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第一章 知らない世界
第一話『ケモノは知らない』
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……鼻に馴染まない匂いがした。
ケモノは薄く目を開ける。
頭上には木々が広がっていた。月明かりは枝葉の隙間から差し込み、地面をまだらに照らしている。
見慣れたはずの森――けれど、違う。
「……ウ?」
思わず小さく鳴く。
鼻を鳴らし、風を嗅ぐ。
湿った土の匂い、樹液の甘さ、夜露をまとった草の香り。どれも似ている。けれど微かに、知らない匂いが混じっていた。
ケモノは四足に体を落とし、影を叩いてみせた。
自らの影が揺らぎ、伸び、森の闇に溶ける――だが応える気配はない。
いつもなら聞こえるはずの鳥や獣の声すら、ここにはない。
「……グルル……」
警戒の声を洩らす。
骨のお面の奥、左目が月のように僅かに光る。
森は静かすぎた。
立ち上がり、ゆっくりと歩く。
踏みしめる土の感触が違う。木々の幹も、葉の形も、知っている森のものとは微妙に異なっていた。
それに――月。
見上げた空に浮かぶそれは、確かに月だった。
だが、彼の知る月ではない。
不自然なほど大きく、明るく、夜空に浮かんでいる。
「……ココ……ちがう……モリ……」
不器用な言葉が零れた。
ここは彼の知る世界ではない。
ケモノはまだ知らなかった――この場所が“幻想郷”と呼ばれることを。
そしてここで、自らが数多の妖怪と人間の間に生きることになることを。
その始まりに気付くこともなく、ケモノは森の奥へと足を踏み入れていった。
特に何かを考える訳でもなく生きる為に、歩みを進める
ケモノは薄く目を開ける。
頭上には木々が広がっていた。月明かりは枝葉の隙間から差し込み、地面をまだらに照らしている。
見慣れたはずの森――けれど、違う。
「……ウ?」
思わず小さく鳴く。
鼻を鳴らし、風を嗅ぐ。
湿った土の匂い、樹液の甘さ、夜露をまとった草の香り。どれも似ている。けれど微かに、知らない匂いが混じっていた。
ケモノは四足に体を落とし、影を叩いてみせた。
自らの影が揺らぎ、伸び、森の闇に溶ける――だが応える気配はない。
いつもなら聞こえるはずの鳥や獣の声すら、ここにはない。
「……グルル……」
警戒の声を洩らす。
骨のお面の奥、左目が月のように僅かに光る。
森は静かすぎた。
立ち上がり、ゆっくりと歩く。
踏みしめる土の感触が違う。木々の幹も、葉の形も、知っている森のものとは微妙に異なっていた。
それに――月。
見上げた空に浮かぶそれは、確かに月だった。
だが、彼の知る月ではない。
不自然なほど大きく、明るく、夜空に浮かんでいる。
「……ココ……ちがう……モリ……」
不器用な言葉が零れた。
ここは彼の知る世界ではない。
ケモノはまだ知らなかった――この場所が“幻想郷”と呼ばれることを。
そしてここで、自らが数多の妖怪と人間の間に生きることになることを。
その始まりに気付くこともなく、ケモノは森の奥へと足を踏み入れていった。
特に何かを考える訳でもなく生きる為に、歩みを進める
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