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4話
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パンッ。
男の左頬が鳴った。
わなわなと震える手を胸の前に握り込んで相手を睨み付ける。
私は春を売っていない。
「す、すまない…もしかして無理やりしてしまったのだろうか…それならば結婚しよう!」
叩かれた頬をものともせず男はそう口にした。
「は?結婚?」
「あぁ、そうだ。責任はとる…苦労はさせないし、そこそこ収入だってある」
この人は何を言っているのだろう…。
自分にも記憶は無いが、いきなり結婚の意味がわからない。
「貴方とこんなことで結婚などしなくていいです」
「だが…」
「それはいいとして、此処は何処なのですか?私は帰りたいのですが…」
「此処はウィルファリア王国の王都だ。俺は黄金騎士団団長のベルゴッドだ」
「ウィルファリア?騎士団?」
さっきも聞いたが、本当なのか。
外の景色を見たい。
高いビルが並ぶ高層群、電車や車などの往来。
見るものが目新しくなければこの男の言うことは間違いなのだから。
美南は男の視線を無視して寝台から降りると、引かれていたカーテンを横に開ける。
「何処…此処」
美南の眼前に広がるのは街並みだが、見慣れたビル群は全く無い。
右手には巨大な広さの建物だが、それは中世ヨーロッパのような石造りのお城に見える建物で、そこを拠点に扇状に建物が並んでいる。
見える範囲に森や湖だろうか、そのようなものもあり美南が見慣れた都会の景色では明らかにない。
ごしごしと目を擦るも、見えている景色に変化はなく、夢ではないかと両手で自分の頬を叩くも、痛みを感じて夢から覚める気配は無かった。
「嘘よ…」
「落ち着け、その格好も…」
ふわりと肩から掛けられたのは白のローブ。
男の物なのだろうか膝下にくる程裾は長くぶかぶかだ。
「どうした…この王都は初めてか?どうやって来た」
美南は頭を振る。
こんな場所に来た記憶は無い。
そもそも、こんな国も知らない。
「まさか、誘拐?」
それも、違う。
どうやって説明したらいいのだろうか。
異世界トリップという単語が頭を過る。
一時はまって読んだ小説にそんな内容が多かった。
それなのだろうか。
でも、自分はヒロインのような容姿ではないのだ。
「どうしよう…」
普段そんなことは無いのに、瞳から涙が零れ落ちる。
頭の中が情報を処理しきれていないのと、不安になったのとで大人になってから泣いた記憶が無いのにポロポロと流れ落ちる涙。
「どうした…泣くな」
柔らかな声が頭上から降ってきて、そっと優しく抱き締められた。
ローブの上からでもわかる逞しい身体。
がっしりとした筋肉と、美南よりも頭ひとつ大きな身長。
すっぽりと包まれてしまうそんな感覚に少しだけ落ち着いてきた気がした。
男の左頬が鳴った。
わなわなと震える手を胸の前に握り込んで相手を睨み付ける。
私は春を売っていない。
「す、すまない…もしかして無理やりしてしまったのだろうか…それならば結婚しよう!」
叩かれた頬をものともせず男はそう口にした。
「は?結婚?」
「あぁ、そうだ。責任はとる…苦労はさせないし、そこそこ収入だってある」
この人は何を言っているのだろう…。
自分にも記憶は無いが、いきなり結婚の意味がわからない。
「貴方とこんなことで結婚などしなくていいです」
「だが…」
「それはいいとして、此処は何処なのですか?私は帰りたいのですが…」
「此処はウィルファリア王国の王都だ。俺は黄金騎士団団長のベルゴッドだ」
「ウィルファリア?騎士団?」
さっきも聞いたが、本当なのか。
外の景色を見たい。
高いビルが並ぶ高層群、電車や車などの往来。
見るものが目新しくなければこの男の言うことは間違いなのだから。
美南は男の視線を無視して寝台から降りると、引かれていたカーテンを横に開ける。
「何処…此処」
美南の眼前に広がるのは街並みだが、見慣れたビル群は全く無い。
右手には巨大な広さの建物だが、それは中世ヨーロッパのような石造りのお城に見える建物で、そこを拠点に扇状に建物が並んでいる。
見える範囲に森や湖だろうか、そのようなものもあり美南が見慣れた都会の景色では明らかにない。
ごしごしと目を擦るも、見えている景色に変化はなく、夢ではないかと両手で自分の頬を叩くも、痛みを感じて夢から覚める気配は無かった。
「嘘よ…」
「落ち着け、その格好も…」
ふわりと肩から掛けられたのは白のローブ。
男の物なのだろうか膝下にくる程裾は長くぶかぶかだ。
「どうした…この王都は初めてか?どうやって来た」
美南は頭を振る。
こんな場所に来た記憶は無い。
そもそも、こんな国も知らない。
「まさか、誘拐?」
それも、違う。
どうやって説明したらいいのだろうか。
異世界トリップという単語が頭を過る。
一時はまって読んだ小説にそんな内容が多かった。
それなのだろうか。
でも、自分はヒロインのような容姿ではないのだ。
「どうしよう…」
普段そんなことは無いのに、瞳から涙が零れ落ちる。
頭の中が情報を処理しきれていないのと、不安になったのとで大人になってから泣いた記憶が無いのにポロポロと流れ落ちる涙。
「どうした…泣くな」
柔らかな声が頭上から降ってきて、そっと優しく抱き締められた。
ローブの上からでもわかる逞しい身体。
がっしりとした筋肉と、美南よりも頭ひとつ大きな身長。
すっぽりと包まれてしまうそんな感覚に少しだけ落ち着いてきた気がした。
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