上 下
30 / 57
1章

145話

しおりを挟む
「アスミタ、ミリシャにこちらへ来るように伝言をお願い」
俺はアスミタに頼む。
軟らかなピンクの髪を結い上げているアスミタは、畏まりましたと頭を下げてから踵を返す。
パタンと閉まった扉を見つめてから俺は息を吐き出した。
体調が悪い。
竜神の加護を貰っているはずなのに。
それをカイルは知っているから、やはり心配を掛けているのだろう。
だけど、特に竜神は何も言っていなかったから加護がどうにかなった訳では無いのだと思う。
俺は手元の地図を見る。
今いる場所から、離れた場所に書かれたバツ印。
離宮。
バルナがあった証の遺跡が残る場所。
そこへそっと指で触れた。
地図上では何ともない距離が、馬で行くと数日かかる。
まだ、この地には水がない。
だから、竜神も居ないのだ。
花が咲き草が根付いてはいるのだが。
いつか昔のようになって賑わいを取り戻して欲しいとは思うけれど、俺には祈ることしかできないのだ。
「テト様、ミリシャ様が間もなくいらっしゃいます」
「うん、ミリシャに果実水と焼き菓子があれば少し用意をして?」
「こちらに」
戻ってきたアスミタは、既にミリシャを迎える準備万端だった。
しかも、一緒に来るであろう双子の分まで完璧だ。
「お母様、ミリシャです」
「入りなさい」
扉へノックがあり、可愛らしい声がかかる。それへ応答すると扉が静かに開いた。
入ってきたのはミリシャと双子。
ただし、双子は竜神の姿だった。
『テト、なんじゃ』
『かかさま、戻ったか』
「ミリシャまずは座りなさい」
ミリシャを座らせると、手をのばし空中に浮く双子にそっと触れた。
青みが強い竜神にはニイラ、緑が強い竜神にはリュイとミリシャが名付けた。
「おはようございます、ニイラ、リュイ。焼き菓子を用意してありますのでどうぞ」
きっと、ミリシャとの食事の時に食べているだろうがまだ食べるか聞いてみる。
食べなければおやすみの時間になるだろう。
『うむ、焼き菓子より我は冷たいものを所望する』
『我も』
そう言った二人の前に運ばれてきたのは美しく固めたられたゼリー。
流石アスミタぬかりない。
双子はそれぞれ人型となり、ソファーとローテーブルに用意されたゼリーを食べにそちらに座った。
「ミリシャ、双子と王都の竜神様以外の竜神様に会いたいと思う?」
俺は端的に問いかける。
ミリシャは言ったことが直ぐに理解ができなかったのか首を傾げた。
「前からお話しをしていますが、王都以外の都市で水がある場所には大小の竜神様がいらっしゃるのですが、ミリシャに合うなら王都に集まってもいいとのこと。ミリシャはどうしたい?」
本当はミリシャに聞く必要は無いのだ。
竜神様が来てくださると言っているのが優先なのだから。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ほろ甘さに恋する気持ちをのせて――

恋愛 / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:17

ラグナロク・ノア

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:3

1人の男と魔女3人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:1

狂愛アモローソ

BL / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:5

異世界に転生したら王子と勇者に追いかけられてます

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,584

文化祭

青春 / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:1

不撓不屈

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:1,739pt お気に入り:1

ホロボロイド

SF / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:0

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。