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第二章
主人公って強いよね。
しおりを挟む「急ぐぞっ!柚」
「え、ちょっと待ちなさいよ!」
俺と柚は、子供達が楽しんでいるアトラクションの横をフル無視で駆けていく。
目指すはライトニングコースター。
(畜生…思い違いであってくれ…!)
「ちょ、ちょっと!どこに行くつもりなのよ!」
柚はイマイチ要領を掴めないようで不安な表情で追いかけてくる。
「さっき、ライトニングコースターの近くに、微弱だが魔力みたいなモノを感じたんだ!」
「魔力…!?そんな事ありえるの…?」
柚は、俺の話を聞くと眉をひそめる。
(あぁ、この都市に魔力の反応があるなんて絶対におかしい。一体何が起こってんだ…!?)
と、遠くから銃声が鳴った、音的に一発。
(…っこの音は!?)
「これ、銃声…」
「発砲しやがった…!」
俺と柚の顔から余裕がなくなる。
俺達は一層スピードを上げて走る。だが、そんな二人を阻むように非難する人がひしめき合って上手く進めない。
(コレは本気でまずい。なんとかしないと…!)
「はっ…空だ!"ブースト"、"フライ"。柚、掴まれ!翔ぶぞ!」
俺は柚を抱えると、全力で空を跳びライトニングコースターへと翔る。
ライトニングコースターの付近、ベンチの近くには、人を消したようにポッカリと空白ができていた。
俺はベンチの近く、自動販売機の横に舞い降りる。
と、ここで二度目の銃声。
(またか!誰だ発砲してる奴は…!)
銃声はこの自動販売機の横、ベンチの近くから聞こえた。俺は自動販売機を盾にベンチを覗き込む。
そして、俺は言葉を失った。
(嘘だろ…?何でアイツが…)
背中に寒気が走りる。
「どうしたのよっ!?ちょっと。聞いてるの?」
「え、はっ…!?悪い」
袖を引っ張る柚、俺はハッとして現実に戻る。
(間違いない…あの赤髪に気迫、絶対アイツだ見間違えようがない…!)
「柚、あの赤髪の少女の少女には近づくな」
「え、分かったけど何で…」
「…それは後で説明する、いいか?絶対に近づくなよ…!近くの救助に向かってくれ」
「は、はい」
俺の普段の雰囲気との違いに感づいたのか、柚は後ろで座り込んでいる少女に向かう。
「"アクセル"」
俺は男が逃げ出すと同時に、目にも止まらぬ速さで赤髪の少女と男の間に割り込んだ。
「…っ!?」
少女は俺の気配に気づくと片足とびで距離を取る。
(いつ見ても速えぇ反応だな…)
現場は柚の救出、男の逃走により俺と少女が一対一で向かい合う形となった。
「…どうしてお前がココにいるんだよ、ファルテ」
俺は赤髪の少女に話しかける。
「あぁ?なんだよペテン野郎…」
この女の子はファルテ、俺が転移してきた異世界の国王の娘、王女様だ。
普段は紫髪でお淑やかな雰囲気で、とても可愛らしいのだが…。
「まさかここで会うとはな…死ねやっ!」
怒りの沸点を超えると、もう一つの人格が彼女を乗っ取り、髪が赤髪にに染まり暴走する。
(何でココにっ暴走姫が…って、とりあえずコイツの暴走を止めねぇとな)
暴走を止めるのは、至ってシンプル。彼女を気絶させるのだ。
(でも…この状況に陥ったファルテの一撃は…)
「死ねやっ!」
一っ飛びで俺とも距離を詰めるファルテ。
「…っ!?"プライベートシールド"」
(魔法をも凌ぐ…!)
凄ざましい轟音と共に煙が巻き起こる。ライトニングコースターの乗り込み席を吹き飛ばし、円状に波紋が広がってゆく。
俺の頬を、シールドの破片が通り一筋の血が流れる。
煙が晴れた元ベンチ付近には、バリバリに割れたシールドを構える俺と、再び距離をとったファルテの姿があった。
(痛ぇ…まさか一撃で破られるとはな。身体強化かけておいて良かった…)
「ファルテ、お前には悪いがちょっと寝て貰うぞ…!"火球"」
俺は今度は俺からと言わんばかりに手に火球を宿すと、ファルテに向かって飛ばした。
火球は全て俺が操作する。生きている生き物のように読めない軌道でファルテに襲いかかった。
「ウゼェ!」
ファルテは上空高くに飛び上がると次々と襲い掛かる火球を蹴り落とす。蹴られた火球は破裂すると飛び散り小さい花火を作る。
(魔法に体術で応戦とかバケモンかよ…!)
「まぁそれは予想済みだ。"アイシクル・スクエア"」
俺は地面に手をつけ周囲を凍結させると、飛んでいるファルテの足元に氷柱を生やす。
(氷柱の範囲攻撃…!これなら落ちたら確実に当たる!)
「…っ!?クソがっ!」
流石のファルテは意表を突かれたのか、空中で一回転すると地面に向かってパンチ。凍った地面ごと氷柱を吹き飛ばした。
(マジかよ…!)
そしてファルテは地面に着地すると同時に俺の懐に飛び込んでくる。
魔法を極めたと言っても所詮人間。
(速いっ…!?グランドファイアが間に合わないっ!)
「くっ…"インパクト"っ!」
俺はファルテが間合いに入ってくる一瞬を狙い衝撃波を生み出す。流石のファルテも受け身を取り吹き飛んでいった。
(体勢は崩れた…!攻めるなら…)
「今だろっ!"エレキバレット"!」
吹き飛んだファルテを無数の電針が襲う。
(崩れた体勢に、無数の電針…これでどうd…)
と、
「何もかも全部消えろっ!!」
突如ファルテを中心に竜巻が発生すると、電針を一つ残らず弾き飛ばす。
「何だあれ、竜巻…!?」
(今まで異世界で見てきた武道一筋のファルテの技じゃない…。何が起こってるんだ…!?)
竜巻は弱まる事も知らず、一層回転を増す。ライトニングコースターはすでに無きものと化していた。
俺はここぞとばかりに錬金術で作ったMPポーションを口に流し込む。
(初日の魔力切れを反省して、都市の材料でポーションの調合しといて良かった…)
どうやら日本でも薬草的な草がたくさんあるらしく、ポーションの材料となったのだ。
そして、完全に魔力の復活した俺は、収まった竜巻の中心に目を凝らした。
晴れた竜巻の中心にはファルテが見える。
(何だ…何が起こって…!)
「…って!?ファルテ、お前…元に戻ったのか…!」
ファルテの髪色は綺麗な紫色に戻っていた。
(暴走しすぎたせいで力を使いすぎたのか…?ってそうじゃなくて!)
「大丈夫なのか!?ファルテ!」
俺はファルテに駆け寄る。
足場のないクレーターの中を躓きながら走る。
ファルテの魔力反応が微量なことから、かなり弱っているのだろう。
「ファルテ…何でこんなこと…」
俺はファルテの元に着くと背中を支える。
小柄な体は俺の手に触れると力が抜けたように軽くなった。
「…有賀様の…嘘つき…」
そう呟くと、ファルテの首はカクンとなった。
「嘘つき…?」
俺は不思議に感じつつも、優しくファルテを包み込んだ。
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