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2章

1話

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「陛下どうされましたか?」
眉間に皺を寄せたカイルが小さく溜め息を吐いた。
此処はアルーディアの王の執務室だ。
その長椅子に腰掛けたまま、国王であるカイルは困ったように天井を見上げて目を伏せた。
溜め息の理由は最近どうも隣国と色々とあるようで、悩みの種は尽きないようだ。
視線をこちらに戻したカイルが手招きをする。
「フィナシェからの使者が交易の事で色々とあってな」
「そうですか。香辛料の取引ですか?」
「それもあるが、フィナシェの王が代替わりをするらしい」
アルーディアの王都から砂漠を抜けて馬で十五日、国境を抜けた先にそのフィナシェがある。
フィナシェの国境近くはアルーディアと似て砂漠に近いが、そこからフィナシェの王都までは草木が茂る。
「それで、何が書いてあったのでしょうか」
「私とテトに式典の参加をして欲しいのだと。そして召喚の儀式も一緒にするようだ」
カイルが大袈裟な溜め息を吐いて見せる。
「テトこちらへ」
椅子に座ったまま自分の膝をぽんと叩いたカイル。
その膝へそっと座る。
「どうするの?」
陛下から、伴侶の顔になるカイルを軽く見上げるようにして問い掛ける。
ミリシャを置いていくことになるが、それは公務なら仕方ない。
聞き分けが良くなっているから大丈夫だろう。
それより気になるのは【召喚の儀式】という言葉。
「テトの過去があるから、不思議な力が働くことは知っているが、大々的に儀式をするなどとアルーディアでは考えられない……だが、それは他国の事だからな下手に干渉できない」
「それって、成功するの?召喚されるのは、やっぱり人なんだよね?」
「その筈だが、何とも言えない……アルーディアにはそんな儀式は無いからな」
困ったなとカイルが自分の顎を撫でる。
これはカイルが考え事をするときの癖で、今は静かに脳がフル回転しているのだろう。
「その儀式に俺たちも参加しなきゃダメなのかな」
召喚する方よりもされる方の気持ちを気にしてしまうのは自分がそういう思いをしたからなのだ。
カイルもそれをわかっている。
「嫌なら即位の儀式にも欠席で構わない。まだ日はあるからゆっくりと考えよう」
心配するな。
そうカイルが抱き締めてくれる。
優しい腕の中に身体を預けて俺は小さく頷いた。


☆☆☆☆☆☆☆

2章、他国のお話にしてみようかとプロットを練っていますが、プロローグで1章の主人公に出て貰いました。
反響があれば続きを書くかもしれませんので、ご意見等いただければ嬉しいです。
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