中年おっさんサラリーマン、異世界の魔法には賢者の石搭載万能パワードスーツが最強でした ~清楚幼女や錬金術女子高生と家族生活~

ひなの ねね

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第十四話 灰色だった俺と極彩色の魔女の休息

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 二人の受付のお姉さんにもみくちゃに撫でられたシエルを回収し、紙に書いてある行商人ギルドへ向かった。



 行商人ギルドはハローワークからほど近い建物だった。それなりに大きな木造平屋と馬車が出入りしてる大きな倉庫がある。



 俺はこの姿を見て、工場から食料を運び出していくトラック運転手を想像を思い出した。



 子供連れで不審がられながらも、ギルドをまとめているギルド長に顔を出した。ギルド長は人の良さそうなおじさんで、その場で軽く筆記試験を受け、小学生レベルの割り算くらいまでの問題を解いて、筆記試験は合格した。



「へえ、そうじろうって頭いいんだね」



「このくらい楽勝さ。良かったら教えるぜ?」



 シエロに褒められて少しばかり気をよくした俺だ。これからの時代、シエロも算数くらいはできた方が良いだろう。



「いい、別に。そうじろういるし」



「俺に全部計算させる気かよ……」



 面倒くさがりめ。大人になって苦労しても知らんぞ。



 次に実技試験に通される。



 行商人の実技試験は実に簡単だ。馬車で隣村まで商品を輸送して、金を受け取って帰ってくる。ただそれだけだった。



 その後は行商人ギルドへの加入の証として、行商売買許可証をもらって完了。あとは好きに旅に出て売買を行ってくれという。



 戦闘職ならば『転職の儀』のようなものがあるらしいのだが、戦わない者たちにそういった類のものはないらしい。



 俺とシエロはテスト用の馬車を受け取り、食品を詰めた馬車がのんびりと街道を走りだした。



 荷馬車は初めてだが乗り心地は悪くない。引っ張る馬は一頭。たてがみを揺らしながらのんびりと歩く。



「たまにはこういうのも悪くないな」



 空は青く雲一つない。



 大都会とは違い遮るものが何もないので空は限りなく広い。種類の分からない鳥が群れを成して飛んでいる。左右は何処までも広がる草原で風は春のように暖かい。



 ホロの中にいるシエロも御者席に出てきて俺の隣に並ぶ。



「気持ちいいの」



 柔らかな風がシエロの白髪を揺らす。



「帽子飛ばすなよ」



「うん、抱いてる」



 いそいそと魔女の帽子を外して、胸にぎゅと抱きしめた。



 アトラの小型人工衛星からの情報では、次の村までは丸一日かかる。このテストでは必ず何処かで一晩を過ごすことが前提になっているらしい。行商に適性があるか見るのだから、一晩くらいは当たり前なのかもしれない。



 先はまだ長いが俺とシエロは二人で馬車に揺られながら珍しく無言で過ごした。



 居心地のいい無言だった。誰かといて話題に悩まなくていいのは気軽だ。



 鳥のさえずり、草木の音色。花の香。そのどれもは子供の頃に当たり前に感じていたものだとふと思い出す。大人になるとどれも感じることはない。



 きっと毎日思考で頭の中がぐちゃぐちゃだったのだろう。それとも何も考えることができないほど思考が弱っていたかのどちらかだ。



 子供の頃には戻れない。もう三五歳。異世界に来てもやっぱり子供のように自由には振舞えない。だが現実世界のように空気を読み過ぎて生きる必要もない。



 シエロの魔術をなくすという旅についていくのも結構悪くない人生だ。こいつ一人じゃ危なっかしいし、シエロの楽しそうな姿を見ていると心が鷲掴みになるような気持ちになる。



 リズム感のある馬の足音を耳に入れながら、シエロの横顔を盗み見ると、柔らかな瞳で自然の風や日向を全身で感じ取っているようだった。日向にいる猫みたいだ。



「なあ、シエロ。お前はあの館でずっと生きてたのか?」



 なんとなく思ったことをシエロに聞く。あんな深い森の中で一人で住んでいたのならば、物凄い悲しいことだ。上空から見たときは街の光が全くなかったし。



「うん、生まれてから、ずっといたよ」



「両親もいたのか?」



「見たことない。でもシエロには姉さんが三人いたから寂しくなかったよ」



「そうか」



 極彩色の魔女の役割はよく分からないが、人里から離れて隠れて住む必要がるのだろう。



「でも姉さんたちも、みんな捕まっちゃって、今はこの世界のどこかで魔術装置にされてるんだって、姉さんが最後に飛ばした伝言が言ってた」



 魔術装置、それは俺が初めて会った聖剣使いの黄金甲冑の話にも出たやつだ。なんでも極彩色の魔女を魔術の動力源にするとか。そのやり方は人には言えないほどエグイ括り付け方だと言っていた。



「シエロは姉さんたちも助けたい。でも連れて行った奴らはきっと魔術を武器として使う。姉さんたちも極彩色の魔女だから、無尽蔵に魔力は生成されるの。だからせめて魔術の元を減らすにはグロウスを全て狩れば、致命的なレベルの魔術は行使できないってシエロは考えたの。それなら姉さんの魔術にだけ対抗する力があればいいの」



 悲しそうにではなく、淡々と事実を語っているようだった。



 俺には逆にその決意の固さが悲しそうに見える。



「世界中に極彩色の魔女は沢山いるの。太古の昔に魔術が存在していた時代から知識を受け継いだ血族たち。でも魔術を消せるのはシエロだけ。シエロは極彩色の魔女の中でも、唯一魔力に関するものを消し去る——鎮魂を司る《極彩色の白魔女》。世界を元の白に戻せる唯一の存在なの」



「お前、そんなにすごかったのかよ」



「本当は姉さんの誰かが正式に継ぐはずだったんだけど——シエロしかいなくなっちゃったから。姉さんたちを助けるのもあるけど、魔術で世界が壊れていくのもイヤなの。グロウスの鳴き声も可哀想なの」



「そうか、がんばったな」



 こいつは姉の代わりに白魔女としての役割を背負い、魔術で世界の均衡が崩れないように大本となる力を消し去ろうと一人で背負い込んでいたのだろう。



「うん、シエロ、がんばってる」



「ああ、がんばってる」



「そういえば、そうじろうはなんであそこにいたの? 聖剣達の仲間だったの?」



 そういえばシエロには事情も何も話していなかったな。シエロには話してもいいだろうと思い、俺は現実世界からこの異世界に来た経緯を話した。質問の中にはアトラスや独り言の理由も聞かれ、現代でも見たことがない特殊な鎧みたいなものだと説明する。その鎧にはお化けみたいなやつがいて、話すんだとも。



「へえ、現代ってところは科学が発展してるんだね。お化けも扱えるなんてすごいんだよ」



 正確にはお化けではないが、分かりやすいからそれでいいだろう。



「じゃあそうじろうは、何の目的もないの?」



「ん、ああ、まあ、そうだな」



 現実に帰りたいと切望しているわけでもないし、アトラスを使って異世界で困っている人を次々救ってヒーローになるでもない。逆に破壊の限りを尽くすわけでもない。



 俺が俺として何者かになるために、俺は異世界に来たんだろうなあとは思う。その結果シエロを守っていくのが一番俺らしく生きている気がするなとここ最近は思っていた。



 生きる目的ができたというか。誰かのために生きることを知ったというか。具体的に説明するのが難しい。毎日仕事の事ばかりや、過去や未来に悩むだけだったのに、他人のために生きるのが楽しいだなんて、なんか不思議な気持ちだ。



 今はシエロの手伝いが目的かな。



 と言おうとしたが、さすがに恥ずかしいのでやめた。



 危ない危ない、のんびりした気候で二人でゆったりしてると気が抜けて妙な事を言ってしまいそうだ。



「シエロは外、楽しいか、初めてなんだろ?」



「楽しい。こんなにも広い空があるなんて知らなかったの。森はずっと暗かったし、こんなに綺麗な空は初めて」



 折れたとシエロは空を眺めながら、のんびりと街道を走り、たまにすれ違う馬車にシエロが手を振ると御者は手を振り返してくれた。



 腹が減ったら行商人ギルドが与えてくれた行商費で買ったハムを挟んだサンドイッチを二人で食べた。



「もしかして、行商人も悪くないかもな」



 前衛で危険な獣やグロウスと戦うこともなく、戦いに巻き込まれることも少ない。こんなにのんびりしたのは何年ぶりだろうか。大学生以来じゃなかろうか。



「よし、日も暮れてきたし今日はこの辺で野宿にしよう」



「やった、のじゅくだのじゅくー!」



 長旅の疲れもなくシエロは元気よく馬車から飛び降りた。俺も開けた場所で火を起こして、寝る場所は馬車の中だな、なんて考えて馬車の中に顔を突っ込んだ時、積み荷を積んだ時にはいなかったものがそこにはいた。



 積み荷の一つの、布にぐるぐる巻きにされた長細い棒に抱き着いたまま、寝息を立てる少女の姿があった。





 第十四話 灰色だった俺と極彩色の魔女の休息
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