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第一章 知らない世界
第七話「ケモノは人間」
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幽香の館に漂う空気は、相変わらず花の香りで満ちていた。けれども、その一角で膝を抱える存在は、まるで異質だった。
フードを目深に被り、骨のような仮面をかぶったその者――「ケモノ」。
彼は人間でありながら、獣のように育ち、理性よりも本能で生きてきた。
言葉を問われても、返せるのはただひとつ。
「……ケモノ」
掠れた声でそう繰り返すたび、霊夢も魔理沙も、そして幽香も一瞬だけ表情を曇らせる。
⸻
「さっきの飛び掛かり……あれは完全に敵と判断してたな」
耳を抑えながら、魔理沙が苦笑する。まだ鼓膜に残る響きが痛むようで、少し顔をしかめた。
「まぁ、獣に近い生き方をしてきたんだろうな」
霊夢は腕を組み、ケモノをじっと見据える。
「けど……人間よ。匂いも血も、私たちと同じ。違うのは“育ち”だけ」
幽香は口元に指を当て、くすりと笑う。
「だからこそ面白いわ。人間なのに、人間ではない……そういう子は、私にとって退屈しない玩具よ」
その言葉に、ケモノは小さく震え、再び隅で縮こまる。
彼の耳は敏感だ。幽香の声音に込められた力を、獣の本能で感じ取っていた。
⸻
霊夢はふぅと息を吐き、ケモノの前にしゃがむ。
「なぁ、あんた……名前は?」
ケモノは、ぽつりと口を開いた。
「……ケモノ」
「ちがうちがう!」魔理沙が声を荒げる。「名前だよ、名前! “ケモノ”じゃなくてさ!」
しかし、ケモノは首をかしげると、再び同じ言葉を繰り返した。
「ケモノ」
――それしか知らない。
それが彼のすべてだった。
霊夢と魔理沙は言葉を失う。幽香だけが楽しそうに肩を揺らした。
「いいじゃない。ケモノで。彼はそれ以上を知らないんだから」
⸻
紅茶のカップが再びテーブルに置かれる。
幽香はすっと手を差し出すと、ケモノに持ち方を教えようとした。
けれど、彼は指でツンツンと触れるばかりで、結局は器を舌で舐めて飲もうとする。
「ふふ……やっぱりね」
幽香はその頭を撫でながら、小さく囁いた。
「あなたに物の使い方を教えないとね」
その声は優しくも冷たく、甘くも残酷だった。
ケモノは人間だ。
けれど、人間としての“生き方”を知らない。
だからこそ、彼は――
人間にとっても、そして獣にとっても、“異質”なのだ。
⸻
霊夢は静かに息をつき、幽香に問いかけた。
「……で、どうするつもりなの? その子を」
幽香は微笑み、花のように美しく残酷な瞳を向けた。
「決まっているでしょう? この子に“世界”を教えてあげるのよ」
その言葉を聞いて、ケモノは小さく呟いた。
「……ケモノ」
それは名乗りか、それとも悲しみの響きか。
誰にも分からないまま、夜は静かに更けていった。
フードを目深に被り、骨のような仮面をかぶったその者――「ケモノ」。
彼は人間でありながら、獣のように育ち、理性よりも本能で生きてきた。
言葉を問われても、返せるのはただひとつ。
「……ケモノ」
掠れた声でそう繰り返すたび、霊夢も魔理沙も、そして幽香も一瞬だけ表情を曇らせる。
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「さっきの飛び掛かり……あれは完全に敵と判断してたな」
耳を抑えながら、魔理沙が苦笑する。まだ鼓膜に残る響きが痛むようで、少し顔をしかめた。
「まぁ、獣に近い生き方をしてきたんだろうな」
霊夢は腕を組み、ケモノをじっと見据える。
「けど……人間よ。匂いも血も、私たちと同じ。違うのは“育ち”だけ」
幽香は口元に指を当て、くすりと笑う。
「だからこそ面白いわ。人間なのに、人間ではない……そういう子は、私にとって退屈しない玩具よ」
その言葉に、ケモノは小さく震え、再び隅で縮こまる。
彼の耳は敏感だ。幽香の声音に込められた力を、獣の本能で感じ取っていた。
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霊夢はふぅと息を吐き、ケモノの前にしゃがむ。
「なぁ、あんた……名前は?」
ケモノは、ぽつりと口を開いた。
「……ケモノ」
「ちがうちがう!」魔理沙が声を荒げる。「名前だよ、名前! “ケモノ”じゃなくてさ!」
しかし、ケモノは首をかしげると、再び同じ言葉を繰り返した。
「ケモノ」
――それしか知らない。
それが彼のすべてだった。
霊夢と魔理沙は言葉を失う。幽香だけが楽しそうに肩を揺らした。
「いいじゃない。ケモノで。彼はそれ以上を知らないんだから」
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紅茶のカップが再びテーブルに置かれる。
幽香はすっと手を差し出すと、ケモノに持ち方を教えようとした。
けれど、彼は指でツンツンと触れるばかりで、結局は器を舌で舐めて飲もうとする。
「ふふ……やっぱりね」
幽香はその頭を撫でながら、小さく囁いた。
「あなたに物の使い方を教えないとね」
その声は優しくも冷たく、甘くも残酷だった。
ケモノは人間だ。
けれど、人間としての“生き方”を知らない。
だからこそ、彼は――
人間にとっても、そして獣にとっても、“異質”なのだ。
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霊夢は静かに息をつき、幽香に問いかけた。
「……で、どうするつもりなの? その子を」
幽香は微笑み、花のように美しく残酷な瞳を向けた。
「決まっているでしょう? この子に“世界”を教えてあげるのよ」
その言葉を聞いて、ケモノは小さく呟いた。
「……ケモノ」
それは名乗りか、それとも悲しみの響きか。
誰にも分からないまま、夜は静かに更けていった。
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