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26話

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「ベル…でも…」

できるだけ関わりあいたくない。

「気づかなかったふりでどうぞ」

ベルナルドが引いてくれた入口の扉。
中に入ると、其処は可愛らしく飾られたお店だった。
丸い4人がけのテーブルには白いレースのテーブルクロス。
茶色の落ち着いた雰囲気の椅子。
テーブルの中央には小さな器に小さな花束。
女性が喜びそうな内装だ。

「いらっしゃいませ」

若い店員が迎えてくれて、ベルナルドが席を指定する。
あのふたりを見ることができても、見られにくい席。
ベルナルドが椅子を引いてそこにフェンリエッタは腰掛ける。
丁度、観葉植物で見えにくくなっている。
見えはせずとも声は聞こえる。
キャッキャッという声はマリアのものだ。

向かい合うではなく、隣に座る紳士に腕を絡めてしなだれかかる。
これは流石にあのボンクラ王子に伝えなければならないだろうか。
いや、今さらあれがどうなろうと知ったことではない。
店員にケーキと紅茶をお願いした。
ベルナルドは珍しくコーヒーを頼んでいる。

「ベルはコーヒーが好き?」
「えぇ、香りが好きなので、頼んでしまいますね」

それにしても、耳障りな高音だこと。
フェンリエッタは小さく溜め息を吐いた。
自分が話が得意ではないため、あれだけ矢継ぎ早に言葉が出てくるのは少し羨ましくもあるが、同じ性別の人間としてかしましく聞いていて不快になる。
それはベルナルドも同じようで。

「お待たせしました」

店員が持ってきた紅茶に1つだけ砂糖を落として口をつけた。
鼻に抜ける香りを楽しんでから、小振りなフルーツケーキにフォークをいれる。
甘さも風味も申し分ない。

「いかがですか?」
「美味しいわ、ベルは来たことが?」
「いえ、美味しいという噂でしたから…フェンと来られて良かった」

コーヒーの香りが香ばしい。
暫くお茶を楽しんでいたが、あちらのふたりが立ち上がり店を出ていこうとこちらのテーブルの脇を通り視線が合った瞬間、あちらが立ち止まってしまう。

「なっ…」
「ごきげんよう、ヒュアキントス様」

身分の高い方から。
だから、挨拶をしてあげましょう。目が合ってしまったのだから。
男性の腕に抱き付いたマリアは、慌ててその手を解いた。
男性はどうしたんだよ、知り合いか?等と聞いている。

「そちらの方は初めましてですわね、フェンリエッタ・ゲンティアナと申します」

立ち上がり礼をする。
自分の記憶に無いということは、彼は貴族ではないのだ。
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