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2章

2話

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フィナシェの王宮では、式典の為にざわざわと人が動いていた。
怒鳴り声までは聞こえないが、忙しさと暑さの為か若干殺気だっている。
「カミーユ様、こちらへ。この錫杖を持って中央の座に立ってください。魔方陣が発動しますのでそれで召喚の儀式が終わります」
司祭がそう告げる中、カミーユと呼ばれた鍛えられた体躯の男は気だるげに顔を上げた。
「どうせやったって召喚できる奴なんていねえだろう……」
この国では、予め用意された花嫁が魔方陣の中に現れる事になっているのだ。
それが誰かなどわかっている。
かなりの高確率で大臣の娘か、宰相の娘だろう。
どちらが来てもそれ以外でも大差無い。
王の仕事は世継ぎをつくり、血を繋ぐこと。
召喚の儀に現れし人間と国を統べ繁栄に導くことが王の勤めなのだから。
だから、恋人などいなかった。
別れなければならないのなら、最初から居ない方がましだと作ることをしなかった。
「あぁ、わかった」
形だけでも整えたい司祭に生返事をしてからカミーユは錫杖を受け取った。
カミーユの持った重い錫杖は何かの枷のように感じられて、苦笑をしながら握り締めた。
王になる覚悟も、嫁を娶る覚悟もできている筈だった。
王となり伴侶を得ることは、素晴らしい事なのだろう。
数年前、隣国のアルーディアには竜神の加護をもつ巫女が遣わされ、王はその巫女を伴侶とし国を繁栄に導いていると聞いた。
フィナシェはアルーディアのように砂漠の中にあるわけでもなく、水が少ない土地でも極端に暑い土地でもない。
だが、育つ作物は何故か同じで他国から輸入する作物はなかなか育たない。
品種改良は数10年かけて漸く出来るか出来ないか。
アルーディアが買ってくれるスパイスと穀物は交易の中心だ。
他の国とも国交はあり、定期的に輸出入があるがアルーディアが最近は良い方向に変わりつつあると聞く。
それが羨ましいと思っていたが、それは本当にそう思ったのだろうか。

アルーディアの国王と王妃は、国を良い方向へと導くだけでなく互いに愛し合い良い絆を育んでいっているらしい。
そんな相手に出逢うことを望んではいけないのだろうが、そうであればこれからの人生は楽しく生きる事ができるかもしれない。
突拍子もない考えに至り、カミーユは苦笑を浮かべて頭を振った。
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