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本編
243話
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馬車はがたごとと石畳を進む。
遠くに見えていた王宮が漸く近くなってきた頃には、ルスとライは深い眠りに落ちていた。
「凄いね、この振動と音をものともせず寝ちゃうって」
電車の揺れが眠気を誘うように、この子たちは馬車の揺れが気持ちいいのだろうか。
がたんと馬車が止まると、扉が外から開いた。
「こんにちは」
顔を見せたのは侍従の一人だった。
顔馴染みのため俺は挨拶をしたが、侍従は頭を下げるだけだった。
「リクト降りようぜ?」
リルが先に降りると、続いてレヴィ。最後に俺がレヴィの手を借りて降りた。
「お待ちしていました。王妃様がお待ちです」
静かにそう言った侍従は先にたって歩き始めた。
俺たちは慌ててそれを追いかけた。
向かった先は聖樹。
その聖樹の足元には王妃様が座り込んでいた。
「王妃様!?」
「あぁ、リクト……駄目だったわ折角実になったのに……」
王妃様が見上げた枝の先には小さくなった実が辛うじて付いているだけ。
どうして?
まだ一日も経っていないのだ。
「私では駄目だったのね……申し訳ない事をしてしまったわ」
泣き腫らした目を伏せて王妃様が立ち上がる。
汚れたドレスはきっと一睡もせずに聖樹に寄り添っていたからだろう。
「そんな……まだ聖樹は大丈夫のはずなのに」
もっと早く戻れば良かった……。
震える手で俺はそっと聖樹に触れる。昨夜のような元気は無い。
本当に最後なのかもしれない。
そう思った瞬間、聖樹の枝が小さく揺れた。
「あっ……」
まだ、生きている……けれど、俺にはどうしていいかわからないのだ。
きっと誰にもわからないのだろうけれど。
「王妃様、まだこの木は生きています、諦めないで下さい。可能性がゼロではありませんから」
まだもう少し頑張って欲しい。
希望なのだから。
俺は、どんな子でもいいのだ、王様と王妃様の間に生まれる子なら。
撫でるようにして木の幹に触れると少しずつ枝が上がっていくように見える。
「リクト、俺たちが触っちゃ駄目か?」
リルの声に振り向くと、ルスが目を覚まし手をこちらにのばしていた。
「ルス、触りたいのかな。ミラが触ったときには凄く元気になったんだよ。やってみる?王妃様」
大丈夫でしょうかと問いかけると、王妃様は静かに頷く。
「ルス、こっちにおいで?」
リルの腕からルスを受け取ると小さな小さな手が何かを掴むように開いたり閉じたりを繰り返す。
俺はしっかりと左腕でルスを抱いてルスの右手首をそっと掴むと掌をそっと聖樹の幹に触れさせた。
遠くに見えていた王宮が漸く近くなってきた頃には、ルスとライは深い眠りに落ちていた。
「凄いね、この振動と音をものともせず寝ちゃうって」
電車の揺れが眠気を誘うように、この子たちは馬車の揺れが気持ちいいのだろうか。
がたんと馬車が止まると、扉が外から開いた。
「こんにちは」
顔を見せたのは侍従の一人だった。
顔馴染みのため俺は挨拶をしたが、侍従は頭を下げるだけだった。
「リクト降りようぜ?」
リルが先に降りると、続いてレヴィ。最後に俺がレヴィの手を借りて降りた。
「お待ちしていました。王妃様がお待ちです」
静かにそう言った侍従は先にたって歩き始めた。
俺たちは慌ててそれを追いかけた。
向かった先は聖樹。
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「王妃様!?」
「あぁ、リクト……駄目だったわ折角実になったのに……」
王妃様が見上げた枝の先には小さくなった実が辛うじて付いているだけ。
どうして?
まだ一日も経っていないのだ。
「私では駄目だったのね……申し訳ない事をしてしまったわ」
泣き腫らした目を伏せて王妃様が立ち上がる。
汚れたドレスはきっと一睡もせずに聖樹に寄り添っていたからだろう。
「そんな……まだ聖樹は大丈夫のはずなのに」
もっと早く戻れば良かった……。
震える手で俺はそっと聖樹に触れる。昨夜のような元気は無い。
本当に最後なのかもしれない。
そう思った瞬間、聖樹の枝が小さく揺れた。
「あっ……」
まだ、生きている……けれど、俺にはどうしていいかわからないのだ。
きっと誰にもわからないのだろうけれど。
「王妃様、まだこの木は生きています、諦めないで下さい。可能性がゼロではありませんから」
まだもう少し頑張って欲しい。
希望なのだから。
俺は、どんな子でもいいのだ、王様と王妃様の間に生まれる子なら。
撫でるようにして木の幹に触れると少しずつ枝が上がっていくように見える。
「リクト、俺たちが触っちゃ駄目か?」
リルの声に振り向くと、ルスが目を覚まし手をこちらにのばしていた。
「ルス、触りたいのかな。ミラが触ったときには凄く元気になったんだよ。やってみる?王妃様」
大丈夫でしょうかと問いかけると、王妃様は静かに頷く。
「ルス、こっちにおいで?」
リルの腕からルスを受け取ると小さな小さな手が何かを掴むように開いたり閉じたりを繰り返す。
俺はしっかりと左腕でルスを抱いてルスの右手首をそっと掴むと掌をそっと聖樹の幹に触れさせた。
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