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5話
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それから、インディーヴァラ伯爵から来た手紙は身一つで来てくれればいい。
持参金も何もいらないとのこと。
そんな破格の待遇で。
「とりあえず、ライラ……お前が必要だと思うものは全て持って行きなさい。ドレスも数着仕立てて貰うのと花嫁衣裳は伯爵と話をして仕立てるにしてもその辺はリリーも加わりたいようだ」
「お母様がですか?」
「あぁ、インディーヴァラ伯爵がどうされるかにもよるらしいが、辺境伯領だけでなく王都でも式をしたいと……クレマチス家に……ごほん」
父が言いづらそうに咳払いをした。
どうやら母はかなりのご立腹らしい。
婚約破棄後から、精力的にお茶会をしていると思えば……。
「それは、インディーヴァラ伯爵様にお伺いを立てないと。式をしない可能性もありますし……でも、そのような話は出ていないのでしょう?」
ライラックが父に問いかけると、父の眉間には皺が寄った。
婚約式もせずに結婚だと、そんなに短期間で結婚するのは貴族にとっては有り得なかった。
辺境ならば尚更だ。
何故なら、式ごとに領民に祝いを振る舞うのだから。
「でも、式をするお金を領民に使っていただきたいわ」
ライラックだって少しの花嫁としての願望があったが、そんな事を気にしてはいられない。
辺境伯領が資金繰りに難があるとも聞いてはいないが。
難があれば普通持参する持参金をあてにするのだろうが、伯爵からは持参金をいらないと言われているのはどういう事だろうか。
「ライラ、とりあえず持参金は持たせてやるが、伯爵にわたさず何か有事があった時に使っても良い。共通貨幣と貴金属、通常の持参金程度は持って行け。それと護衛騎士とメイドだな……護衛騎士は、こちらからあちらに向かう際に護衛させ、伯爵領に残りたいものと残りたくないもの着いてから選択をさせよう。
だが、辺境伯領は国境に近いからな、自警団もあると聞く……うちの精鋭でも相手になるかはわからんが」
父は色々と考えているようで、困ったように頭を抱えていた。
「お父様、私の愛馬のシルフィーは連れて行っても?」
「ん、構わぬ……だが、あの距離を歩けるだろうか……」
シルフィーは、栗毛の可愛らしい牝馬でライラックが幼い時に子馬で迎え一緒に育ってきた子だ。
それ以外にもライラックの部屋には小さな鉢に植わる植物が多数あり大きくなると株分けをしなければならない子たちもいる。
それと、家庭菜園に温室……全部、ライラックが愛を込めて育ててきた子たちなのだ。
「シルフィーに聞いてみましょうか……まだまだ現役よ!と、お父様蹴られないようになさって下さいませね!」
「それは困るな」
父は心底困ったように表情を作る。
「お父様、野菜の苗を少し……分けていただけませんか?できればあのベリーも持って行きたいです」
「構わぬが、彼の地で育つかは……」
「存じ上げておりますわ、書簡をいただいてから伯爵領の事は出来る限り調べましたもの」
何度も何度も昔から戦場となったその土地。
酸性が強い土壌で作物もそれに適したものが育つ。
「そうか、好きなだけ持って行け、持ってこなくても大丈夫だとは書いてあるが持ってきてはいけないとは書いてないからな」
好きなようにしろと父はひらひらと手を振る。
「ありがとうございます、お父様。あちらに行ってもお手紙は出しますわね?」
ライラックはまだまだやるべきことがあると、屋敷の中をうろうろとしていた。
「お待ちになって!もう、聞いていないわよ」
ライラックは朝からバタバタと走り回っていた。
インディーヴァラ伯爵家から、五日後に迎えの使いを送りますと日付の入った書簡が届いた。
書簡の日付は四日前。
その五日後と言うのは、書簡が届いてから五日後なのか書簡に記載のある日付から五日後なのか。
後者であれば、明日使いが来る事になる。
どのくらいの使いが来るのかはわからないが、明日ならば今日中に荷造りだけはしておかなければならないと、屋敷中のメイド達は上へ下への大騒ぎだ。
いや、さすが伯爵家の使用人だそれを顔には出さず黙々と作業をしている。
そもそも、あらかたライラックが指示を出してはあったため、そこまでの混乱は無かったのだが。
「あまりにもいきなりのことね……ライラ」
「お母様……」
声を掛けてくれたのは、豊かな銀の髪を艶やかに纏めシンプルなドレスを纏う母だった。
「貴方に持たせる為の貴金属は間に合わなかったわ、後日送ってあげるからそれまで私のをいくつかあげるわね?いらっしゃい」
手を掴まれぐいぐいと引っ張っていく母が向かったのは母の貴金属を仕舞う一室だった。
「何がいいかしらね?とりあえずこれは持っていきなさいな」
母が取り出したのは大粒で大きさの揃った真珠の一式。
鉱山があり宝石が採掘はできるが、真珠は海の貝から稀にとれるものでこれだけ大粒で数を揃えるとなると家が建つ。
「お母様!そんな」
「いいのよ、お父様にはもっと貰っているし、私にはもう似合わないデザインだもの……それにね、貴方がお嫁に行く時は持たせようと思っていたの」
有難いことに、ライラックの家はそこまで困窮をしていない。
むしろ、貴族の中では裕福な方でその理由は父が領地の経営に力を入れているからだった。
持参金も何もいらないとのこと。
そんな破格の待遇で。
「とりあえず、ライラ……お前が必要だと思うものは全て持って行きなさい。ドレスも数着仕立てて貰うのと花嫁衣裳は伯爵と話をして仕立てるにしてもその辺はリリーも加わりたいようだ」
「お母様がですか?」
「あぁ、インディーヴァラ伯爵がどうされるかにもよるらしいが、辺境伯領だけでなく王都でも式をしたいと……クレマチス家に……ごほん」
父が言いづらそうに咳払いをした。
どうやら母はかなりのご立腹らしい。
婚約破棄後から、精力的にお茶会をしていると思えば……。
「それは、インディーヴァラ伯爵様にお伺いを立てないと。式をしない可能性もありますし……でも、そのような話は出ていないのでしょう?」
ライラックが父に問いかけると、父の眉間には皺が寄った。
婚約式もせずに結婚だと、そんなに短期間で結婚するのは貴族にとっては有り得なかった。
辺境ならば尚更だ。
何故なら、式ごとに領民に祝いを振る舞うのだから。
「でも、式をするお金を領民に使っていただきたいわ」
ライラックだって少しの花嫁としての願望があったが、そんな事を気にしてはいられない。
辺境伯領が資金繰りに難があるとも聞いてはいないが。
難があれば普通持参する持参金をあてにするのだろうが、伯爵からは持参金をいらないと言われているのはどういう事だろうか。
「ライラ、とりあえず持参金は持たせてやるが、伯爵にわたさず何か有事があった時に使っても良い。共通貨幣と貴金属、通常の持参金程度は持って行け。それと護衛騎士とメイドだな……護衛騎士は、こちらからあちらに向かう際に護衛させ、伯爵領に残りたいものと残りたくないもの着いてから選択をさせよう。
だが、辺境伯領は国境に近いからな、自警団もあると聞く……うちの精鋭でも相手になるかはわからんが」
父は色々と考えているようで、困ったように頭を抱えていた。
「お父様、私の愛馬のシルフィーは連れて行っても?」
「ん、構わぬ……だが、あの距離を歩けるだろうか……」
シルフィーは、栗毛の可愛らしい牝馬でライラックが幼い時に子馬で迎え一緒に育ってきた子だ。
それ以外にもライラックの部屋には小さな鉢に植わる植物が多数あり大きくなると株分けをしなければならない子たちもいる。
それと、家庭菜園に温室……全部、ライラックが愛を込めて育ててきた子たちなのだ。
「シルフィーに聞いてみましょうか……まだまだ現役よ!と、お父様蹴られないようになさって下さいませね!」
「それは困るな」
父は心底困ったように表情を作る。
「お父様、野菜の苗を少し……分けていただけませんか?できればあのベリーも持って行きたいです」
「構わぬが、彼の地で育つかは……」
「存じ上げておりますわ、書簡をいただいてから伯爵領の事は出来る限り調べましたもの」
何度も何度も昔から戦場となったその土地。
酸性が強い土壌で作物もそれに適したものが育つ。
「そうか、好きなだけ持って行け、持ってこなくても大丈夫だとは書いてあるが持ってきてはいけないとは書いてないからな」
好きなようにしろと父はひらひらと手を振る。
「ありがとうございます、お父様。あちらに行ってもお手紙は出しますわね?」
ライラックはまだまだやるべきことがあると、屋敷の中をうろうろとしていた。
「お待ちになって!もう、聞いていないわよ」
ライラックは朝からバタバタと走り回っていた。
インディーヴァラ伯爵家から、五日後に迎えの使いを送りますと日付の入った書簡が届いた。
書簡の日付は四日前。
その五日後と言うのは、書簡が届いてから五日後なのか書簡に記載のある日付から五日後なのか。
後者であれば、明日使いが来る事になる。
どのくらいの使いが来るのかはわからないが、明日ならば今日中に荷造りだけはしておかなければならないと、屋敷中のメイド達は上へ下への大騒ぎだ。
いや、さすが伯爵家の使用人だそれを顔には出さず黙々と作業をしている。
そもそも、あらかたライラックが指示を出してはあったため、そこまでの混乱は無かったのだが。
「あまりにもいきなりのことね……ライラ」
「お母様……」
声を掛けてくれたのは、豊かな銀の髪を艶やかに纏めシンプルなドレスを纏う母だった。
「貴方に持たせる為の貴金属は間に合わなかったわ、後日送ってあげるからそれまで私のをいくつかあげるわね?いらっしゃい」
手を掴まれぐいぐいと引っ張っていく母が向かったのは母の貴金属を仕舞う一室だった。
「何がいいかしらね?とりあえずこれは持っていきなさいな」
母が取り出したのは大粒で大きさの揃った真珠の一式。
鉱山があり宝石が採掘はできるが、真珠は海の貝から稀にとれるものでこれだけ大粒で数を揃えるとなると家が建つ。
「お母様!そんな」
「いいのよ、お父様にはもっと貰っているし、私にはもう似合わないデザインだもの……それにね、貴方がお嫁に行く時は持たせようと思っていたの」
有難いことに、ライラックの家はそこまで困窮をしていない。
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