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第一章 知らない世界
第二話「ケモノの噂と獣の噂」
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その夜から数日。
森に異変を感じる者が、幻想郷には少しずつ増えていた。
最初にそれを口にしたのは、竹林を抜けて薬草を摘みに出た村人だった。
「……夜中に、森で人のような、獣のような影を見た」
息を荒げながらそう語った彼は、怯えた様子で酒をあおり続けた。
別の日には、畑仕事を終えた農夫がこう言った。
「飼ってた家畜がやられた。牙に食い破られて……骨しか残ってねえ」
そして、森に近い村の子供たちが囁く。
「夜になると、獣の遠吠えが聞こえるんだ」
「人の言葉みたいに聞こえた」
――それはただの怪談だったのかもしれない。
だが、繰り返し語られるうちに、次第に「噂」へと形を変えていった。
「人型の獣が森を徘徊している」
「家畜を食い荒らす怪物がいる」
「いずれ人里に降りてくるかもしれない」
里の大人たちは不安を隠すように笑い飛ばしながらも、夜に戸を固く閉ざすようになった。
子供たちは恐怖と興味を入り混ぜ、秘密めいた遊び話のようにその名を口にする。
――「ケモノ」と。
その噂が博麗神社に届くのは、そう時間のかかることではなかった。
「……ふぅん、人型の獣ねえ」
縁側に座って湯呑みを手にする博麗霊夢は、面倒そうに呟いた。
いつものことだ。幻想郷では、妖怪が増えたり減ったり、得体の知れない存在が現れたりするのは日常茶飯事。
「放っとけば、そのうち消えるんじゃないの?」
霊夢はそう言って、残りの茶を飲み干した。
だが、縁側の反対側に腰を下ろしていた白黒の魔法使い――霧雨魔理沙は違った。
「いやいや、放っといていいのか? 家畜を食ったとか、人里に来るかもしれないって話だぜ。
それに……“人型の獣”って、ちょっと気になるじゃないか」
魔理沙の瞳が、好奇心に輝いていた。
未知の存在――それは彼女にとって何よりの宝物だった。
「どうせ霊夢は行かないだろ? ならアタシが行ってみるさ」
「勝手にしなさい。ただし問題が起きたら、結局こっちに回ってくるんだから」
霊夢は肩を竦める。けれどその表情は、どこか僅かに引っかかるものを覚えているようにも見えた。
一方その頃。
森の奥では、骨のお面を付けた影がひっそりと動いていた。
ケモノは相変わらず、風と影と月光を友としながら、ただ森を歩き、獣を狩り、孤独を生きていた。
だが彼はまだ知らない。
自分がすでに“噂”として形を持ち、人々の想像の中で膨らみ始めていることを。
そして、その噂が“博麗の巫女”と“白黒魔法使い”を動かすほどの重みを帯びつつあることを。
――「ケモノ」の存在は、幻想郷に確かに刻まれ始めていた。
森に異変を感じる者が、幻想郷には少しずつ増えていた。
最初にそれを口にしたのは、竹林を抜けて薬草を摘みに出た村人だった。
「……夜中に、森で人のような、獣のような影を見た」
息を荒げながらそう語った彼は、怯えた様子で酒をあおり続けた。
別の日には、畑仕事を終えた農夫がこう言った。
「飼ってた家畜がやられた。牙に食い破られて……骨しか残ってねえ」
そして、森に近い村の子供たちが囁く。
「夜になると、獣の遠吠えが聞こえるんだ」
「人の言葉みたいに聞こえた」
――それはただの怪談だったのかもしれない。
だが、繰り返し語られるうちに、次第に「噂」へと形を変えていった。
「人型の獣が森を徘徊している」
「家畜を食い荒らす怪物がいる」
「いずれ人里に降りてくるかもしれない」
里の大人たちは不安を隠すように笑い飛ばしながらも、夜に戸を固く閉ざすようになった。
子供たちは恐怖と興味を入り混ぜ、秘密めいた遊び話のようにその名を口にする。
――「ケモノ」と。
その噂が博麗神社に届くのは、そう時間のかかることではなかった。
「……ふぅん、人型の獣ねえ」
縁側に座って湯呑みを手にする博麗霊夢は、面倒そうに呟いた。
いつものことだ。幻想郷では、妖怪が増えたり減ったり、得体の知れない存在が現れたりするのは日常茶飯事。
「放っとけば、そのうち消えるんじゃないの?」
霊夢はそう言って、残りの茶を飲み干した。
だが、縁側の反対側に腰を下ろしていた白黒の魔法使い――霧雨魔理沙は違った。
「いやいや、放っといていいのか? 家畜を食ったとか、人里に来るかもしれないって話だぜ。
それに……“人型の獣”って、ちょっと気になるじゃないか」
魔理沙の瞳が、好奇心に輝いていた。
未知の存在――それは彼女にとって何よりの宝物だった。
「どうせ霊夢は行かないだろ? ならアタシが行ってみるさ」
「勝手にしなさい。ただし問題が起きたら、結局こっちに回ってくるんだから」
霊夢は肩を竦める。けれどその表情は、どこか僅かに引っかかるものを覚えているようにも見えた。
一方その頃。
森の奥では、骨のお面を付けた影がひっそりと動いていた。
ケモノは相変わらず、風と影と月光を友としながら、ただ森を歩き、獣を狩り、孤独を生きていた。
だが彼はまだ知らない。
自分がすでに“噂”として形を持ち、人々の想像の中で膨らみ始めていることを。
そして、その噂が“博麗の巫女”と“白黒魔法使い”を動かすほどの重みを帯びつつあることを。
――「ケモノ」の存在は、幻想郷に確かに刻まれ始めていた。
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