯いた。帰る時に用意し、何度も反復したいいわけだ。だけど、いざ口に出してそれを言おうとすると、喉の奥に異物が詰まったように声が出せなくなる。
「どうしたの?」
母親が私の顔を覗き込む。私は奥歯を強く噛み締めて、顔を上げた。
「だって、ユユが……ユユが天に還ったでしょう? だから、振りつけも四人用に変更したほうがいいかなって」
視界がぼやける。涙ぐんだ目を見られて、不信に思われないだろうか。
「洗濯物なら、毎朝ウチに取りに来てちゃんとやるよ。いいでしょ?」
私は涙をごまかすために、言葉をまくし立てた。
「なるほどね。がんばるじゃない。私たちは応援するわ。ね、お父さん」
父親は黙って首肯した。どうにか怪しまれずにすんだらしい。いや、両親は――新人類には、誰かを怪しむなんて考えは生まれないのだ。悪さする人間も、騙す人間も、敵なんていないのだから。
嘘をついた罪悪感からか、私は逃げるように自室へ行き、必要なものを大きな手提げ袋に詰め込む。衣装ケースを開けると、その中にはユユの衣装もあった。彼女の忘れ形見である。
黄色を基調とした、大地の妖精の衣装。
私はそれを取り出して、すがるように抱きしめた。ユユと夜遅くまで一緒に作っていた時を鮮明に思い出す。不器用ながらに私に教えを乞い、集中力の続かない彼女はすぐに匙を投げていた。そんな彼女を私は厳しく指導し、どうにか完成させたのだ。雑に縫ってすぐほつれそうな箇所は、私がひそかに補強していたのだが、たぶんばれていただろう。完成した時、手作りのお菓子をもらったからだ。これまた少し雑なクッキーだったのだが、普段ならばわざわざ作ってきたりなかったはずだ。つい、甘えがちになってしまう彼女なりの、日頃の感謝の仕方だったのだろう。
あのころが懐かしい。幸せだった、あのころが――。
いつまでもこうしてはいられない。私はユユの衣装も手提げ袋に入れ、家を出た。
「マリア」
振り返ると、父親が玄関口に立っていた。柔和な、優しい表情である。
「がんばりなさい。きっといいものができる。お前にはそれだけの力があるんだからね」
「――うん。いってきます」
父親は手を振って私を送り出した。私はどうしても笑顔を作れなかった。また笑顔で家に戻れる時が来るのだろうか、私は不安で仕方がなかった。
◆
家を出て、夜道を歩くこと数分。私は中央広場についた。広場はひっそりと静まり、月に照らされ薄暗い。地面には赤黒い染みと、穿たれた穴が点々としている。以前、来襲した天使の爪痕だ。私は血痕を踏まないよう、慎重に足を進め、集合場所の大きな木についた。そこにはすでにほかの三人が私を待っていた。
「遅くなってごめん」
「いいよ。私らもさっき来たばかりだから」
地面に置いていた荷物を手にとって、カナは答えた。
「リディとエルフリーデも、わざわざ来てくれてありがとう」
「いえ、私たちも同じ気持ちでしたから」
ふたりの家に泊まることにしたのにも関わらず、中央広場にみんな再集合したのにはもちろん理由がある。
「じゃあ、行こうか」
私はみんなを先導して、地下へ通じる扉まで移動した。錆びついて重い鉄扉を協力して開けると、中からひんやりとした空気が流れてきた。それとともにいやな臭いが立ち上る。私は生唾を飲み込み、提燈に明かりをつけて階段を下りた。洞穴のような細い道を一列になって歩くと、すぐに広い空間にたどりついた。そこには木製の棺が所狭しと、ひしめき合っている。
鼻腔をつんざく腐臭と冷気。ここは死んだ人間を骨になるまで安置する場所だ。白骨化した遺体は丁重に運ばれ、村の神聖な社堂に祀られることになっている。以前の価値観ならば、死体は幸福の象徴でもあり愛おしくも思っていたが、いまは違う。死を恐怖するいまの私たちには、死体はいずれこの身にも降りかかる不安の象徴なのだ。だから、私たちは愛する人の死体と言えど、不気味に思ってしまう。
この棺のどれかに、ユユが眠っている。私たちは天使との戦いの前に、彼女に会いに来たのだ。ユユが死んだのは天使の大量虐殺の前なので、奥のほうにいるだろう。棺の蓋に人名が刻まれている。私たちは手分けして彼女の名前を探した。
「……あった」
彫刻刀で彫られたユユの文字を見ると、いまでも目蓋の裏に彼女の快活な姿が浮かぶ。私たちは棺の蓋を持ち上げた。中には枯れ果てた花々に包まれたユユがいた。日にちが経ち、とてもきれいな状態とは言えない。ところどころどす黒く変色し、腐り始めている。死は、美しいものばかりではない。しかし、それでも彼女の寝顔はあまりに安らかで、まるでお昼寝をしているようだった。
「ユユ……ごめんね」
みんな、口々に彼女の名前を呼ぶ。大粒の涙を流し、嗚咽が漏れる。
「ユユ。もう会えないんだよね、私たち」
死は最上の幸せなのだと、何も疑うことなく暮らしてきた。誰かが死ねば、私たちは喜び、祝福した。それはなんと、愛に満ちた無慈悲なのだろうか。天へ還るなどと言葉で取り繕い、幸福へと仕立て上げた。死んでしまえば、偲ぶことはできても思いは届かない。気持ちを共有することもできない。死は醜く、恐ろしく、そして悲しい。もう二度と会うことはない。そんな簡単なことも気づかずに、いや、見向きもせずに、私たちはなんの疑いもなく笑っていたのだ。それがただただ悔しい。
もし、私にもう少し力があれば。もし、これ以上は危険だと判断し、バテン・カイトスの調査を中断していれば、ユユも私たちと一緒に、この困難な現状に立ち向かっていたのかもしれない。彼女がいれば、塞ぎがちな私たちに爽やかな風を送り込んでくれたことだろう。それはいまの私たちにとって、一番必要なものなのだ。
「マリアさん、あなただけが自責の念に苛まれることはありません。私たち四人で、ユユさんの死を、村のみなさんの死を背負いましょう」
「うん。そうだね。ありがとう」
リディが私の心情を汲み取ってくれた。私だけが後悔しているだなんて、おこがましい。彼女のその言葉だけで、心が少し軽くなった気がする。
私たちは持ってきた新しい花をユユに手向け、彼女と別れることにした。
「ちょっと待って。これもユユに渡しておかないと」
棺の蓋を閉める前に、私はユユの衣装を取り出した。もし、本当に天国があるならば、彼女もこれを着て踊りたいだろう。
衣装を納めて、今度こそ蓋を閉じる。気のせいかもしれないが、ユユの顔が見えなくなる寸前に、彼女が笑ったような気がした。
「ユユ、みんな。どうか私たちの戦いを見守っていて」
薄暗い地下室に響く、決意の言葉。最愛の親友と、あふれかえる村人に私は声をかけた。死者は答えず、沈黙していた。
◆
――その日は朝から妙な胸騒ぎがあった。
私たちはバテン・カイトスの背中に乗って、魔術の鍛錬と見張りをしていた。広い面積と、高い位置から遠くまで見渡せる場所(当然、リッカ村が目に入る場所だ)という条件で、ここを選んだのだ。代弁者に真実を告げられた日から、洗濯物が終わった午後に、ここで集まるのが日課となっていた。
今日も昼から鍛錬を始めていた。そして昼下がりになったところで休憩していると、その時が来たのである。
「みんな、見て」
カナが遠くの空を指さす。遠くの空、太陽の真下に異形の生物が姿を現した。以前、リッカ村を襲った、大樹の姿をした天使だ。天使は木の根を蠢かせながら、真っ直ぐ村へ飛行している。いよいよ、戦いの時が来たのだ。
「あんなおっきいのと戦うんだよね、あたしたち」
心細そうにエルフリーデはつぶやいた。彼女だけではない。みんな恐怖と不安に押しつぶされそうになっている。それでも、私たちは行かなければならない。
「みんな、行くよ」
私はなけなしの気力を振り絞って、みんなを鼓舞した。
「うん!」
みんな息を合わせて返事をした。
それぞれ、ポケットの中から宝石を取り出す。バテン・カイトスで調達した宝石だ。この宝石には魔力を増大する性質がある。
――いまは亡き魔術師曰く、魔力とは本来、万物の循環器で廻り続ける、何にも属さない無色の力だという。それが循環器と人とを繋ぐ魔力路を通り、魔力炉という物質的には存在しない、形而上の人間の器官へ流れる。その量は鍛錬で増大することもあるが、ほとんど生来的に決まる。
魔力炉は無色の力を魔力へ変換する機能を持つ、言うなれば変圧器だ。魔力炉の性質で、得られる魔力の量が決まると言って過言ではない。しかし、いままで魔力を使ったことのない私たちの身体は、魔力炉の性質によらず、魔力が流れにくい。魔力を扱うには、形而上の存在である魔力炉から、この現実空間に存在する物質、主に自身の肉体に魔力を発生させなければならないのだ。
そのために準備したのが、この宝石だ。この宝石は、水滴が落ちるようにしか流れない私たちの魔力を補助するための道具だ。宝石に自分の魔力を流すことで、火花のように瞬間的に魔力が増大する。もちろん、それだけでは一瞬のことなのであまり役には立たない。長い鍛錬を積んだ魔術師のように、魔力を通しやすい身体、言わば魔力伝導体であれば、長時間の魔力の増大が見込まれるが、経験の浅い私たちの身体は魔力絶縁体であるため、瞬間的な宝石の効果しか得られないからだ。
そこで私たちはもうひとつ工夫を凝らした。
日食祭用に作った衣装を魔力伝導体になるよう、手を施したのである。長い時間をかけ、思いを込めた衣装に、私たちの魔力炉の川を繋ぐことは容易だった。魔術には心的要因が作用するからだ。
つまり、魔力の流れにくい肉体の代わりに、魔力の流れやすい衣装を魔力炉と繋いでバイパスを作ったということだ。
こうして魔術的な手を加えた魔法衣のおかげで、水滴だった魔力が小川のように流れるほどになった。あとは宝石の効果で、さらに魔力の流れを増大させるのだ。
これらの準備は地味ではあるが、とても魔術を学び始めて一年や二年ではできない芸当である。それを可能にしたのは、まったくもって皮肉なことだが魔術文明の記録が私たちの頭に刻まれていたおかげだ。
私たちは、宝石に魔力炉で作られた水滴の魔力を落とす。――火花のように瞬く閃光。私たちの姿はまばゆい光に包まれている間に、普段着から魔法衣へ転換していた。これもまた、着替える時間を短縮するために施した魔術である。もたもた着替えていたら、いざという時に遅れを取ってしまうからだ。
魔法衣に駆け巡る魔力の力強さを感じる。知識として知っているとは言え、この力の奔流を操るのは随分と苦労したものだ。
月、太陽、水、大気。私、カナ、リディ、エルフリーデ。それぞれの衣装のイメージだ。妖精を模した衣装であったが、いまの私たちはそれではない。現代では失われた、魔術師たちの復活だ。
私はバテン・カイトスの背中の中央から、一足飛びで地上へ飛び降りた。地面に足をついた時の衝撃は階段の四段分くらいのものだ。
ほかの三人も私のあとに続く。魔術の基本である強化の魔術は、すでにみんな習得済みである。強化魔術は基本でありながら、その汎用性の高さは魔術の中でも上位にある。物質的な変化、例えば筋肉の増量や身体の硬質化ではなく、能力の度合いの向上だ。本来、私たちに備わっている身体能力や耐久力、攻撃力などを便宜的に数値に変え、五とすると、それらを十にも二十にも書き換えるのが強化魔術だ。それ故に、バテンカイトスの頂上から着地したとしても、たいしたことない衝撃だったのだ。
魔術とは、世界にプログラミングされた法則の書き換えだ。例えば、一気圧の下で水は百度で水蒸気に、零度で氷に状態変化する。それがこの世界の法則だ。だが、魔術でその法則を書き換えることで、零度の水蒸気も百度の氷も精製できる。
その魔術の根源が、魔術言語――ルーン文字である。これによって因果や道理を無視した、直接的な現象の発現を可能とするのである。
普段から私たちが使用する言語を一次元言語とすると、ルーン文字は三次元言語と言えよう。何も、見た目が立体的な文字というわけではない。通常の言語は上下左右、どこから読むにしてもひとつの方向へ進み、ひとつの意味を持つ。つまり、ひとつの文章から導かれる文章の意味はひとつなのだ。ルーン文字はその通常の言語の性質に加えて、魔力伝導の性質と魔力を走らせることで法則の書き換えをし、魔術を顕現する性質があるのだ。
これが三次元言語と呼ばれる所以のひとつ。もうひとつの所以は、例えば通常の言語において、文章が指し示す意味が文章が進むとともにx軸上を正方向へ展開するとしよう。どんなに複雑な文章であっても、ひとつの方向、ひとつの意味しか持たない言語が記す軌跡は一次元である。それに対し、ルーン文字にはx軸だけではなく、y軸とz軸が存在し、三つの論理が時間経過で同時に展開される。文章の指し示す意味が、立体的に複雑に動くのだ。これによって、ルーン文字は通常の言語より表現の幅が莫大に広く、それだけに論理の破綻が生じやすい。単語のひとつでも間違えれば、たちまち意図した座標――文章の指し示す意味から遠く外れてしまうのだ。
過去にいた魔術師たちは、この繊細で強大なルーン文字を研究し、数々の奇跡の技を生み出してきた。私たちが持っている武器は、この魔術文明の遺産のみ。相対するのは拮抗律の化身である、異形の天使だ。
私たちは地上に降り立つと、勢いよく疾走した。これまで感じたことのない強烈な風を切る。どんな駿馬よりも速く草原を駆け抜け、瞬く間に天使との距離をつめる。
いまでも鮮烈にあの光景を思い出せる。切っても切り離せない忌まわしい記憶――村人を大量虐殺した、天使の姿だ。あんなものが幸福の使者であるなんて、いまはとても信じられない。あんなものを崇拝し、虜になっていたなんて、忸怩たる思いだ。必ずや、あの天使を、この不条理な運命を打ち破ってみせる。
ものの数分で、私たちは天使の元へたどりついた。天使は大空を滑空し、気づいていないのか、私たちには目もくれなかった。ちっぽけな存在だと思っているのか、と憤慨したが視界に入っていないのなら都合がいい。このまま奇襲をかけよう。
天使の下へ潜り込んだところで、リディが氷の弓矢を精製する。これが水の妖精をイメージした彼女の固有魔術だ。水をあらゆる状態と形状に変化させ、武器を精製する。武器の知識は古今東西のものが代弁者によって与えられているため、想像するのはたやすい。精密な機械兵器は想像するのに難があるので、作りの単純な武器に限定されるが、彼女の保有する武器は軽く千を越える。
精製した弓矢を引き絞り、天使へ射出する。空気を切り裂く音を出して矢は一直線に天使に飛び、胴体である幹に突き刺さった。巨大な大樹であるためにダメージは見込めないが、新人類である私たちの初めての攻撃なので、その意味は大きい。特に、私たちにはこれまで攻撃性というものがなかったのだから、価値観が反転したとは言え、どうしても他者を傷つけることに躊躇いが生まれてしまう。だが、リディが一番槍をつとめてくれたおかげで、心のどこかにあったストッパーが外れた。彼女の攻撃が、戦いの狼煙となったのだ。
矢が突き刺さった天使はぴたりと動きを止め、私たちを見下ろす。初めて私たちの存在に気づき、表情が歪んで笑う。
「――――あ」
生まれて初めて対面する敵意、悪意、殺意。身の毛もよだつ恐怖がそこにはあった。以前、天使を目の当たりにした時、その笑顔をぎこちない笑顔と感じたが、あれは違った。人を蔑むという考えがなかった私は、笑顔には慈愛しかないものと思っていた。しかし、あれは別の笑顔だ。いまならわかる。これは愚昧で矮小な人類を蔑む嘲笑だ。
私たちは初めて向けられる悪感情に身体がすくみ上がり、身動きが取れなかった。目を見開き、天使の異常な姿に取り込まれる。木の根が蠢き、私たちに狙いを定めている。全身が粟立つ――反撃が来る。そうわかっていながらも、まるでその映像が他人事のように映って、反応はできなかった。
高速に伸びる触手のような木の根。狙いはカナだった。強化された動体視力と身体能力を持ってすれば、回避は可能だったはずだが、その攻撃は無残にも彼女に命中してしまった。遠くへカナが突き飛ばされる。その段になって、ようやく私たちは金縛りが解け、彼女の元へ駆け寄った。
「カナ、大丈夫? しっかりして!」
カナを抱きかかえる。彼女は苦しそうに息を漏らし、小刻みに震えているが、出血はなさそうだ。
「――ふ、ふふふ。あははは」
突然カナは笑い始めた。私たちが安否を気遣っていると、彼女は自らの足で立ち上がった。その表情は憑き物が落ちたようだった。
「あー、怖かった。私なら大丈夫だよ、痛かったけど。でも……みんな。私たち、戦える。私たちなら、あの天使にも勝てるよ」
その目には闘志の炎が宿っている。私たちの魔術は天使に対抗し得るのだ。それはカナが身をもって証明していた。
「もう! びっくりさせないでよ。心配したじゃない」
「ごめん、ごめん。正直なところ、最初は戦うだなんて無理なんじゃないかなって思ってたんだ。でも、この感じだったら、なんとかなるかもしれないって思って。それがちょっとうれしかったんだよ」
カナが私の肩を叩く。その手には力がみなぎっているようだった。
「みんな、天使が動き出したよ」
エルフリーデが緊張を含んだ声で注意を促す。天使が再び飛行を始めた。だが、私たちのほうへは向かわず、村を目指して移動しているようだ。
「行かせない!」
私は天使のあとを追い、大地を蹴り上げて跳躍した。その勢いに乗せ、天使の側面を蹴りつける。
――重い。
強化によって膂力を込めた足だったが、相手の存在感はまるで山のようだった。天使はなんら痛痒を感じていない。なおも、リッカ村を目指して飛行している。
「マリアに続こう」
「はい!」
カナとリディが駆け出す。エルフリーデはまだ二の足を踏んでいるようだ。
私とカナで連携を組み、攻撃を試みる。しかし、ふたりで力を合わせて殴打しようが、天使はびくともしなかった。
「こいつ、攻撃はたいしたことないけど頑丈すぎる」
カナが拳をさすりながら顔をしかめる。
「マリアさん、これを」
リディが精製したふたつの巨大な氷の斧。その片方をカナには渡さず、私だけに渡した。カナの固有魔術は太陽の象徴たる炎。それゆえに、リディの水の魔術とは相性が悪いため、使用することができないのだ。
私とリディは同時に飛び上がり、幹から生えてきたような人間の部分を狙う。急所があるとしたらここしか考えられない。ところが、危険を察知したのか、天使は触手を操り私たちを叩き落とした。
「――くっ。やはり空中では咄嗟に方向転換できませんね」
地面に叩きつけられ、思うように行かない現状に焦りが見える。このままではリッカ村に被害が出てしまう。
「みんな、大丈夫? ……ごめんね。あたし、怖がってばっかりで」
エルフリーデが私たちに駆け寄った。出遅れたことを反省しているらしい。
「いいのよ。怖いのはしょうがないから。戦いたくなかったら、無理して戦うことない。誰も責めたりしないよ」
私が優しく慰めると、エルフリーデは暗い顔で俯いた。
「うん……怖い。怖いけど、村のみんなが殺されちゃうほうが、あたしは怖いよ。だから、あたしも戦う」
エルフリーデの周囲に空気が流れる。そよ風はやがて強風へと変貌し、彼女の身体が宙に浮いた。大気の妖精の名にふさわしいこの飛行能力は、エルフリーデの固有魔術だ。彼女は風を身にまとい、勢いよく空へ飛んだ。
「これ以上は行かせないんだから――」
天使を正面に見据え、強風を巻き起こす。下からしか攻撃できない私たちの中で、唯一、対等の条件で戦えるのがエルフリーデだ。
しかし――表面積が大きく、風の抵抗を受けやすい天使の身体だったが、侵攻の勢いは衰えない。それでも煩わしかったのか、ハエを追い払うように触手でエルフリーデを狙う。彼女は間一髪でそれを回避し、私たちのところへ舞い戻ってきた。
「ダメだった……全然効かなかったよ」
エルフリーデは肩を落とした。私たちの力では、あの頑丈な天使はとまらない。天使は私たちを無視して村を目指している。
――遠くで喧騒が聞こえる。見てみると、いつの間にか私たちは村の目前に迫っていた。村人が天使に気づき、外に出て祈りを上げているのだ。これ以上はダメだ。また、あの光景を繰り広げてしまう。
「どうして私たちに見向きもしないの?」
天使の殺意を感じたのはカナを狙った最初の攻撃だけだった。それ以降は、自衛に徹するのみで、私たちを無視し続けている。
「ひょっとしたら、私たちが不幸観測者だからかもしれません」
「どういうこと?」
「天使は不足した幸福を埋める、拮抗律の化身です。ですが、私たちは価値観の反転以降、死は不幸なものだと捉えています。天使の存在理由は人類に幸福を与えることで、その方法は死を幸福だと考える人々の殺害です。だから、私たちを狙わず村を目指すのでしょう。ただ、私たちの存在がなくなることでも、相対的に幸福は増えますから、いざとなったら私たちを殺すことに躊躇いはないはずですが……」
失念していた。天使は幸福の代行者なんだ。私たちがあいつに殺されたところで、不幸とは思っても幸福には感じない。つまり、私たち不幸観測者を標的にするのは、人類の総数がもっと少なくなって不幸が相対的に大きくなったころ、ということか。当然だが、そんな悠長に構えるつもりはない。
「こうなったら、一か八か私の魔術で倒そう」
カナが痺れを切らす。彼女の太陽の魔術は私たちにとって切り札だ。狙ってみるのも手かもしれない。
「待ってください」リディが呼び止める。「カナさんの魔術は一度使うとしばらく使えなくなります。回避されては、私たちにはもう打つ手がありません。確実に当てる方法を探しましょう」
「考えるって、いまから?」
「残された時間をすべて魔術の鍛錬につぎ込んで、戦術を練らなかったのが仇となりましたが、幸いなことにひとつだけ思いついたことがあります」
リディが自信を持って答える。――そう、いまも昔も変わらない。いつだって彼女は私たちに期待と希望を与えてくれる。
「ほんと、リディ?」
「ええ。私たちの力を合わせるだけの簡単なことです。ただ、マリアさんとエルフリーデには負担がかかってしまいますが」
私とエルフリーデは、迷うことなくうなずいて受け入れた。
「わかりました。いいですか――」
◆
――どうか私たちを天へ導いてくださいまし。
――天使様、我々にお慈悲を。
――ああ、天使様。なんと神々しい。その手で私たちを天へ還してください。
村人たちが口々に祈りの言葉を捧げる。祈りは天使へ。天使は慈悲を。
リッカ村は、異様な熱気に包まれていた。家にとどまるものなどいない。怪我人も病人も、赤子も老人も、リッカ村のすべての村民は天使を迎え入れるため表に出ている。人々は狂信的に天を仰ぎ、天使の嘲笑を天恵と受け入れる。その目に猜疑心はない。誰もが天使を幸福の使いと信じて疑わない。
それを見て、どうしても無知が悪いとは思えなかった。私たちもこの間までは、ああして天使を信仰していたからだ。誰も間違ってはいない。みんな幸福に生きたいだけなんだ。おかしいとしたら、この世界の運命だ。そんなものに、これ以上みんなを傷つけられてたまるものか。
私たちは先回りして、村で天使を迎え撃つことにした。中央広場に集まる村人たちからは離れ、天使の侵攻を遮るように立ちはだかる。
「みんな、準備はいい?」
確認を取ると、私の背中に負ぶさっているエルフリーデ以外のふたりがうなずく。
「それじゃあ、手はず通りに、リディは天使の動きをとめて。私とカナは天使の攻撃から村人を守る。手が空いたらリディに加勢しよう。天使に隙ができたら、カナ、あなたの固有魔術でしとめるのよ」
作戦は至ってシンプルだ。敵の動きを封じ、最大火力で討つ。
「みんな。私たちで、この村を守ろう」
三人は拳を合わせて意志を高めた。眠っているような状態のエルフリーデも、気持ちは私たちと同じだった。
そうこうしていると、天使がその姿を現した。悠々と飛行するその異形は、やはり戦慄を覚える悪魔だ。真の戦いはこれから始まる。もう逃がしはしない。
――飛べ!
そう念じると、風を身にまとい、身体が軽くなった。次の瞬間、私は大空へ飛翔する。高速で飛行すると、あっという間に天使を通り過ぎ、村を一望できるほどの高さまで飛んでしまっていた。慣れるまで制御は難しいが、なんとかなるだろう。戦いながら慣れるしかない。ほかのふたりも私のあとに続く。
天使を俯瞰して、様子を窺がう。まだ私たちには見向きもしない。あくまで無視をするというのなら、こっちとしても都合がいい。目に物見せてやろう。
私とカナは村人を守るため、天使の正面に移動した。
同時に、天使の触手が蠢く。村人を狙って、高速に伸長を始めた。カナはその触手の側面を蹴り、軌道をずらす。コントロールを失った触手は地面に穴を開けるだけで、誰の血も流れることはなかった。
うまくいった。カナはすでに、飛行能力を自分のものにしている。
すると、天使の形相が変わった。怒りの皺を刻み、幹の側面からワシのような大きな広翼が生える。私たちを敵と認識し、殺意を孕んだようだ。
――人々は天を仰ぎ、祈る。そして何より、畏怖する。それは大空が持つ、大地への絶対的優位性ゆえだ。その大空を象徴するのが、あの広翼の天使の翼だ。
太古の昔、母なる大地を信仰する地母神信仰が、この世界に広く分布していた。蛇を崇拝したスネークカルトも、この地母神信仰が大本となっている。しかし、母神は父性を有した天空の神を信仰する遊牧民たちにより駆逐され、天空神に取り込まれた。蛇の天敵は猛禽類を始めとする鳥類。すなわち翼を持つもの――天使である。ゆえに地母神が天空神に勝てる道理はない。地を這うものが大空へ抱く感情は、畏怖と憧憬なのだ。だが、いまの飛行能力を有した私たちは大空と対等にある。
大蛇の姿をした代弁者と、翼を有した天使。さながら、私たちは天空と大地を仲立ちした神、ヘルメスだろう。
天と地を対等にしたこの飛行能力には、もちろんからくりがある。私の精神干渉の固有魔術と、エルフリーデの大気を操る魔術を組み合わせたのだ。エルフリーデの意識を私の精神干渉で限りなく希薄にし、私たちの意識を彼女に繋げたのだ。つまり、いま彼女の精神には私たち三人分の精神が入り込んで、タイムラグのないよう、連続的に精神を同期しているということになる。
これによって、エルフリーデの精神を経由し、彼女の意思ではなく、私たちの意思で大気の魔術を扱えるようになったのだ。もちろん、エルフリーデの意思で私たちを飛ばすこともできるが、戦いの最中、指示したり目視してからでは間に合わない場面のほうが多い。反射的な飛行能力が必要なのだ。彼女の意識を奪ったのは、母体であるエルフリーデの意識があると、私たちの精神が混線するからである。悪い言い方だが、彼女の意識を奪い、機械のように私たちが酷使していると言ってもいい。
私の背中に負ぶさっている理由は、リディとカナには別の役割があるからだ。私の精神干渉とエルフリーデの大気の魔術の効果範囲に鑑みれば、わざわざ背中に負ぶさる必要もなく、安全なところで寝かせていればいいのだが、「一番安心できるのはマリアちゃんの背中だよ」と言われては、無下に断ることもできない。
精神干渉などと、戦闘では役に立たない魔術だと己を恨みもしたが、こんな使い方があるとは目から鱗である。しかし、これにも大きなリスクが伴う。
「――――あっ!」
しばらく攻防を繰り広げていると、天使の触手がカナに命中した。
「カナ、大丈夫?」
「うん、頭にかすっただけ」
カナの額から血が流れる。すると、エルフリーデの頭からも血が流れ始めた。精神が繋がった代償だ。私たち三人の負傷は、そのままエルフリーデに同期されるのだ。誰かの死は、彼女の死に直結する。それはまさしく一心同体。私たちは力をひとつにして、天使と戦うことを決めたのだ。
「リディ!」
「心得ました」
リディが水の魔術を行使する。彼女の背後の空間に精製される無数の武器。展開された一つひとつが、洗練された人類の武器だ。その姿はまるで、大空に巨大な氷の翼を広げた本物の天使のようだった。
「ご覧に入れるのは、有史以前より人類が生み出し続けた破壊の結晶。あなたに、このすべてが受けられますか?」
武器を手に取り、天使へ突進する。自由自在に空中を飛び回り、迎撃しようとする天使の触手を回避しながら攻撃を開始した。硬い樹皮に刃こぼれが生じれば、それを捨て、新たな武器を手に攻撃を再開する。そのすべてが超重量級の武器だ。鈍い音が響き渡る。いくつもの氷の武器が砕け散り、その数だけ天使の樹皮に傷が入る。十、二十、三十――。間隙を与えない連続攻撃に、天使は初めて後退の姿勢を見せた。
「まだ百年分ほどの武器しか使っていませんよ。もう音を上げますか。――あまり、人類を舐めないでください」
リディが冷徹に微笑む。
「マリアさん、これを!」
リディが新たに精製したのは、罪人を拘束する不浄者の鎖。それで衰えた天使に縛りつけ、片端を私に投げ渡した。私はそれを受け取り、リディとふたりで力の限り引き、天使の身動きを封じる。
――熱い。リディは、カナの魔術を少しでも効果的に発揮できるよう、高温の氷で鎖を精製したのだ。
天使が抜け出そうともがく。信じられないほどの力に、私とリディは徐々に引きずられていく。鎖が軋み、悲鳴を上げる。この氷の鎖も私たちも、そう長くは持ちそうにない。
「カナ、お願い! こいつを、こいつを倒して!」
「任せて!」
カナはいつの間にか地上に降りていた。空中では支えが効かないからだ。エルフリーデの翼でも踏ん張れないだろう。片膝を地面につき、左手で右腕を握る。右腕の照準を左手で微調整し、狙いを天使に定める。右腕は大砲の砲身だ。
カナの魔力炉が活性化し、魔力が全身を巡る。彼女を中心に地面へ放射状にルーンが刻印され、右手首には円状にルーンの魔方陣が浮かび上がった。ルーンは青白い光を放ち、猛々しい魔力の波動が脈動するように駆け巡っている。
右手首のルーンを圧縮した魔方陣が、手首から肩にかけて三つに増える。三重の魔方陣は右、左、右とそれぞれ向きを違えて徐々に回転し始める。その回転音は切り裂くように大気を震わしていた。三重の魔方陣はより高速に回転し、より高音に音階を上げる。この回転する魔方陣こそ、太陽の魔術の要。魔力を炎の熱エネルギーに変換するこの魔方陣は、さながら上下運動を回転運動へ変換するエンジンそのものだ。
さらに、カナの膨大な魔力はその肉体だけにとどまらず、魔力伝導体であるルーン文字を放射状に、地面へ次々と展開することで無駄な魔力の発散・消耗を抑えていた。生成される魔力の渦。それは結果的に、私たちの魔術を遥かに凌ぐ大魔術となる。
――カナの魔力炉は異常だ。
この膨大な魔力の秘密は、彼女の魔力炉の異常な性質にある。三枚の鏡を正三角形に組み合わせた、さながら万華鏡のような魔力炉だ。通常の魔力であれば、なんの変化もなく万華鏡の魔力炉を通り抜け、身体に流れる魔力も高が知れている。だが、魔力炉で無色の力を魔力へ変化させる際、魔力に光の性質を付加することで、その異質な魔力炉の効果が絶大に発揮される。万華鏡の魔力炉にくべられた光の魔力は、鏡と鏡を反射し続け、無尽蔵に光の魔力が増幅するのだ。
虚像の魔力は新たな虚像の魔力を生み、万華鏡に無限の魔力の花びらが開花する。しかし、そのあまりに膨大な魔力は、魔力伝導体である肉体と魔法衣、そして魔力炉そのものを焼け焦がすことになる。代償として、焼け焦げたそれらが回復するまで使用はできなくなるが、生まれる魔力は甚大だ。
大地に刻印されたルーンの印章と、右腕の三重の魔方陣が青から真紅へ光の色を変貌させる。カナの周りの草花が灰燼と帰す。地面は熱され、白煙を上げていた。ともすれば自身の肉体さえも破壊しかねない魔力の奔流。彼女は荒れ狂う魔力を全力で抑えとどめていた。いままでの鍛錬でも、これほどの魔力を蓄積したことはない。
(中途半端にやって失敗なんかできない)
カナの思考が精神干渉で私に流れる。
(みんな命がけで戦ってるんだ。失敗するぐらいなら、この魂ごと燃やしてみせる!)
カナの姿が陽炎に歪む。高速に回転していた魔方陣が急に動きをとめた。
――煌く一閃。圧縮された高温の魔力の炎が発射された。熱膨張した空気が突風を巻き起こす。耳をつんざく炎の噴出音。目の前には巨大な火柱がそびえていた。それはまさしく、太陽の紅炎である。
火柱は一直線に天使に命中した。高温に精製した氷の鎖は、気遣い無用とばかりに瞬時に蒸発し、引いていた鎖が軽くなる。
――――キイイイィィィィ!
天使の金切り声の断末魔が響く。破壊力は申し分ない。だが、あの火柱に包まれてなお、燃え尽きることなく生きているのだ。
「嘘でしょう?」
カナの大魔術で倒せなければ、私たちに勝てる術はない。間違いなくダメージは与えているが、負傷した天使にとどめをさせる力が私たちにあるのだろうか。焦りと絶望が、思い出したようににじり寄る。私たちの敗北は、リッカ村の人たちの死に直結する。
不安に駆られていると、それを吹き飛ばすようにカナが哄笑した。
「まったく、生木は燃えにくいねぇ。でも安心して、みんな。こんなの、ちょっと魔力を抑えきれずに溢れ出したとろ火さ」
そう言うと、燃え盛る火柱が一旦おさまる。次の瞬間、地面のルーンはカナに吸い寄せられるように消える。そして再び回転し始めた腕の魔方陣は四つ、五つとその数を増やし、以前にも増して回転速度を上げた。作り出された膨大な魔力が彼女の中に戻り、より高温のエネルギーを生み出しているのだ。
突き出した右手の先の中空に新たな魔方陣が展開される。怪物が大口を開けたような、巨大な魔方陣。あれは標的以外に炎が飛び散らないようにする砲口だ。蓄積されたエネルギーに、味方ながら怖気が走る。これより始まるのは、神殺しだ。
天使よ、刮目せよ。我らは天に仇なす最新にして最後の魔法使い、地上にもがく人類の末裔だ。太陽の妖精はその研ぎ澄まされた刃を抜いた。体現するは地上の恒星――。
「――――行け!」
カナがかけ声を上げた瞬間、爆発した、としか思えなかった。大気が衝撃波を起こし、周囲の木々がなぎ倒される。カナを中心に、大地が焦土と化す。圧縮された魔力、圧縮された光。長く続いた魔術の歴史の中でも、最高峰の破壊力を持った大魔術が発動する。すすけた万華鏡の魔力炉はその花々を枯らしていた。しかし、生産された魔力量はあまりに過剰だ。魔力絶縁体など関係ない。肉体の隅々まで光の魔力は駆け巡る。カナの全身が青白く発光し、その熱が離れた私たちの元まで届いた。
すべての魔力が手のひらに集中し、魔方陣に注がれる。魔方陣から射出された太陽の魔術は、先ほどの荒々しい炎ではなく、研ぎ澄まされた鋭利な光の槍だった。熱風が吹き荒れ、大気までをも焦がす。直線に、高速に、光の槍は天使を貫くべく天を目指した。
すでに死に体である天使に避ける余力はない。すべてを気化する清浄な炎を防ぐ術はない。破滅を悟った天使が、最期に慈愛に満ちた笑みを浮かべる。その笑顔は、絶対的な善性を持った天使の、人類を優しく包み込むような笑顔だった。
「はん。何よ、いまさら。さっさと元の場所へ還って、幸せの押しつけはごめんだって神様に伝えてきな」
硬い樹皮が一瞬に蒸発し、天使の微笑は消え失せた。神話のように光に包まれた天使は、慟哭も許されず消滅する。光は天蓋を穿孔し、雲を吹き飛ばした。天使の姿は塵すら残っていない。亡骸さえ残っておらず、文字通り跡形もなく消えてしまったので、果たして倒せたのか実感が持てないでいた。
「……倒した、の?」
信じられない光景を目の当たりにして、私の思考はしばらく停止していた。
「ええ。私たちの……勝利です」
リディが私の手を握った。そのたしかな温もりが全身に染み渡る。私たちは天使に打ち勝ったのだ。
「カナ!」
カナの元へ駆け寄る。彼女は黒く焦げた地面の中心に横臥していた。
「あー、いま私に触らないほうがいいよ。身体がめちゃくちゃ熱くなってるから。つーか私、ちゃんと服着てる?」
カナは心身ともに疲れ果ててつぶやいた。耐久力の強化のおかげで、肉体と魔法衣は崩壊せずにすんだようだ。
「そんなの関係ないよ」
熱さを我慢するより、この喜びを触れて分かち合えないほうが我慢できない。私とリディは力いっぱいカナを抱きしめた。たしかに驚くほど熱いけれど、いまはずっとこうしていたかった。
「エルフリーデ、起きて。私たち勝ったんだよ」
「ふぇ?」
眠りから覚めたエルフリーデが、寝ぼけた調子で目をこする。そんな彼女を見て、私たちはまた笑い合った。
「うん。ちゃんとみんなと一緒に見てたよ。みんなすごくてびっくりしちゃった」
「あなたもすごかったですよ。あんなに自在に空を飛ばせてくれて。でも、ごめんなさい。無傷とはいきませんでした」
リディは精神干渉の副作用で傷ついたエルフリーデの血を優しく拭った。カナとの精神回線は大魔術を使う前に切っておいたので、エルフリーデはカナほど身体にダメージは蓄積していないようだ。
「これぐらい、へっちゃらだよ」
エルフリーデは気丈に振る舞った。こんなに心から笑ったのは、いつ以来だろう。代弁者から話を聞かされて、ずっと私たちは悲しみ、嘆き、そして何より恐ろしかった。でも、私たちの力は天使に通用する。天使が何人いようが、この頼れる仲間たちがいればなんてことない。この不条理を、私たちは乗り越えられるのだ。
――しかし、不安がひとつ減ると、すぐに新たな不安が生まれるもの。私たちはリッカ村を守ろうとがむしゃらで、大事なことを失念していた。
「これは……いったいどういうことなんだ?」
私たちが喜びに打ちひしがれていると、村人たちがやってきた。私たちが戦っている様子を離れたところで見ていたのだ。
「マリア、君はいま何をしていたんだ?」
父親が困惑した表情で私に質問する。リッカ村を天使から守っていたのだと、そう説明したところで、果たして理解は得られるのだろうか。
戦いという概念も罪という意識も、怒りも恐怖もない。天使を倒したことを糾弾することもできず、父親はただただ狼狽するしかできないでいる。
「お父さん、これは……」
何も言葉が見つからない。どう説明すればいいのか、どう説得すればいいのか。何を言っても、きっと理解はされないだろう。
「まさか、天使様を天へお還ししたのか?」
私が言いよどんでいると、村長が動揺しながら発言した。
「――え?」
言葉の意味が、最初はわからなかった。ほかの村人も理解が追いついていない。
――天使様を天へ? どうしてだ?
――あの子たち、空を飛んでいたぞ。
――ああ、天使様のお姿が消えてしまったわ。
村人たちは口々に疑問を漏らす。
「村長、いったい何が起こったのでしょうか?」
両親が村長に教えを乞う。
「天使様を天へ、つまり君たちは――あなた方は女神様なのでしょう?」
あまりに神聖なものを見たように感涙し、村長は膝をついた。表情は恍惚とし、目の前の奇跡を称えているようだ。同じ人間から崇拝されることが、こんなにも居心地の悪いものだとは知らなかった。私は、誰かに崇拝されるような、そんなものになどなりたくない。
「そんな、違うわ」
否定の言葉は誰にも届かない。村長は理解の及ばない事実を、理解の範疇である虚構へ歪曲させたのだ。
村人たちは、次々に私たちを崇めるべく膝をつく。私の両親までもが、私に祈りを捧げ始めた。これまでずっと私を愛し、育ててくれたふたりだ。それなのに……。
――女神様? ――女神様。――女神様。
村人たちの祈りが少しずつ重なる。彼らの瞳に涙が浮かぶ。戦いという未知なる真実は、奇蹟の所業としてたやすく歪められた。無垢な村人は私たちを女神として受けとめ、感極まり、涙を流している。
「やめて……お願い、やめて」
――女神様、どうか私たちに幸福を。
――天へお導きください。
――ああ、お恵みを、私たちにお慈悲を。
祈りはやがて、熱を帯びた喝采に。村人たちは手を合わせ、すがるように私たちを見上げた。神を信じて疑わないその瞳には、私たちの姿が映っている。
――女神様。
――女神様。
――女神様。
私たちが勝ち得たものは、いったいなんなのだろう。
日は落ち、あたりはすっかり闇に閉ざされている。月の明かりと、提燈の光を頼りに家路についた。空に星はない。月と太陽だけが回る空だ。これまで気にもしなかったが、星空の記録を持ったいまにしてみると、星のない夜空はあまりにも物悲しい。比較できる星がない満月は、暗闇の空間に穿たれた穴のようだ。そこから得体の知れない怪物が、私たち人間の愚かな所業を覗き込んできそうで、言い知れぬ不安を覚えた。
村の家屋には、ところどころ明かりがついている。おそらく仕事をしているのだろう。住人の少なくなった村には、日中だけでは時間が足りないほどの仕事があるからだ。私たちは村の入り口で一旦解散し、中央広場で再集合することにした。それぞれの自宅に戻って、今後の準備を整えるためだ。唯一、両親が健在の私にとっては、心の清算をする意味合いが大きい。
話し合いの末、落ち着くまではしばらくリディとエルフリーデの家に泊まることになった。心休まるまで、この四人と一緒に寝たかったのだ。とてもじゃないが、家に帰っても安心して眠れそうにない。子どもだけのお泊まり会は以前にも何度かあったが、その時の心境とはまったく別物だ。
自宅に帰ると、両親はさして心配もしていなかったようである。
「おかえり。遅かったね。何かあったのかい?」
父親はいつものように優しく語りかけた。
「ううん。なんでもないよ。ただ、みんなで遊び疲れてうたた寝しちゃっただけ。気づいたら真っ暗で、まいっちゃったよ」
「なーんだ。そういうことだったのね」
母親も愛嬌のある笑顔で会話に加わった。
「カナちゃんもリディちゃんもエルフリーデちゃんも帰ってきてないって聞いたから、てっきり四人とも天使様がお導きくださったのかと思ってたのよ」
母親はうれしそうな顔でしゃべり続けた。父親も深くうなずく。
……もちろん、いまでも私は両親を愛している。ずっとこれからも。それでも、生まれてしまった価値観のズレは、私を暗然とした気持ちにさせる。ふたりに悪意はない。純粋に子を思う親心だ。
だけど、いまの私には……死ねばよかった、と、そう聞こえてしまう。
「あの……今日からリディたちの家にしばらく泊まろうと思ってるの」
私は母親の言葉を無視した。どう答えようとも、心に、拭えない暗澹とした感情がこびりつきそうだったからだ。
「あら、急な話ね。どうして?」
「日食祭が近いから、それの準備」
「あれ? マリアのあの衣装、もう完成してるんじゃないの?」
さすがに、その道の職人の目は欺けない。
「うん。私のはね。でもみんなのがまだ完成してないから。それに、振りつけの練習もあるし。だってほら――」
言葉に詰まる。目頭が熱くなるのを感じて、私は思わず俯いた。帰る時に用意し、何度も反復したいいわけだ。だけど、いざ口に出してそれを言おうとすると、喉の奥に異物が詰まったように声が出せなくなる。
「どうしたの?」
母親が私の顔を覗き込む。私は奥歯を強く噛み締めて、顔を上げた。
「だって、ユユが……ユユが天に還ったでしょう? だから、振りつけも四人用に変更したほうがいいかなって」
視界がぼやける。涙ぐんだ目を見られて、不信に思われないだろうか。
「洗濯物なら、毎朝ウチに取りに来てちゃんとやるよ。いいでしょ?」
私は涙をごまかすために、言葉をまくし立てた。
「なるほどね。がんばるじゃない。私たちは応援するわ。ね、お父さん」
父親は黙って首肯した。どうにか怪しまれずにすんだらしい。いや、両親は――新人類には、誰かを怪しむなんて考えは生まれないのだ。悪さする人間も、騙す人間も、敵なんていないのだから。
嘘をついた罪悪感からか、私は逃げるように自室へ行き、必要なものを大きな手提げ袋に詰め込む。衣装ケースを開けると、その中にはユユの衣装もあった。彼女の忘れ形見である。
黄色を基調とした、大地の妖精の衣装。
私はそれを取り出して、すがるように抱きしめた。ユユと夜遅くまで一緒に作っていた時を鮮明に思い出す。不器用ながらに私に教えを乞い、集中力の続かない彼女はすぐに匙を投げていた。そんな彼女を私は厳しく指導し、どうにか完成させたのだ。雑に縫ってすぐほつれそうな箇所は、私がひそかに補強していたのだが、たぶんばれていただろう。完成した時、手作りのお菓子をもらったからだ。これまた少し雑なクッキーだったのだが、普段ならばわざわざ作ってきたりなかったはずだ。つい、甘えがちになってしまう彼女なりの、日頃の感謝の仕方だったのだろう。
あのころが懐かしい。幸せだった、あのころが――。
いつまでもこうしてはいられない。私はユユの衣装も手提げ袋に入れ、家を出た。
「マリア」
振り返ると、父親が玄関口に立っていた。柔和な、優しい表情である。
「がんばりなさい。きっといいものができる。お前にはそれだけの力があるんだからね」
「――うん。いってきます」
父親は手を振って私を送り出した。私はどうしても笑顔を作れなかった。また笑顔で家に戻れる時が来るのだろうか、私は不安で仕方がなかった。
◆
家を出て、夜道を歩くこと数分。私は中央広場についた。広場はひっそりと静まり、月に照らされ薄暗い。地面には赤黒い染みと、穿たれた穴が点々としている。以前、来襲した天使の爪痕だ。私は血痕を踏まないよう、慎重に足を進め、集合場所の大きな木についた。そこにはすでにほかの三人が私を待っていた。
「遅くなってごめん」
「いいよ。私らもさっき来たばかりだから」
地面に置いていた荷物を手にとって、カナは答えた。
「リディとエルフリーデも、わざわざ来てくれてありがとう」
「いえ、私たちも同じ気持ちでしたから」
ふたりの家に泊まることにしたのにも関わらず、中央広場にみんな再集合したのにはもちろん理由がある。
「じゃあ、行こうか」
私はみんなを先導して、地下へ通じる扉まで移動した。錆びついて重い鉄扉を協力して開けると、中からひんやりとした空気が流れてきた。それとともにいやな臭いが立ち上る。私は生唾を飲み込み、提燈に明かりをつけて階段を下りた。洞穴のような細い道を一列になって歩くと、すぐに広い空間にたどりついた。そこには木製の棺が所狭しと、ひしめき合っている。
鼻腔をつんざく腐臭と冷気。ここは死んだ人間を骨になるまで安置する場所だ。白骨化した遺体は丁重に運ばれ、村の神聖な社堂に祀られることになっている。以前の価値観ならば、死体は幸福の象徴でもあり愛おしくも思っていたが、いまは違う。死を恐怖するいまの私たちには、死体はいずれこの身にも降りかかる不安の象徴なのだ。だから、私たちは愛する人の死体と言えど、不気味に思ってしまう。
この棺のどれかに、ユユが眠っている。私たちは天使との戦いの前に、彼女に会いに来たのだ。ユユが死んだのは天使の大量虐殺の前なので、奥のほうにいるだろう。棺の蓋に人名が刻まれている。私たちは手分けして彼女の名前を探した。
「……あった」
彫刻刀で彫られたユユの文字を見ると、いまでも目蓋の裏に彼女の快活な姿が浮かぶ。私たちは棺の蓋を持ち上げた。中には枯れ果てた花々に包まれたユユがいた。日にちが経ち、とてもきれいな状態とは言えない。ところどころどす黒く変色し、腐り始めている。死は、美しいものばかりではない。しかし、それでも彼女の寝顔はあまりに安らかで、まるでお昼寝をしているようだった。
「ユユ……ごめんね」
みんな、口々に彼女の名前を呼ぶ。大粒の涙を流し、嗚咽が漏れる。
「ユユ。もう会えないんだよね、私たち」
死は最上の幸せなのだと、何も疑うことなく暮らしてきた。誰かが死ねば、私たちは喜び、祝福した。それはなんと、愛に満ちた無慈悲なのだろうか。天へ還るなどと言葉で取り繕い、幸福へと仕立て上げた。死んでしまえば、偲ぶことはできても思いは届かない。気持ちを共有することもできない。死は醜く、恐ろしく、そして悲しい。もう二度と会うことはない。そんな簡単なことも気づかずに、いや、見向きもせずに、私たちはなんの疑いもなく笑っていたのだ。それがただただ悔しい。
もし、私にもう少し力があれば。もし、これ以上は危険だと判断し、バテン・カイトスの調査を中断していれば、ユユも私たちと一緒に、この困難な現状に立ち向かっていたのかもしれない。彼女がいれば、塞ぎがちな私たちに爽やかな風を送り込んでくれたことだろう。それはいまの私たちにとって、一番必要なものなのだ。
「マリアさん、あなただけが自責の念に苛まれることはありません。私たち四人で、ユユさんの死を、村のみなさんの死を背負いましょう」
「うん。そうだね。ありがとう」
リディが私の心情を汲み取ってくれた。私だけが後悔しているだなんて、おこがましい。彼女のその言葉だけで、心が少し軽くなった気がする。
私たちは持ってきた新しい花をユユに手向け、彼女と別れることにした。
「ちょっと待って。これもユユに渡しておかないと」
棺の蓋を閉める前に、私はユユの衣装を取り出した。もし、本当に天国があるならば、彼女もこれを着て踊りたいだろう。
衣装を納めて、今度こそ蓋を閉じる。気のせいかもしれないが、ユユの顔が見えなくなる寸前に、彼女が笑ったような気がした。
「ユユ、みんな。どうか私たちの戦いを見守っていて」
薄暗い地下室に響く、決意の言葉。最愛の親友と、あふれかえる村人に私は声をかけた。死者は答えず、沈黙していた。
◆
――その日は朝から妙な胸騒ぎがあった。
私たちはバテン・カイトスの背中に乗って、魔術の鍛錬と見張りをしていた。広い面積と、高い位置から遠くまで見渡せる場所(当然、リッカ村が目に入る場所だ)という条件で、ここを選んだのだ。代弁者に真実を告げられた日から、洗濯物が終わった午後に、ここで集まるのが日課となっていた。
今日も昼から鍛錬を始めていた。そして昼下がりになったところで休憩していると、その時が来たのである。
「みんな、見て」
カナが遠くの空を指さす。遠くの空、太陽の真下に異形の生物が姿を現した。以前、リッカ村を襲った、大樹の姿をした天使だ。天使は木の根を蠢かせながら、真っ直ぐ村へ飛行している。いよいよ、戦いの時が来たのだ。
「あんなおっきいのと戦うんだよね、あたしたち」
心細そうにエルフリーデはつぶやいた。彼女だけではない。みんな恐怖と不安に押しつぶされそうになっている。それでも、私たちは行かなければならない。
「みんな、行くよ」
私はなけなしの気力を振り絞って、みんなを鼓舞した。
「うん!」
みんな息を合わせて返事をした。
それぞれ、ポケットの中から宝石を取り出す。バテン・カイトスで調達した宝石だ。この宝石には魔力を増大する性質がある。
――いまは亡き魔術師曰く、魔力とは本来、万物の循環器で廻り続ける、何にも属さない無色の力だという。それが循環器と人とを繋ぐ魔力路を通り、魔力炉という物質的には存在しない、形而上の人間の器官へ流れる。その量は鍛錬で増大することもあるが、ほとんど生来的に決まる。
魔力炉は無色の力を魔力へ変換する機能を持つ、言うなれば変圧器だ。魔力炉の性質で、得られる魔力の量が決まると言って過言ではない。しかし、いままで魔力を使ったことのない私たちの身体は、魔力炉の性質によらず、魔力が流れにくい。魔力を扱うには、形而上の存在である魔力炉から、この現実空間に存在する物質、主に自身の肉体に魔力を発生させなければならないのだ。
そのために準備したのが、この宝石だ。この宝石は、水滴が落ちるようにしか流れない私たちの魔力を補助するための道具だ。宝石に自分の魔力を流すことで、火花のように瞬間的に魔力が増大する。もちろん、それだけでは一瞬のことなのであまり役には立たない。長い鍛錬を積んだ魔術師のように、魔力を通しやすい身体、言わば魔力伝導体であれば、長時間の魔力の増大が見込まれるが、経験の浅い私たちの身体は魔力絶縁体であるため、瞬間的な宝石の効果しか得られないからだ。
そこで私たちはもうひとつ工夫を凝らした。
日食祭用に作った衣装を魔力伝導体になるよう、手を施したのである。長い時間をかけ、思いを込めた衣装に、私たちの魔力炉の川を繋ぐことは容易だった。魔術には心的要因が作用するからだ。
つまり、魔力の流れにくい肉体の代わりに、魔力の流れやすい衣装を魔力炉と繋いでバイパスを作ったということだ。
こうして魔術的な手を加えた魔法衣のおかげで、水滴だった魔力が小川のように流れるほどになった。あとは宝石の効果で、さらに魔力の流れを増大させるのだ。
これらの準備は地味ではあるが、とても魔術を学び始めて一年や二年ではできない芸当である。それを可能にしたのは、まったくもって皮肉なことだが魔術文明の記録が私たちの頭に刻まれていたおかげだ。
私たちは、宝石に魔力炉で作られた水滴の魔力を落とす。――火花のように瞬く閃光。私たちの姿はまばゆい光に包まれている間に、普段着から魔法衣へ転換していた。これもまた、着替える時間を短縮するために施した魔術である。もたもた着替えていたら、いざという時に遅れを取ってしまうからだ。
魔法衣に駆け巡る魔力の力強さを感じる。知識として知っているとは言え、この力の奔流を操るのは随分と苦労したものだ。
月、太陽、水、大気。私、カナ、リディ、エルフリーデ。それぞれの衣装のイメージだ。妖精を模した衣装であったが、いまの私たちはそれではない。現代では失われた、魔術師たちの復活だ。
私はバテン・カイトスの背中の中央から、一足飛びで地上へ飛び降りた。地面に足をついた時の衝撃は階段の四段分くらいのものだ。
ほかの三人も私のあとに続く。魔術の基本である強化の魔術は、すでにみんな習得済みである。強化魔術は基本でありながら、その汎用性の高さは魔術の中でも上位にある。物質的な変化、例えば筋肉の増量や身体の硬質化ではなく、能力の度合いの向上だ。本来、私たちに備わっている身体能力や耐久力、攻撃力などを便宜的に数値に変え、五とすると、それらを十にも二十にも書き換えるのが強化魔術だ。それ故に、バテンカイトスの頂上から着地したとしても、たいしたことない衝撃だったのだ。
魔術とは、世界にプログラミングされた法則の書き換えだ。例えば、一気圧の下で水は百度で水蒸気に、零度で氷に状態変化する。それがこの世界の法則だ。だが、魔術でその法則を書き換えることで、零度の水蒸気も百度の氷も精製できる。
その魔術の根源が、魔術言語――ルーン文字である。これによって因果や道理を無視した、直接的な現象の発現を可能とするのである。
普段から私たちが使用する言語を一次元言語とすると、ルーン文字は三次元言語と言えよう。何も、見た目が立体的な文字というわけではない。通常の言語は上下左右、どこから読むにしてもひとつの方向へ進み、ひとつの意味を持つ。つまり、ひとつの文章から導かれる文章の意味はひとつなのだ。ルーン文字はその通常の言語の性質に加えて、魔力伝導の性質と魔力を走らせることで法則の書き換えをし、魔術を顕現する性質があるのだ。
これが三次元言語と呼ばれる所以のひとつ。もうひとつの所以は、例えば通常の言語において、文章が指し示す意味が文章が進むとともにx軸上を正方向へ展開するとしよう。どんなに複雑な文章であっても、ひとつの方向、ひとつの意味しか持たない言語が記す軌跡は一次元である。それに対し、ルーン文字にはx軸だけではなく、y軸とz軸が存在し、三つの論理が時間経過で同時に展開される。文章の指し示す意味が、立体的に複雑に動くのだ。これによって、ルーン文字は通常の言語より表現の幅が莫大に広く、それだけに論理の破綻が生じやすい。単語のひとつでも間違えれば、たちまち意図した座標――文章の指し示す意味から遠く外れてしまうのだ。
過去にいた魔術師たちは、この繊細で強大なルーン文字を研究し、数々の奇跡の技を生み出してきた。私たちが持っている武器は、この魔術文明の遺産のみ。相対するのは拮抗律の化身である、異形の天使だ。
私たちは地上に降り立つと、勢いよく疾走した。これまで感じたことのない強烈な風を切る。どんな駿馬よりも速く草原を駆け抜け、瞬く間に天使との距離をつめる。
いまでも鮮烈にあの光景を思い出せる。切っても切り離せない忌まわしい記憶――村人を大量虐殺した、天使の姿だ。あんなものが幸福の使者であるなんて、いまはとても信じられない。あんなものを崇拝し、虜になっていたなんて、忸怩たる思いだ。必ずや、あの天使を、この不条理な運命を打ち破ってみせる。
ものの数分で、私たちは天使の元へたどりついた。天使は大空を滑空し、気づいていないのか、私たちには目もくれなかった。ちっぽけな存在だと思っているのか、と憤慨したが視界に入っていないのなら都合がいい。このまま奇襲をかけよう。
天使の下へ潜り込んだところで、リディが氷の弓矢を精製する。これが水の妖精をイメージした彼女の固有魔術だ。水をあらゆる状態と形状に変化させ、武器を精製する。武器の知識は古今東西のものが代弁者によって与えられているため、想像するのはたやすい。精密な機械兵器は想像するのに難があるので、作りの単純な武器に限定されるが、彼女の保有する武器は軽く千を越える。
精製した弓矢を引き絞り、天使へ射出する。空気を切り裂く音を出して矢は一直線に天使に飛び、胴体である幹に突き刺さった。巨大な大樹であるためにダメージは見込めないが、新人類である私たちの初めての攻撃なので、その意味は大きい。特に、私たちにはこれまで攻撃性というものがなかったのだから、価値観が反転したとは言え、どうしても他者を傷つけることに躊躇いが生まれてしまう。だが、リディが一番槍をつとめてくれたおかげで、心のどこかにあったストッパーが外れた。彼女の攻撃が、戦いの狼煙となったのだ。
矢が突き刺さった天使はぴたりと動きを止め、私たちを見下ろす。初めて私たちの存在に気づき、表情が歪んで笑う。
「――――あ」
生まれて初めて対面する敵意、悪意、殺意。身の毛もよだつ恐怖がそこにはあった。以前、天使を目の当たりにした時、その笑顔をぎこちない笑顔と感じたが、あれは違った。人を蔑むという考えがなかった私は、笑顔には慈愛しかないものと思っていた。しかし、あれは別の笑顔だ。いまならわかる。これは愚昧で矮小な人類を蔑む嘲笑だ。
私たちは初めて向けられる悪感情に身体がすくみ上がり、身動きが取れなかった。目を見開き、天使の異常な姿に取り込まれる。木の根が蠢き、私たちに狙いを定めている。全身が粟立つ――反撃が来る。そうわかっていながらも、まるでその映像が他人事のように映って、反応はできなかった。
高速に伸びる触手のような木の根。狙いはカナだった。強化された動体視力と身体能力を持ってすれば、回避は可能だったはずだが、その攻撃は無残にも彼女に命中してしまった。遠くへカナが突き飛ばされる。その段になって、ようやく私たちは金縛りが解け、彼女の元へ駆け寄った。
「カナ、大丈夫? しっかりして!」
カナを抱きかかえる。彼女は苦しそうに息を漏らし、小刻みに震えているが、出血はなさそうだ。
「――ふ、ふふふ。あははは」
突然カナは笑い始めた。私たちが安否を気遣っていると、彼女は自らの足で立ち上がった。その表情は憑き物が落ちたようだった。
「あー、怖かった。私なら大丈夫だよ、痛かったけど。でも……みんな。私たち、戦える。私たちなら、あの天使にも勝てるよ」
その目には闘志の炎が宿っている。私たちの魔術は天使に対抗し得るのだ。それはカナが身をもって証明していた。
「もう! びっくりさせないでよ。心配したじゃない」
「ごめん、ごめん。正直なところ、最初は戦うだなんて無理なんじゃないかなって思ってたんだ。でも、この感じだったら、なんとかなるかもしれないって思って。それがちょっとうれしかったんだよ」
カナが私の肩を叩く。その手には力がみなぎっているようだった。
「みんな、天使が動き出したよ」
エルフリーデが緊張を含んだ声で注意を促す。天使が再び飛行を始めた。だが、私たちのほうへは向かわず、村を目指して移動しているようだ。
「行かせない!」
私は天使のあとを追い、大地を蹴り上げて跳躍した。その勢いに乗せ、天使の側面を蹴りつける。
――重い。
強化によって膂力を込めた足だったが、相手の存在感はまるで山のようだった。天使はなんら痛痒を感じていない。なおも、リッカ村を目指して飛行している。
「マリアに続こう」
「はい!」
カナとリディが駆け出す。エルフリーデはまだ二の足を踏んでいるようだ。
私とカナで連携を組み、攻撃を試みる。しかし、ふたりで力を合わせて殴打しようが、天使はびくともしなかった。
「こいつ、攻撃はたいしたことないけど頑丈すぎる」
カナが拳をさすりながら顔をしかめる。
「マリアさん、これを」
リディが精製したふたつの巨大な氷の斧。その片方をカナには渡さず、私だけに渡した。カナの固有魔術は太陽の象徴たる炎。それゆえに、リディの水の魔術とは相性が悪いため、使用することができないのだ。
私とリディは同時に飛び上がり、幹から生えてきたような人間の部分を狙う。急所があるとしたらここしか考えられない。ところが、危険を察知したのか、天使は触手を操り私たちを叩き落とした。
「――くっ。やはり空中では咄嗟に方向転換できませんね」
地面に叩きつけられ、思うように行かない現状に焦りが見える。このままではリッカ村に被害が出てしまう。
「みんな、大丈夫? ……ごめんね。あたし、怖がってばっかりで」
エルフリーデが私たちに駆け寄った。出遅れたことを反省しているらしい。
「いいのよ。怖いのはしょうがないから。戦いたくなかったら、無理して戦うことない。誰も責めたりしないよ」
私が優しく慰めると、エルフリーデは暗い顔で俯いた。
「うん……怖い。怖いけど、村のみんなが殺されちゃうほうが、あたしは怖いよ。だから、あたしも戦う」
エルフリーデの周囲に空気が流れる。そよ風はやがて強風へと変貌し、彼女の身体が宙に浮いた。大気の妖精の名にふさわしいこの飛行能力は、エルフリーデの固有魔術だ。彼女は風を身にまとい、勢いよく空へ飛んだ。
「これ以上は行かせないんだから――」
天使を正面に見据え、強風を巻き起こす。下からしか攻撃できない私たちの中で、唯一、対等の条件で戦えるのがエルフリーデだ。
しかし――表面積が大きく、風の抵抗を受けやすい天使の身体だったが、侵攻の勢いは衰えない。それでも煩わしかったのか、ハエを追い払うように触手でエルフリーデを狙う。彼女は間一髪でそれを回避し、私たちのところへ舞い戻ってきた。
「ダメだった……全然効かなかったよ」
エルフリーデは肩を落とした。私たちの力では、あの頑丈な天使はとまらない。天使は私たちを無視して村を目指している。
――遠くで喧騒が聞こえる。見てみると、いつの間にか私たちは村の目前に迫っていた。村人が天使に気づき、外に出て祈りを上げているのだ。これ以上はダメだ。また、あの光景を繰り広げてしまう。
「どうして私たちに見向きもしないの?」
天使の殺意を感じたのはカナを狙った最初の攻撃だけだった。それ以降は、自衛に徹するのみで、私たちを無視し続けている。
「ひょっとしたら、私たちが不幸観測者だからかもしれません」
「どういうこと?」
「天使は不足した幸福を埋める、拮抗律の化身です。ですが、私たちは価値観の反転以降、死は不幸なものだと捉えています。天使の存在理由は人類に幸福を与えることで、その方法は死を幸福だと考える人々の殺害です。だから、私たちを狙わず村を目指すのでしょう。ただ、私たちの存在がなくなることでも、相対的に幸福は増えますから、いざとなったら私たちを殺すことに躊躇いはないはずですが……」
失念していた。天使は幸福の代行者なんだ。私たちがあいつに殺されたところで、不幸とは思っても幸福には感じない。つまり、私たち不幸観測者を標的にするのは、人類の総数がもっと少なくなって不幸が相対的に大きくなったころ、ということか。当然だが、そんな悠長に構えるつもりはない。
「こうなったら、一か八か私の魔術で倒そう」
カナが痺れを切らす。彼女の太陽の魔術は私たちにとって切り札だ。狙ってみるのも手かもしれない。
「待ってください」リディが呼び止める。「カナさんの魔術は一度使うとしばらく使えなくなります。回避されては、私たちにはもう打つ手がありません。確実に当てる方法を探しましょう」
「考えるって、いまから?」
「残された時間をすべて魔術の鍛錬につぎ込んで、戦術を練らなかったのが仇となりましたが、幸いなことにひとつだけ思いついたことがあります」
リディが自信を持って答える。――そう、いまも昔も変わらない。いつだって彼女は私たちに期待と希望を与えてくれる。
「ほんと、リディ?」
「ええ。私たちの力を合わせるだけの簡単なことです。ただ、マリアさんとエルフリーデには負担がかかってしまいますが」
私とエルフリーデは、迷うことなくうなずいて受け入れた。
「わかりました。いいですか――」
◆
――どうか私たちを天へ導いてくださいまし。
――天使様、我々にお慈悲を。
――ああ、天使様。なんと神々しい。その手で私たちを天へ還してください。
村人たちが口々に祈りの言葉を捧げる。祈りは天使へ。天使は慈悲を。
リッカ村は、異様な熱気に包まれていた。家にとどまるものなどいない。怪我人も病人も、赤子も老人も、リッカ村のすべての村民は天使を迎え入れるため表に出ている。人々は狂信的に天を仰ぎ、天使の嘲笑を天恵と受け入れる。その目に猜疑心はない。誰もが天使を幸福の使いと信じて疑わない。
それを見て、どうしても無知が悪いとは思えなかった。私たちもこの間までは、ああして天使を信仰していたからだ。誰も間違ってはいない。みんな幸福に生きたいだけなんだ。おかしいとしたら、この世界の運命だ。そんなものに、これ以上みんなを傷つけられてたまるものか。
私たちは先回りして、村で天使を迎え撃つことにした。中央広場に集まる村人たちからは離れ、天使の侵攻を遮るように立ちはだかる。
「みんな、準備はいい?」
確認を取ると、私の背中に負ぶさっているエルフリーデ以外のふたりがうなずく。
「それじゃあ、手はず通りに、リディは天使の動きをとめて。私とカナは天使の攻撃から村人を守る。手が空いたらリディに加勢しよう。天使に隙ができたら、カナ、あなたの固有魔術でしとめるのよ」
作戦は至ってシンプルだ。敵の動きを封じ、最大火力で討つ。
「みんな。私たちで、この村を守ろう」
三人は拳を合わせて意志を高めた。眠っているような状態のエルフリーデも、気持ちは私たちと同じだった。
そうこうしていると、天使がその姿を現した。悠々と飛行するその異形は、やはり戦慄を覚える悪魔だ。真の戦いはこれから始まる。もう逃がしはしない。
――飛べ!
そう念じると、風を身にまとい、身体が軽くなった。次の瞬間、私は大空へ飛翔する。高速で飛行すると、あっという間に天使を通り過ぎ、村を一望できるほどの高さまで飛んでしまっていた。慣れるまで制御は難しいが、なんとかなるだろう。戦いながら慣れるしかない。ほかのふたりも私のあとに続く。
天使を俯瞰して、様子を窺がう。まだ私たちには見向きもしない。あくまで無視をするというのなら、こっちとしても都合がいい。目に物見せてやろう。
私とカナは村人を守るため、天使の正面に移動した。
同時に、天使の触手が蠢く。村人を狙って、高速に伸長を始めた。カナはその触手の側面を蹴り、軌道をずらす。コントロールを失った触手は地面に穴を開けるだけで、誰の血も流れることはなかった。
うまくいった。カナはすでに、飛行能力を自分のものにしている。
すると、天使の形相が変わった。怒りの皺を刻み、幹の側面からワシのような大きな広翼が生える。私たちを敵と認識し、殺意を孕んだようだ。
――人々は天を仰ぎ、祈る。そして何より、畏怖する。それは大空が持つ、大地への絶対的優位性ゆえだ。その大空を象徴するのが、あの広翼の天使の翼だ。
太古の昔、母なる大地を信仰する地母神信仰が、この世界に広く分布していた。蛇を崇拝したスネークカルトも、この地母神信仰が大本となっている。しかし、母神は父性を有した天空の神を信仰する遊牧民たちにより駆逐され、天空神に取り込まれた。蛇の天敵は猛禽類を始めとする鳥類。すなわち翼を持つもの――天使である。ゆえに地母神が天空神に勝てる道理はない。地を這うものが大空へ抱く感情は、畏怖と憧憬なのだ。だが、いまの飛行能力を有した私たちは大空と対等にある。
大蛇の姿をした代弁者と、翼を有した天使。さながら、私たちは天空と大地を仲立ちした神、ヘルメスだろう。
天と地を対等にしたこの飛行能力には、もちろんからくりがある。私の精神干渉の固有魔術と、エルフリーデの大気を操る魔術を組み合わせたのだ。エルフリーデの意識を私の精神干渉で限りなく希薄にし、私たちの意識を彼女に繋げたのだ。つまり、いま彼女の精神には私たち三人分の精神が入り込んで、タイムラグのないよう、連続的に精神を同期しているということになる。
これによって、エルフリーデの精神を経由し、彼女の意思ではなく、私たちの意思で大気の魔術を扱えるようになったのだ。もちろん、エルフリーデの意思で私たちを飛ばすこともできるが、戦いの最中、指示したり目視してからでは間に合わない場面のほうが多い。反射的な飛行能力が必要なのだ。彼女の意識を奪ったのは、母体であるエルフリーデの意識があると、私たちの精神が混線するからである。悪い言い方だが、彼女の意識を奪い、機械のように私たちが酷使していると言ってもいい。
私の背中に負ぶさっている理由は、リディとカナには別の役割があるからだ。私の精神干渉とエルフリーデの大気の魔術の効果範囲に鑑みれば、わざわざ背中に負ぶさる必要もなく、安全なところで寝かせていればいいのだが、「一番安心できるのはマリアちゃんの背中だよ」と言われては、無下に断ることもできない。
精神干渉などと、戦闘では役に立たない魔術だと己を恨みもしたが、こんな使い方があるとは目から鱗である。しかし、これにも大きなリスクが伴う。
「――――あっ!」
しばらく攻防を繰り広げていると、天使の触手がカナに命中した。
「カナ、大丈夫?」
「うん、頭にかすっただけ」
カナの額から血が流れる。すると、エルフリーデの頭からも血が流れ始めた。精神が繋がった代償だ。私たち三人の負傷は、そのままエルフリーデに同期されるのだ。誰かの死は、彼女の死に直結する。それはまさしく一心同体。私たちは力をひとつにして、天使と戦うことを決めたのだ。
「リディ!」
「心得ました」
リディが水の魔術を行使する。彼女の背後の空間に精製される無数の武器。展開された一つひとつが、洗練された人類の武器だ。その姿はまるで、大空に巨大な氷の翼を広げた本物の天使のようだった。
「ご覧に入れるのは、有史以前より人類が生み出し続けた破壊の結晶。あなたに、このすべてが受けられますか?」
武器を手に取り、天使へ突進する。自由自在に空中を飛び回り、迎撃しようとする天使の触手を回避しながら攻撃を開始した。硬い樹皮に刃こぼれが生じれば、それを捨て、新たな武器を手に攻撃を再開する。そのすべてが超重量級の武器だ。鈍い音が響き渡る。いくつもの氷の武器が砕け散り、その数だけ天使の樹皮に傷が入る。十、二十、三十――。間隙を与えない連続攻撃に、天使は初めて後退の姿勢を見せた。
「まだ百年分ほどの武器しか使っていませんよ。もう音を上げますか。――あまり、人類を舐めないでください」
リディが冷徹に微笑む。
「マリアさん、これを!」
リディが新たに精製したのは、罪人を拘束する不浄者の鎖。それで衰えた天使に縛りつけ、片端を私に投げ渡した。私はそれを受け取り、リディとふたりで力の限り引き、天使の身動きを封じる。
――熱い。リディは、カナの魔術を少しでも効果的に発揮できるよう、高温の氷で鎖を精製したのだ。
天使が抜け出そうともがく。信じられないほどの力に、私とリディは徐々に引きずられていく。鎖が軋み、悲鳴を上げる。この氷の鎖も私たちも、そう長くは持ちそうにない。
「カナ、お願い! こいつを、こいつを倒して!」
「任せて!」
カナはいつの間にか地上に降りていた。空中では支えが効かないからだ。エルフリーデの翼でも踏ん張れないだろう。片膝を地面につき、左手で右腕を握る。右腕の照準を左手で微調整し、狙いを天使に定める。右腕は大砲の砲身だ。
カナの魔力炉が活性化し、魔力が全身を巡る。彼女を中心に地面へ放射状にルーンが刻印され、右手首には円状にルーンの魔方陣が浮かび上がった。ルーンは青白い光を放ち、猛々しい魔力の波動が脈動するように駆け巡っている。
右手首のルーンを圧縮した魔方陣が、手首から肩にかけて三つに増える。三重の魔方陣は右、左、右とそれぞれ向きを違えて徐々に回転し始める。その回転音は切り裂くように大気を震わしていた。三重の魔方陣はより高速に回転し、より高音に音階を上げる。この回転する魔方陣こそ、太陽の魔術の要。魔力を炎の熱エネルギーに変換するこの魔方陣は、さながら上下運動を回転運動へ変換するエンジンそのものだ。
さらに、カナの膨大な魔力はその肉体だけにとどまらず、魔力伝導体であるルーン文字を放射状に、地面へ次々と展開することで無駄な魔力の発散・消耗を抑えていた。生成される魔力の渦。それは結果的に、私たちの魔術を遥かに凌ぐ大魔術となる。
――カナの魔力炉は異常だ。
この膨大な魔力の秘密は、彼女の魔力炉の異常な性質にある。三枚の鏡を正三角形に組み合わせた、さながら万華鏡のような魔力炉だ。通常の魔力であれば、なんの変化もなく万華鏡の魔力炉を通り抜け、身体に流れる魔力も高が知れている。だが、魔力炉で無色の力を魔力へ変化させる際、魔力に光の性質を付加することで、その異質な魔力炉の効果が絶大に発揮される。万華鏡の魔力炉にくべられた光の魔力は、鏡と鏡を反射し続け、無尽蔵に光の魔力が増幅するのだ。
虚像の魔力は新たな虚像の魔力を生み、万華鏡に無限の魔力の花びらが開花する。しかし、そのあまりに膨大な魔力は、魔力伝導体である肉体と魔法衣、そして魔力炉そのものを焼け焦がすことになる。代償として、焼け焦げたそれらが回復するまで使用はできなくなるが、生まれる魔力は甚大だ。
大地に刻印されたルーンの印章と、右腕の三重の魔方陣が青から真紅へ光の色を変貌させる。カナの周りの草花が灰燼と帰す。地面は熱され、白煙を上げていた。ともすれば自身の肉体さえも破壊しかねない魔力の奔流。彼女は荒れ狂う魔力を全力で抑えとどめていた。いままでの鍛錬でも、これほどの魔力を蓄積したことはない。
(中途半端にやって失敗なんかできない)
カナの思考が精神干渉で私に流れる。
(みんな命がけで戦ってるんだ。失敗するぐらいなら、この魂ごと燃やしてみせる!)
カナの姿が陽炎に歪む。高速に回転していた魔方陣が急に動きをとめた。
――煌く一閃。圧縮された高温の魔力の炎が発射された。熱膨張した空気が突風を巻き起こす。耳をつんざく炎の噴出音。目の前には巨大な火柱がそびえていた。それはまさしく、太陽の紅炎である。
火柱は一直線に天使に命中した。高温に精製した氷の鎖は、気遣い無用とばかりに瞬時に蒸発し、引いていた鎖が軽くなる。
――――キイイイィィィィ!
天使の金切り声の断末魔が響く。破壊力は申し分ない。だが、あの火柱に包まれてなお、燃え尽きることなく生きているのだ。
「嘘でしょう?」
カナの大魔術で倒せなければ、私たちに勝てる術はない。間違いなくダメージは与えているが、負傷した天使にとどめをさせる力が私たちにあるのだろうか。焦りと絶望が、思い出したようににじり寄る。私たちの敗北は、リッカ村の人たちの死に直結する。
不安に駆られていると、それを吹き飛ばすようにカナが哄笑した。
「まったく、生木は燃えにくいねぇ。でも安心して、みんな。こんなの、ちょっと魔力を抑えきれずに溢れ出したとろ火さ」
そう言うと、燃え盛る火柱が一旦おさまる。次の瞬間、地面のルーンはカナに吸い寄せられるように消える。そして再び回転し始めた腕の魔方陣は四つ、五つとその数を増やし、以前にも増して回転速度を上げた。作り出された膨大な魔力が彼女の中に戻り、より高温のエネルギーを生み出しているのだ。
突き出した右手の先の中空に新たな魔方陣が展開される。怪物が大口を開けたような、巨大な魔方陣。あれは標的以外に炎が飛び散らないようにする砲口だ。蓄積されたエネルギーに、味方ながら怖気が走る。これより始まるのは、神殺しだ。
天使よ、刮目せよ。我らは天に仇なす最新にして最後の魔法使い、地上にもがく人類の末裔だ。太陽の妖精はその研ぎ澄まされた刃を抜いた。体現するは地上の恒星――。
「――――行け!」
カナがかけ声を上げた瞬間、爆発した、としか思えなかった。大気が衝撃波を起こし、周囲の木々がなぎ倒される。カナを中心に、大地が焦土と化す。圧縮された魔力、圧縮された光。長く続いた魔術の歴史の中でも、最高峰の破壊力を持った大魔術が発動する。すすけた万華鏡の魔力炉はその花々を枯らしていた。しかし、生産された魔力量はあまりに過剰だ。魔力絶縁体など関係ない。肉体の隅々まで光の魔力は駆け巡る。カナの全身が青白く発光し、その熱が離れた私たちの元まで届いた。
すべての魔力が手のひらに集中し、魔方陣に注がれる。魔方陣から射出された太陽の魔術は、先ほどの荒々しい炎ではなく、研ぎ澄まされた鋭利な光の槍だった。熱風が吹き荒れ、大気までをも焦がす。直線に、高速に、光の槍は天使を貫くべく天を目指した。
すでに死に体である天使に避ける余力はない。すべてを気化する清浄な炎を防ぐ術はない。破滅を悟った天使が、最期に慈愛に満ちた笑みを浮かべる。その笑顔は、絶対的な善性を持った天使の、人類を優しく包み込むような笑顔だった。
「はん。何よ、いまさら。さっさと元の場所へ還って、幸せの押しつけはごめんだって神様に伝えてきな」
硬い樹皮が一瞬に蒸発し、天使の微笑は消え失せた。神話のように光に包まれた天使は、慟哭も許されず消滅する。光は天蓋を穿孔し、雲を吹き飛ばした。天使の姿は塵すら残っていない。亡骸さえ残っておらず、文字通り跡形もなく消えてしまったので、果たして倒せたのか実感が持てないでいた。
「……倒した、の?」
信じられない光景を目の当たりにして、私の思考はしばらく停止していた。
「ええ。私たちの……勝利です」
リディが私の手を握った。そのたしかな温もりが全身に染み渡る。私たちは天使に打ち勝ったのだ。
「カナ!」
カナの元へ駆け寄る。彼女は黒く焦げた地面の中心に横臥していた。
「あー、いま私に触らないほうがいいよ。身体がめちゃくちゃ熱くなってるから。つーか私、ちゃんと服着てる?」
カナは心身ともに疲れ果ててつぶやいた。耐久力の強化のおかげで、肉体と魔法衣は崩壊せずにすんだようだ。
「そんなの関係ないよ」
熱さを我慢するより、この喜びを触れて分かち合えないほうが我慢できない。私とリディは力いっぱいカナを抱きしめた。たしかに驚くほど熱いけれど、いまはずっとこうしていたかった。
「エルフリーデ、起きて。私たち勝ったんだよ」
「ふぇ?」
眠りから覚めたエルフリーデが、寝ぼけた調子で目をこする。そんな彼女を見て、私たちはまた笑い合った。
「うん。ちゃんとみんなと一緒に見てたよ。みんなすごくてびっくりしちゃった」
「あなたもすごかったですよ。あんなに自在に空を飛ばせてくれて。でも、ごめんなさい。無傷とはいきませんでした」
リディは精神干渉の副作用で傷ついたエルフリーデの血を優しく拭った。カナとの精神回線は大魔術を使う前に切っておいたので、エルフリーデはカナほど身体にダメージは蓄積していないようだ。
「これぐらい、へっちゃらだよ」
エルフリーデは気丈に振る舞った。こんなに心から笑ったのは、いつ以来だろう。代弁者から話を聞かされて、ずっと私たちは悲しみ、嘆き、そして何より恐ろしかった。でも、私たちの力は天使に通用する。天使が何人いようが、この頼れる仲間たちがいればなんてことない。この不条理を、私たちは乗り越えられるのだ。
――しかし、不安がひとつ減ると、すぐに新たな不安が生まれるもの。私たちはリッカ村を守ろうとがむしゃらで、大事なことを失念していた。
「これは……いったいどういうことなんだ?」
私たちが喜びに打ちひしがれていると、村人たちがやってきた。私たちが戦っている様子を離れたところで見ていたのだ。
「マリア、君はいま何をしていたんだ?」
父親が困惑した表情で私に質問する。リッカ村を天使から守っていたのだと、そう説明したところで、果たして理解は得られるのだろうか。
戦いという概念も罪という意識も、怒りも恐怖もない。天使を倒したことを糾弾することもできず、父親はただただ狼狽するしかできないでいる。
「お父さん、これは……」
何も言葉が見つからない。どう説明すればいいのか、どう説得すればいいのか。何を言っても、きっと理解はされないだろう。
「まさか、天使様を天へお還ししたのか?」
私が言いよどんでいると、村長が動揺しながら発言した。
「――え?」
言葉の意味が、最初はわからなかった。ほかの村人も理解が追いついていない。
――天使様を天へ? どうしてだ?
――あの子たち、空を飛んでいたぞ。
――ああ、天使様のお姿が消えてしまったわ。
村人たちは口々に疑問を漏らす。
「村長、いったい何が起こったのでしょうか?」
両親が村長に教えを乞う。
「天使様を天へ、つまり君たちは――あなた方は女神様なのでしょう?」
あまりに神聖なものを見たように感涙し、村長は膝をついた。表情は恍惚とし、目の前の奇跡を称えているようだ。同じ人間から崇拝されることが、こんなにも居心地の悪いものだとは知らなかった。私は、誰かに崇拝されるような、そんなものになどなりたくない。
「そんな、違うわ」
否定の言葉は誰にも届かない。村長は理解の及ばない事実を、理解の範疇である虚構へ歪曲させたのだ。
村人たちは、次々に私たちを崇めるべく膝をつく。私の両親までもが、私に祈りを捧げ始めた。これまでずっと私を愛し、育ててくれたふたりだ。それなのに……。
――女神様? ――女神様。――女神様。
村人たちの祈りが少しずつ重なる。彼らの瞳に涙が浮かぶ。戦いという未知なる真実は、奇蹟の所業としてたやすく歪められた。無垢な村人は私たちを女神として受けとめ、感極まり、涙を流している。
「やめて……お願い、やめて」
――女神様、どうか私たちに幸福を。
――天へお導きください。
――ああ、お恵みを、私たちにお慈悲を。
祈りはやがて、熱を帯びた喝采に。村人たちは手を合わせ、すがるように私たちを見上げた。神を信じて疑わないその瞳には、私たちの姿が映っている。
――女神様。
――女神様。
――女神様。
私たちが勝ち得たものは、いったいなんなのだろう。
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