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桃園の昼顔
悍気(1)
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コニーと大雑把に今後の話をしたあと、最後まで後回しにしていた娼館を回ることにした。
何故後回しにしていたかと言えば……
この見世にいるのは娼妓ではなく、色子と呼ばれる男性、すなわち男娼なのだ。
そして、僕はなぜかそういう趣味を持つ人にはとても美味しそうに見えるらしく......顔役たちの嘗め回すような視線が心の底から気持ち悪い。
顔だけ見れば間違いなくコニーの方が整っていると思うんだけど、なぜか僕にばっかりそういう視線を送られるのも全くもって腹立たしい。
とは言え、あちらも仕事だ。
監査に来た警邏騎士相手に本気で喧嘩を売るつもりの人はまずいない。
あくまで際どい冗談程度ですむ範疇で迫ってくるので、こちらも笑って受け流すようつとめている。
……笑顔が引きつっていないかどうかはあまり自信がないが。
「いや、君みたいな可愛い子が騎士なんてもったいないね。
やれ訓練だ任務だで、その綺麗なお肌に瑕がつくと思うと残念でたまらないよ。
どうだい?うちで働いてみない?」
「いや、こんなむさ苦しい奴につくお客なんていませんよ。
冗談とはいえ、そんなに人手不足なんですか?」
「実はそうなんだ。
なぜか最近妙に見習いがいつかなくてね。
まぁ、覚悟を決めてこの街に来たつもりでも、水揚げ目前になったりお座敷に補佐で入るうちに怖くなって逃げちゃう子って珍しくもないんだけどさ。
芸を磨くのも床の相手をするのもキツイのはわかるけど、ここまで新入りがいつかないのは珍しくて……最近の子供は肝が小さいね」
とても冗談とは思えない熱の籠ったお誘いに引きつった愛想笑いで返すと、意外にも真顔で返事が返って来た。
思わずといった風情で嘆息する娼館主の表情を見るに、どうやら本当に困っているらしい。
この街の見習いや下働きは、まだ客も取れないような幼い子供たちばかりだ。
いずれ訪れるはずの、僅かな金のために望まぬ相手に身体を開かされる未来を、おぞましく感じて逃げたくなる気持ちは痛いほどによくわかる。
しかし、逃げた先に待っているのはもっと悲惨な未来だ。
ほとんどの子はそれを骨身に染みて知っているから、よほどの事がない限り、そう簡単に逃げたりはしない。
それでも逃げてしまう子が後を絶たないのも否定はしないが、いくらなんでも数が多すぎる。
男娼も見習いの行方不明が相次いでいるとなれば、やはり単なる足抜けとは考えにくい。
「他の娼館も禿の足抜けが相次いでるようですが、ご存じですか?」
「それは初耳だね。
娼妓や色子の足抜けは見世の恥だから、あまりみんな表に出したがらないんだ。
君、よく気が付いたね」
「どこも人手が足りてないようなので。
色々聞き込んでみたら、あちこちの見世でこのところ足抜けがやけに多いと言われたんです。
もしかするとただ逃げた訳ではないかもしれないので、帰投したら上司に報告しておきますね」
「それはありがたいな。
もし事件に巻き込まれているなら助けてやってほしい」
「もちろんです。
行き場のない、弱い子供たちを食い物にしている輩がいるなら、絶対に厳しく取り締まらないと。
もし気になる事や気付いたことがあったら連隊本部にお知らせください。
僕がいなければ伝言を残すか、第2中隊長にお伝えいただければすぐご対応しますので」
この街で働くような子供は、見世を出てしまえば行き場がない。
ほとんどが貧困から親兄弟に売られてきた子で、残りはこの街の娼妓が産んだ子だ。
そういった何の後ろ盾のない子供が悪党に出くわてしまったら、誰の助けも得られぬままただ搾取されるだけだ。
「前言撤回するよ。
君みたいな子が警邏にいてくれて本当に良かった。
これからよろしく頼むよ」
とりあえず、この人は協力者になってくれそうだ。
こうやって少しずつ信頼関係を築いて、ゆっくりこの街の抱える問題を1つずつ解決していこう。
コニーと大雑把に今後の話をしたあと、最後まで後回しにしていた娼館を回ることにした。
何故後回しにしていたかと言えば……
この見世にいるのは娼妓ではなく、色子と呼ばれる男性、すなわち男娼なのだ。
そして、僕はなぜかそういう趣味を持つ人にはとても美味しそうに見えるらしく......顔役たちの嘗め回すような視線が心の底から気持ち悪い。
顔だけ見れば間違いなくコニーの方が整っていると思うんだけど、なぜか僕にばっかりそういう視線を送られるのも全くもって腹立たしい。
とは言え、あちらも仕事だ。
監査に来た警邏騎士相手に本気で喧嘩を売るつもりの人はまずいない。
あくまで際どい冗談程度ですむ範疇で迫ってくるので、こちらも笑って受け流すようつとめている。
……笑顔が引きつっていないかどうかはあまり自信がないが。
「いや、君みたいな可愛い子が騎士なんてもったいないね。
やれ訓練だ任務だで、その綺麗なお肌に瑕がつくと思うと残念でたまらないよ。
どうだい?うちで働いてみない?」
「いや、こんなむさ苦しい奴につくお客なんていませんよ。
冗談とはいえ、そんなに人手不足なんですか?」
「実はそうなんだ。
なぜか最近妙に見習いがいつかなくてね。
まぁ、覚悟を決めてこの街に来たつもりでも、水揚げ目前になったりお座敷に補佐で入るうちに怖くなって逃げちゃう子って珍しくもないんだけどさ。
芸を磨くのも床の相手をするのもキツイのはわかるけど、ここまで新入りがいつかないのは珍しくて……最近の子供は肝が小さいね」
とても冗談とは思えない熱の籠ったお誘いに引きつった愛想笑いで返すと、意外にも真顔で返事が返って来た。
思わずといった風情で嘆息する娼館主の表情を見るに、どうやら本当に困っているらしい。
この街の見習いや下働きは、まだ客も取れないような幼い子供たちばかりだ。
いずれ訪れるはずの、僅かな金のために望まぬ相手に身体を開かされる未来を、おぞましく感じて逃げたくなる気持ちは痛いほどによくわかる。
しかし、逃げた先に待っているのはもっと悲惨な未来だ。
ほとんどの子はそれを骨身に染みて知っているから、よほどの事がない限り、そう簡単に逃げたりはしない。
それでも逃げてしまう子が後を絶たないのも否定はしないが、いくらなんでも数が多すぎる。
男娼も見習いの行方不明が相次いでいるとなれば、やはり単なる足抜けとは考えにくい。
「他の娼館も禿の足抜けが相次いでるようですが、ご存じですか?」
「それは初耳だね。
娼妓や色子の足抜けは見世の恥だから、あまりみんな表に出したがらないんだ。
君、よく気が付いたね」
「どこも人手が足りてないようなので。
色々聞き込んでみたら、あちこちの見世でこのところ足抜けがやけに多いと言われたんです。
もしかするとただ逃げた訳ではないかもしれないので、帰投したら上司に報告しておきますね」
「それはありがたいな。
もし事件に巻き込まれているなら助けてやってほしい」
「もちろんです。
行き場のない、弱い子供たちを食い物にしている輩がいるなら、絶対に厳しく取り締まらないと。
もし気になる事や気付いたことがあったら連隊本部にお知らせください。
僕がいなければ伝言を残すか、第2中隊長にお伝えいただければすぐご対応しますので」
この街で働くような子供は、見世を出てしまえば行き場がない。
ほとんどが貧困から親兄弟に売られてきた子で、残りはこの街の娼妓が産んだ子だ。
そういった何の後ろ盾のない子供が悪党に出くわてしまったら、誰の助けも得られぬままただ搾取されるだけだ。
「前言撤回するよ。
君みたいな子が警邏にいてくれて本当に良かった。
これからよろしく頼むよ」
とりあえず、この人は協力者になってくれそうだ。
こうやって少しずつ信頼関係を築いて、ゆっくりこの街の抱える問題を1つずつ解決していこう。
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